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晴海フラッグの狂騒と昭和バブルの回想

1.晴海フラッグの人気

 2021年11月に行われた晴海フラッグの第二期販売では、最高倍率111倍、平均倍率8.8倍だったと言う結果が発表された。これは1年前に販売が中止された時にモデルルームを訪問し、アンケートに回答した人には3倍の抽選権があったことや、複数戸申し込んだ業者も多数いたことから実際の実需筋の倍率は分からなかった。しかし、その後の2022年3月の販売では優先倍率も無く、また業者の複数申し込みも制限されたと聞くがそれでも平均倍率は6.6倍を記録した。さらに7月の販売では最高倍率96倍、平均倍率では13.9倍と前回の2倍以上の倍率になった。タワー等を除く、中高層マンションの最後の販売になると予想される11月の販売では一体何倍の倍率になるのだろうか。色々と問題点も指摘されたが、やはり晴海フラッグの人気は本物と言える。この熱狂ぶりに私はバブル期の状況を思い出した。

2.バブル期の住宅購入

 私が結婚後、海外駐在を終えて帰国した1987年はバブルの最盛期だった。帰国後は社宅に入ったが、自分の家が欲しくて物件探しを始めた。都心はおろか近郊でも30代のサラリーマンが手を出せる価格では無くなっていた。そんな状況下、買えるとすれば郊外の60m2の狭小3LDKか住宅公団の分譲住宅だった。しかし、住宅公団の分譲住宅は郊外とは言え、それほど不便とは思えない立地で専有面積も広く、人気があった。晴海フラッグの平均倍率が高すぎると驚かれているが、当時の公団分譲住宅では最低倍率が8倍程度ぐらいではなかっただろうか?それが当たり前なぐらいの加熱ぶりだった。

 住宅公団の分譲住宅は各地のニュータウン内にあることが多く、住環境は素晴らしかった。また、私が購入した、多摩ニュータウン稲城地区に最初に竣工したマンションは3LDKの最低専有面積が100m2以上と言う現在ではなかなかお目にかかれぬマンションだった。私は抽選に当たる事を最優先し割高で低倍率のフリールーム付きの4LDK、140m2の部屋を申し込んだ。それでも倍率は8倍だったと記憶している。これは当時私が申し込んだ住宅の最低倍率であり、なんとか当選することができた。私鉄の沿線で駅まで徒歩15分の距離だったが、その不便さを補って余りある、緑と整備された街並みの美しさに心奪われた。

多摩ニュータウン稲城地区に最初に竣工したマンション

3.評論家やマンクラの意見に違和感

 最近の都心のマンション価格はバブル超えと言われる程、高騰している。そんな状況下で不動産評論家や著名なマンションブロガーの意見に大きな違和感を覚えるようになってきた。私は70歳代で昭和のバブル期には住宅購入の適齢期で必死になってマンションを購入し、当然ながらその後のバブル崩壊による不動産の暴落を経験した世代である。今、住居の購入を考え悩まれている人達の参考になればとの思いで私の経験を伝えたい。私の感じている違和感は二つある。

1)住宅の購入は投資??
 
 一つは住宅の購入は住みながらできる投資であると言う意見である。それは住宅価格が高騰を続けると言う前提である。マンションブロガーや評論家の中には住宅市況の下落を全く考えて居ないと思われるような意見を述べる人がいる。しかし、常識的に考えてそれはありえない。バブル期には誰しもが住宅用地に制限のある日本では不動産価格の上昇は永久に続くと信じていた。いわゆる土地神話だ。しかし、バブル崩壊は突然やってきた。現在の価格上昇も10年程度続いている。現在の価格上昇がバブルなのかどうかは、わからない。バブルは弾けてから初めてバブルだっと気づくものである。しかし、現在の不動産市況は異常な金融緩和と実質マイナス金利とも言える住宅ローンの産物である。2%の正常な物価上昇が達成できない中で不動産だけが異常に上昇している。異常はいずれ正常化される。さもなくば国自体が破滅しなければならない。住宅の所有は長期にわたる。短期間で買い替えを続けても生きている以上、常に住宅は必要である。人生100年時代、人は不動産市況の紆余曲折を何度も経験するに違いない。バブル崩壊から未だ30年しか経っていない。しかし、若い世代はバブル期を知らず、また、同じ過ちを繰り返そうとしているのだろうかと不安になる。
 
 急激に進む円安。それに伴う輸入物価高。この為、金利の上昇が懸念されるようになって来た。しかし、日銀総裁は金利政策は変更せず、金融緩和政策の継続を宣言した。この為、住宅ローンは当面上がらないと考える人が多い。しかし、これはローンの借入期間中の35年間の話ではない。今は変更なくとも来年には政策変更もあり得ると言うことを示している。日本の内外より金利上昇の圧力が増していると考えなければならない。

 一般的には住宅は生きている限り必要で、投資として複数の住戸を所有しない限り、通常は価格が上昇しても利益としてお金が入るわけではなく、単に含み益が出るに過ぎない。相場上昇時に買い換えのため住居売却で大きな利益が出ても買い換えるためには通常はさらに大きな追加費用が必要になる。これは利益として自由に使える金が入ったわけではない。価格上昇時に買換えでより高額の住居を手に入れても価格下落に対するより大きなリスクを抱えるだけなのだ。逆に市況が下がっても出るのは含み損である。市況下落時に住宅を買い替える場合は売却損が出ても、買い換えの費用はその分少なくなる。売却損は含み損としてキャリーされる。つまり、住宅の購入による損益の実現は住居が不要になる終末期か死後の話である。住宅購入時に自分の死後の不動産市況を考えることに意味は無い。従い、住宅の購入や買換えは不動産市況のみを見て行っても意味が無く、結婚や家族構成の変化に合わせ行うものであると考えるべきであろう。

2)山高ければ谷深し

 もう一つの違和感は値下がりを防ぐために好立地の物件を高額でも買うべきと言う意見である。しかし、山高ければ谷深しと言うのが相場の鉄則である。つまり、現在立地条件が良く価格が高騰している物件は相場下落時には価格下落はより大きいと言う事である。

 私が1988年に東京郊外のニュータウンの140m2の公団分譲マンションを約6,000万円で購入した時、当時所有していた浜松町にある駅から徒歩5分の1LDK 40m2のコンパクトマンションは1億円の値がついていた。しかし、30年後の2018年には浜松町のマンションは分譲時(1978年)の価格1,600万円の水準まで、1/6以下に値を下げていた。(このマンションは2018年に建替え決議が可決され、現在は建替えマンションの工事中である。)一方、郊外のマンションは3,000万円、つまり1/2の価格を維持していた。また、標準の3LDK、100m2の住戸は分譲時の4,500万円から2,500万円と45%ほどの値下がりに止まっている。つまり、価格上昇率が高いマンションほど下落率も高いと言う事である。最も、浜松町のマンションはもし今も存在していたら、恐らく4,000万円程度にまで価格は回復していただろう。逆も真なりである。つまり谷深ければ山高しである。このように資産価値を重視して住戸を買う事は大きな価格下落リスクを負うことになるかも知れない。むしろ、自分や家族の生活、子供達の教育、個人の価値観を重視し、最適な住戸を購入するのが幸せな人生を送るために必要な事だろう。

4.住宅の購入は投資ではなく貯蓄である。

 私の経験から言えば、住宅購入は投資ではなく、貯蓄である。株式投資も株を長期保有すべきと言われる。短期では上がり下がりの時期により損も出やすいが長期に保有すれば、株式相場は長期的には上昇トレンドにあり利益が出る確率が高くなると言う理論である。住居も長期保有が前提であり株の長期保有と似ている。しかし、住居には減価償却があり、年々建物の価値が減価するという性質があり、この点が株式相場と違う点である。だから私は住宅の購入は投資ではなく、貯蓄である考えた方が良いと思っている

 自分が購入した住戸に賃貸で住むと仮定してみよう。支払うべき家賃から実際に支払った管理費、修繕積立費、固定資産税を差し引いた金額を居住のための費用(賃料)と考える。所有した期間から居住のための費用を計算し、住居の値下がり額を比較して見れば、所有期間が長くなればなる程、居住のための費用の方が大きくなり、貯蓄の効果が現れるのではないだろうか。

 私がバブル期に郊外に買ったマンションはもし、購入せずに賃貸で住んでいたと仮定すれば、周りのUR住宅の家賃から見て最低でも家賃15万円は必要だっただろう。家賃を15万円と考え、自分が支払った管理費、修繕積立費、固定資産税等々を差し引いても更に月10万円以上の支出が必要であったことになる。つまり34年間で4000万円以上の支出をセーブできたことになる。値下がり分3,000万円を損と考えても1,000万円程度支出を抑えられたことになる。それを6,000万円の貯金の34年間の利息であると考えればそれなりの金利収入があり損はしていないと考えられる(建物の減価消去額は考慮しておらず正確な売却損益の見積とは異なる。)。

 我々バブル世代の多くは表面上は住宅購入で大きな損を被っている様に見える。しかし、住宅を購入しなかった場合の家賃負担を考えれば、この様に、長期間で見れば、決して損する事なく、金利程度くらいの利益も享受できるものである。住宅は長期保有が前提であり、その購入は投資ではなく、貯蓄と考えれば住宅購入においてより選択肢が増え、より幸せになれる住居を購入できるのではないだろうか。

 住宅の買い時は何時なのかと言う問題がある。私は買いたいと思った時、必要になった時、気に入った物件に出会った時が買い時だと思っている。上記では、不動産市況の下落を念頭に置いた様な意見を述べたが、先の事は分からない、下落は覚悟しておかなければならぬが、それがいつか予測する事はできない。現在、市況が高いからと言って仮に相場が下がるまで5年待ったと仮定しよう。その間に家賃15万円/月払い続けるとすれば900万円の出費がある。5年後に市況が900万円下がってトントンである。そこまで下がらないと思えば今買った方が良いだろう。買いたい時が買い時であり、長期的に見れば、貯蓄と考えられ損はしないと考えれば良い。

5.住宅購入と人生

 現在はバブル期と比較し、共稼ぎ夫婦が主流になり、低金利かつ35年の長期ローンが当たり前になった。一方、バブル期は高金利でローン期間も20年程度であり、圧倒的に現在の方が有利に見える。しかし、バブル期は一般的に年功序列制度が中心で年々給与が上がるのが普通で年が経つにつれローンの負担が軽くなった。その分教育費に支出を増やすことが可能になり、また、比較的早くローンが完済できたという利点があった。しかし、現在、ローンは借りやすくなったものの収入に比較し目一杯の金額を借りると将来的にもローンの負担は軽減する保証はなく、教育費が不足したり、働ける間はローン返済が続きローン返済のための人生になりかねない。

 住宅購入は人生を豊かにする手段であり、資産を増やすための手段ではない。住宅は高額で簡単に買い換えできるものでは無い。価格以外で後悔しない様に、本当に自分の価値観にあったものを選ばなければならない。人の意見に踊らされ、資産性ばかりを考えれば後悔する事もあるかも知れない。

 バブル期に海外駐在から帰国した時に浜松町のマンションを所有していた。当時、賃貸に出していたとは言え、全く、そのマンションに住む気は無かった。子供もまだ2歳にならぬ時で、住もうと思えば問題なく住めたはずであった。しかし、子供の成長、教育を考えた時に都心に住む事は全くイメージできなかった。自分の通勤の利便性を犠牲にしても家族の幸せを考え、豊かな住環境のあるニュータウンを選択した。妻は専業主婦であったので、現在主流になっている共稼ぎ夫婦が求める住環境とは違うだろう。しかし、リモートワークが定着しつつある現在、また新たな住環境が求められているかも知れない。住居も、働き方、人生における価値観や家庭環境に合わせた多様性が求められだろう。
 
 バブル期にも住宅公団の分譲住宅の様に価格以上に価値のある住宅が販売されていた。現在も同じ様に晴海フラッグや幕張ベイパークと言った立地には多少難があるとされるが、一生のうちにそう何度もお目にかかることが出来ないような価値のあるマンションが販売されている。また、我々世代では住宅すごろくのゴールであった戸建住戸も都心マンションに比較すればかなり割安で販売されている。今こそ資産性などと言った幻の利益に心惑わされることなく、自分の価値観にあった納得の行く住宅を購入すべきだろう。

以上

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