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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(4)

第一章 事業協力社の選考まで

2. 2014年11月ー2015年9月        建替推進決議承認まで

2)勉強会と建替推進決議まで

 より多くの区分所有者とのコミュニケーション及び情報の共有のためマンション再生に関する勉強会を定期的に開催する事になった。

(1)第一回 2015年2月

現状認識(耐震診断結果及び予定される大規模修繕のコストと増加する組合員の負担)
 2006年に実施された第2次耐震診断の結果を実施したユニヴァーサル設計者より説明を受け、イトーピア浜離宮の地震に対する脆弱性を再認識した。診断結果のIs値の最低は0.32(合格値0.60)であり、2011年の東日本大震災は言うに及ばず、1995年の阪神・淡路大震災と同規模の地震にて倒壊の危険性がある事を認識。耐震診断報告書は単に当時の耐震基準だけの問題ではなく、施工上の問題点も示唆していた。施工会社は誰もが知っているトップクラスのゼネコンであるK社であった。K社が2007年という早い時期に建替を提案して来たのは自らが施工した建物の欠陥を知っていたからかも知れないと想像した。K社を施工不良で訴えることはできないか専門家に相談したが、残念ながら必ずしも施工不良とは言えないと判断された。
マンション再生手法について
 +耐震補強については勉強会の直前に長谷川工務店が梁による補強の代わりに外壁を厚くする事により耐震性を向上させる新技術を発表した。もしこの技術が適用できれば免震補強よりもコスト的には優れたものになり、かつ外見もそれほど影響を受けなさそうで、かなり有望な手法になると判断。勉強会にて説明を受けるべく、情報交換したが、残念ながら、説明会ではイトーピア浜離宮ではIs値が低過ぎこの新工法では耐震性を十分補強できないとの報告を受けた。
 +免震改修では建築専門家である理事より東京駅の免震改修の方法とMS社(ゼネコン)の免震改修の工事提案書の詳細の説明を受けた。
 +予定される大規模修繕のコスト研究
(経済)環境の変化の説明
 +東京オリンピック誘致決定と竹芝ステップアッププロジェクトの決定
 +建築費の高騰とそれを補う都心部のマンション価格高騰。
 +エレヴェーターを専有面積から除外と最低駐車場台数の減少。(建築基準法改正)

(2)第二回 2015年4月 
マンション再生三手法のメリット、デメリットの比較検討


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+建替費用 : T社(コンサル)の昨年の提案をベースに計算。
従前資産評価241千円/坪 X (100-還元率86%) =33.7万円/坪となる。
この段階では建替が最も経済的と言える。ただし、実際には次の様な費用が必要となる。
+増床費用 建替後の部屋の最低面積は25m2になり、最小の1Rの場合には5m2の増床が必要となり、5x279x0.3025=422万円が必要。
40m2以上の1LDK,3LDKは増床は義務ではない。
+更に建替の場合は引越し、最低3年間の家賃などの費用が必要。

 建替費用は部屋の大小によりそれぞれ費用が異なり、一概には言えないが引越し、家賃を考えれば20m2の1ルームの場合は900万円近い費用が必要になると考えられた。
 しかし、建替を考える場合、経済的に有利不利の判断をするには(現在のマンションの市場価値+建替に必要な費用)(建替後のマンションの資産価値)との比較をしなければならない。当時はオリンピックの招致も決まり不動産市場が上昇を始めていた時期でもあり、殆どの勉強会参加者が建替を支持した。建替に必要な資金は2010年に提案されたNF社(デヴェ)のそれと比較し、それほどの有利さを持ったものでは無い。しかし、当時は見向きもされなかった建替が今回は多くの人の関心を引くのはリーマンショックの2010年とオリンピックが決まった後の2015年では、市況回復により建替後に想定されるマンションの資産価値が大きく向上したためであろう。
 勉強会は初心に帰り、耐震補強、免震改修についても時間を割いたが、これらのマンション再生手法への興味は一部の建替反対論者を除けば盛り上がることはなかった。

(3)第三回 2015年6月 建替提案の発表

 本来はもっと時間を掛けて再生問題全般について勉強会を重ねるつもりであったが、2回の勉強会の結果、ほとんどの参加者の意見が建替推進であることがわかり、それであるなら時間を無駄にすべきでない、建替議論を更に深化させるべきと判断し、デヴェロッパーを招待し、話を聞く事にした。
+建替事業に参加の意思表示をしていた前回の提案者であるT社(コンサル)とタッグを組んだMJ社(デヴェ)、AK社(デヴェ)、東京建物、TK社(デヴェ)の建替提案の紹介。特にTKには個人的なアイデアであった、増床部分をホテルとして販売すべく住戸+ホテルを提案してもらった(残念ながら、この案は後に十分な容積割増を受けられないことより没となった。)。
+提案の完成度は各社まちまちであったが、この時点での提案には経済条件は含まず、提案のコンセプトの紹介が中心であった。しかし来たる建替提案コンペへの参加表明として意義があった。

3)事業協力者選考に関する考察

 理事長になってからは、積極的にデヴェロッパーが主催する建替問題のセミナーに参加し、デヴェロッパーとの面談を重ねた。その結果、6月の第三回勉強会の前には上述の4社より建替提案(経済条項は含まず)を受けるまでに至った。建替推進決議は通らなかったものの議決権行使者の80%が建替推進に賛同していると言う事実はデヴェロッパーの信頼を得て、真摯な提案を引き出す事に繋がったのは幸いであった。

 また、4社より提案を受けられた事は今後の進め方を決定する上で重要な事実となった。知識、経験、資力と何も持たない管理組合が建替事業を推進するには外部パートナーの協力が不可欠である。また、パートナーの選択は競争原理の導入のためには公募による選考が必須と考えた。パートナーの候補はコンサル、デヴェロッパー、建設会社である。
 前年の建替推進では、まず、コンサルを決め、コンサルが提案を作り、公募によりデヴェロッパーを選択すると言う手法であった。しかし、コンサルには色々なタイプがあるようで、コンサルを同じ条件で比較するのは困難であり、かつ、コンサルの実力を評価する方法も能力も我々には無く、コンサルは公募には適さないとの判断もあった。T社(コンサル)の提案はデヴェロッパーの提案と比較すれば、経済条件は別にして、建物の設計、コンセプト等提案作成上の総合的な能力では見劣りがした。また、一旦コンサルが提案を作成し、その条件の下でデヴェロッパーを公募し選考した場合はそれ以降は競争原理が働かず、提案の改善は困難であろう。また、我々がコンサルに求めるものは、デヴェロッパーを決めた後、中立的な立場でデヴェロッパーとの交渉をサポートしてくれたり、手間隙のかかる無関心もしくは連絡の取れない権利者を探し、説得し合意形成をサポートしてくれることであろう。このように考えるとまず、事業の核となるデヴェロッパーを公募で選考し、デヴェロッパーをパートナーとした上で、コンサル、建設会社を公募する手法を最善と判断した。公募の方法として、経済条件を含む建替え提案コンペによりデヴェロッパーを選考することが最善と判断した。そのために、より多くのデヴェロッパーに参加してもらうため、第三回勉強会で紹介した4社以外にも、建替事業に力を入れ、専門の部署を設置しているデヴェロッパーを選び、面談を重ね、提案の提出を依頼した。

4)臨時総会の開催と建替推進決議

 以後の建替推進の重要なイヴェントとなる建替提案コンペに参加してくれるデヴェロッパーの目途が立ったこと、また、これ以上の建替推進を進める為には建替推進決議が必要であること、更に、予想される作業の量の増加に対応するには理事会の組織では限度があり、新しい組織として建替推進委員会を設立する必要があると判断し、建替推進決議と建替推進委員会の設立の承認を得るため2015年9月に臨時総会を開催した。11月の総会を待たずに臨時総会を開催したのは、スピードを重視し、少しでも早く前に進みたかったからであった。無事、両議案とも承認され、以後は建替推進委員会が理事会の依頼を受け建替事業を推進する事になる。小生は、管理組合理事長と建替推進委員長を兼務する事になった。
 昨年の総会では建替推進決議をT社(コンサル)の希望により3/4の賛成が必要な特別決議案として上程した。しかし、臨時総会では建替推進決議は規約に基づき通常議案として、過半数の賛成で承認とした。これには、反対派から前回より承認のハードルを下げたとして批判を受けた。この批判は予想していたが、T社(コンサル)のケースとはすでに述べたように背景が異なり、不要なリスクを負う必要は何もなかったのである。

 ここで、2014年7月のアンケート調査、11月の総会での建替推進決議、2015年9月の臨時総会での建替の賛成、反対票の推移を見てみる。

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注)%①は区分所有者総数との割合。%②は議決権行使者との割合。

 それぞれ、実施した時の状況が異なり、単純な比較はできないが、評価すべき点はまず、議決権行使者(アンケート調査ではアンケート回答者)の増加である。90%(250/277x100=90.25) 以上の参加率は前回より6%の増加である。これは勉強会や電子掲示板での意見交換の結果、より多くの区分所有者の関心を引く事ができたと評価した。しかし、それよりも臨時総会開催のための議決権行使書の収集や会議の準備をしていただいたマンションの管理人さん及び、管理会社の担当者のおかげであろう。返事のない区分所有者には何度も催促をして頂いた。彼らは建替が決まれば、客を失い、最悪の場合は職を失うかもしれなく、建替とは利害が相反する人たちである。にもかかわらず、また、これらの余分な業務にも拘らず、真摯に協力して下さった。感謝、感謝である。彼らの協力が無ければこれだけの議決権行使書は集まらなかったであろう。(しかし、合意形成のためには全ての権利者の参加が必要であるが、あと10%の権利者とのコミュニケーションが非常に困難である事も理解でき、彼らと如何に接触するかが今後の課題になる事と考えた。)

 次に、建替に対する反対賛成の推移を見ると(%②)明らかに賛成者が増えており、よりイトーピア浜離宮の状況(耐震性能問題)と建替の合理性が認識された結果として、これまでの理事会の活動が評価されたものと考えた。
以上

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