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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(5)

第一章 事業協力者の選考まで

3. 2015年10月−2016年6月        建替提案コンペの開催

1)今後の課題

 建替推進決議承認迄は順調に進んできたが、これまでの経過を振り返り、合意形成に向けた課題を掘り下げる。

(1)建替推進決議の棄権者の分析

 今回の臨時総会では議決権行使は管理人さんたちの働きのお陰で90%以上に上り、おそらく、このマンションの管理組合の歴史上、最も参加者が多かっただろう。しかし、合意形成のためには90%で満足しているわけにはいかない。まだ、10%もの人達が無関心なのだと言う認識が必要だ。管理会社や管理人さん達の協力を得て棄権者の分析を試みる。
(外国籍所有者)
 調べてみると香港、台湾国籍の所有者が10名存在し、これは全所有者の3.6%にあたる。また、複数戸所有の権利者がおり、議決権数においては4.5%にあたる。この内の最も大口の所有者にはE-mailにて連絡を取ることが出来た。コミニュケーションはそれほど困難ではない。しかし、日本語は通じず、今後、建替提案書の翻訳等々合意に向けた作業では管理組合や建替推進委員会では難しいだろうと思われた。事業協力者との共同作業になるだろう。
(不動産仲介業者Rの妨害)
 上記の外国籍所有者の多くは館内に事務所を構える不動産業者Rに管理を委託している。全ての管理組合からの連絡は契約上、Rを通さなければならない事になっている。建替推進に関する情報は一切、海外の権利者には伝わっていないことは分かっていた。建替が実現すれば、彼らは事務所を失い、業務に大きな影響を受ける事になり、建替に反対する気持ちはよく分かる。また、海外の所有者だけでなく、国内のR経由賃借契約を結んでいる所有者に対し建替に反対する様、説得をしていた。今回の臨時総会でも海外の所有者の議決権行使書の署名を偽造し提出していた事が判明している。これらの議決権は無効にしたが、反対から棄権になるだけで賛成が増えるわけでは無かった。Rは外国籍の所有者だけ無く、国内所有者にも少なからぬ影響を持っており、R対策は重要課題となる。
(その他の棄権者)
 4%の棄権者は判明したが、他の棄権者に関しては一人一人調査の上、対策が必要だ。相続が発生し、相続者が複数になり、誰が代表者かわからないケース、認知症を発病した人、単純に不精な人、無関心な人、上述のRに影響されている人等々。

(2)建替反対者の分析

(高齢の居住者)
 居住者には高齢者が多い。大半の人達は建替に賛成だが、5名の高齢女性、1組の高齢夫婦が反対されているのが最大の問題だ。彼らは余生をのんびり過ごしたい。環境の変化と言う、望んでもいない苦労などしたくない。地震は怖いが、それより建替に伴う苦労の方がよっぽど耐え難い。このような気持ちは痛いほどわかる。損得の問題や理屈の問題でもない。説得は困難だ。誰にも彼等を不幸にする権利はない。満足はして貰えなくても納得してもらえる様な提案、対応が考えられるだろうか。この課題が解決できなければ建替は成立しない、いや、成立させられない。最も重い課題だ。
(その他の反対者)
 反対者の中には建替の実現性に疑問を持つ人、時期が適正でないと考える人、他の地震対策が良いと考える人、経済的に不安を持つ人。これらの権利者たちを説得するにはこれまで以上に皆さんに納得してもらえる建替提案を作る事だろう。
 
 以上、今後の建替推進に向けた大きな課題は分かったが、いずれも短期間で解決できる問題では無く、事業協力者のサポートを得て時間を掛けて取り組むべき問題である。当面は事業協力者の選考のため、建替提案コンペの開催に全力を尽くす事にした。

2)建替提案コンペ募集要項の作成準備

(1)建替推進委員会の発足

 10月よりは理事会ではなく、建替推進委員会が主体となり、建替を推進することとなる。その活動において重視した原則は
①スピード
②競争原理の導入。
③透明性の維持。
④公平性の維持。
⑤マンション居住者の意向の重視。
である。これまで理事会では月に一度の会合であったが、建替推進委員会では最低月2回の会合を持ちスピードを重視した。推進委員会では理事会役員の兼任を含む13名の区分所有者が委員として活動を引き受けてくれた。(のち、二名の委員が健康問題により退任、一名が補充された。)建替推進委員会ではまず第一段階として全ての過程で最も重要なステップとなる建替共同事業者となるデヴェロッパーの公募による選考を最優先課題として活動を始める。

(2)建替提案募集要項作成の準備

 2015年内は、建替推進委員の勉強のため、コンペ参加予定のデヴェロッパーより紹介を受けた建替マンションの理事長と面談し、体験談を通して成功事例を研究すること、そして、建替提案コンペの募集要項を作成しデヴェロッパーへのコンペ参加要請を行う事に専念した。

(建替成功事例の研究)
 成功事例の勉強会ではIT社(デヴェ)のエビスマンション、MJ社(デヴェ)の上野同潤会、東京建物のハイツ駒込、TK社(デヴェ)の二子玉川第一スカイハイツの理事長と面談した。

+エビスマンションでは銀行がコンサルを紹介し、コンサルと共に建替を推進したが、事業協力者を公募によりコンサル、デヴェロッパー3社計4社より選考。結果はコンサルの提案が選ばれ、コンサルがIT社を指名した。

+上野同潤会の場合は管理組合がコンサルと契約し、老朽化の現状の把握と再生方法の研究を依頼した。その結果、建替が最善との結論に至り、コンサルの協力のもと、その後の全ての協力者(事業推進コンサル、デヴェ、建設会社等々)で公募にて募集、選考した。

+駒込ハイツではコンサルを起用し、コンサルの指導により事業推進コンサル、デヴェロッパー、建設会社、デザイナーなどを公募。特筆すべき点は周囲との調和を優先し、経済性よりも高級感のあるデザインを優先されたことである。

+二子玉川ではTK(デヴェ)より紹介されたコンサル3社より1社を選考、そのコンサルの協力のもとデヴェロッパーを公募4社より選考。TK社が事業協力者に選ばれた。

(成功例の学習で学んだこと)
 ①コンサルが、当初より主導的な役割を果たしている。しかし、コンサルには3つのタイプがあることが分かる(下記<参考>コンサルタントのタイプとその機能を参照)。成功事例を見てみると上野同潤会と駒込ハイツではアドヴァイザーとコーディネータータイプのコンサルが協働している。他の2例は銀行やデヴェロッパーから紹介されたオーガナイザーもしくはコーディネータータイプのコンサルを起用していた。
 ②競争原理の導入のため、コンサルの指導の下、デヴェロッパー、設計会社、建設会社等が公募にて選考されている。
 ③公募に参加したデヴェロッパーは意外と少ないとの印象があり、どのようにしてコンサルが選考されたにせよ、コンサルとデヴェロッパーの間には相性(穿った見方をすれば癒着)があり、デヴェロッパー、建設会社の選考過程で100%の競争原理が働いたかどうかはやや疑問があった。

(コンサル起用の是非)
 実際に推進委員会では建替提案コンペの実施のための、実施要項、募集要項の作成は素人にできる作業ではないのではないか?コンサルをまず最初に決めてコンサルにこれらの作業をやってもらうべきではないかとの議論があった。また、自分自身でもデヴェロッパーを選考を完了した後では、提案の具現化を進める上ではより専門的な知識とマンパワーを提供してくれるコーディネータータイプのコンサルの活用は必須だと考えていた。しかし、本当の競争原理を維持するためには肝となるデヴェロッパーの選考までは純粋な競争原理を働かせるためにも、我々自身の力でやるべきだし、その能力があると確信して、その旨を主張して推進委員会で了承を得た。実際には、前回のT社(コンサル)による建替提案、その後の建て替え推進決議の否決という挫折を通して学べた事が非常に大きかった。建替提案の募集要項の作成と選考のための経験と知識は十分にあるとの自負があり、この段階でコンサルを選ぶ事による時間の浪費を避けたかった。実際に、募集要項等に関したコンサルの作成した書類を拝見させていただいたが、形式張った書類が多く、仕事ための仕事と言う印象が強く、無駄な費用を掛けたくないという思いもあった。

                                以上

<参考>コンサルタントのタイプとその機能

 マンション建替事業において一口にコンサルタントと言っても、コンサルタントには下記のように3つのタイプがあり、それぞれ機能は異なる。
1.アドヴァイザー:管理組合(区分所有者)の顧問としての機能。あくまで組合員の立場で考え、建替推進を補助してくれる。(社団法人)再開発コーディネーター協会のような公的機関より紹介を受けるケースが多い。
2. コーディネーター:コンサルタント法人の場合が多い。ディヴェロッパーの決定後に契約する。事業推進を専門知識とマンパワーを活かしサポートする。デヴェと関係が深く、デヴェ目線で機能する傾向がある。
3.オーガナイザー:建替計画を作成し、デヴェ、設計、建設と契約を結び建替を主導する。しかし、実態はバックに特定のデヴェや建設会社が存在している可能性があり、その場合は競争原理が十分に機能しない。

 3のオーガナイザーの機能を持つコンサルと契約を結び、建替事業を進めるのが最もスピードのある建替推進ができそうではある。しかし、競争原理が機能しなければ、その建替計画はベストなものでは無いかもしれない。
 一般的には費用はかかるが、1のアドヴァイザー機能を持ったコンサルタントと組合が直接契約し、その助言を受けながら事業を進めるのがより区分所有者側に立った建替を推進できだろう。しかし、建替そのものがあまり実績がない現状で経験豊富なコンサルに巡り会うことは容易では無いだろうが。

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