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晴海フラッグの転売ヤー 

(マンション建替物語 番外編) 


1.竣工前物件の転売の流行のきっかけ

 最近パークタワー勝どきや晴海フラッグの物件が竣工前に売り出されていると言う記事を目にするようになった。(素人ゆえ単純に知らなかっただけの事かもしれないが)これまで、竣工前の転売は殆ど聞いた事がなく、転売は竣工後、部屋の引渡し後でなければ出来ないものと思っていた。一般の人はおそらく私と同様に考えていたのではなかろうか?竣工前の転売に違和感を感じた。
 しかし、私にはこの竣工前の転売の流行のきっかけになった事例に心当たりがある。私はあるマンションの建替に係っている。そのマンションの建替推進の過程で建替組合が2戸の1R住戸を保有することになった。しかし、組合の資産は竣工前に現金化し、事業収支に反映させねばならない。このマンションの竣工時期は2023年9月だが、会計処理上の時間が必要なため、2022年11月に販売を実施した。その際、ネットで売却価格の査定を依頼した大手仲介業者4社に仲介を依頼した。この物件は売りに出すなり、即買いが入り、仲介業者のネット広告以外ではスーモやアットホームなどには情報は流れていなかった。従い、我々の販売活動が世間の注目を浴びる事はなかったはずである。
 我々の感覚では組合保留床の販売は単に売主が事業協力者であるデヴェロッパーから組合に変わっただけである。だが、我々の依頼を受けた仲介業者は、もしくは、我々の販売を知った他の仲介業者は同じマンションの権利者に竣工前の物件の販売ができると声をかけた可能性がある。事実、組合保留床の販売を権利者にまだ報告していなかった2023年3月までに数人の権利者が売却を試みスーモやアットホームなどに掲載されているのに気付いた。同時にこのパターンは新しいビジネスの形態として、仲介業者が同じような状況にある再開発物件であるパークタワー勝どきの地権者や晴海フラッグの転売狙いの購入者に声をかけたのではないかと想像している。このようにしてマンションの竣工前の転売が広まったのかも知れない。

2. 竣工前の転売のメリット

 竣工前の転売には下記のようなメリットがある。
1)竣工前でまだ売り物件が少なく、有利な条件で販売できる可能性がある。
2)権利登記費用、不動産取得税等の税金、住宅ローンの手続き費用、管理費・修繕積立金の一時払い等の諸費用が節約できる。
 一般の分譲契約ではデヴェロッパーが契約者の名義変更を受け付けるかどうかわからぬが、それ以外は障害がないように思える。契約条件次第ではあるが、2)の費用を払わなくても済むのは非常に大きい。デメリットについては思い浮かばない。
 これはある種の購買者にとっては救いの手になるかもしれない。マンション購入を契約して10%の手付金を支払い、何らかの事情で解約をしなければならなくなった契約者は10%の手付金を放棄しなければならない。これは大きな損失である。しかし、近年、契約から部屋の引渡しまで3−4年かかる事が普通にある。人生、この間に何があるかわからない。転勤、離婚、出産と育休もしくは離職等々。計画通りのローンが組めなくなる事は少なからず有るだろう。特に失職し、住宅ローンが受けられなくなり、解約せざるを得なくなったらどうだろう。頭金10%の損失は二重の悲劇である。こんな場合に竣工前に転売できたら頭金の損失を少なくし、もしくはある程度の利益を得ることも可能になり救われるケースも出てくるだろう。

3. 竣工前の転売に対する感想

 私が関与しているマンションの建替えは10年近い年月をかけ、ようやく今年9月、竣工する予定である。ボランティアで、苦労しながら建替を推進してきたのは全ての権利者に新しいマンションの引渡しをうけ、地震の恐怖から解放される生活に喜びを感じてもらうことにやりがいを感じたからである。しかるに、転売利益だけが目的で建替運動に参加し、新しい住戸を目にすることもなく手放されてしまっては、何のためにこれまで苦労してきたのかと虚しい思いに囚われる。
 再開発や建替ではない通常の分譲住戸の晴海フラッグの転売に関しては一般の住宅購入者の購入の権利を奪っただけでなく、単に抽選に当たっただけで、努力する事なしに、濡れ手に泡的に大金を手にする転売ヤーには正直言って不快感しかない。

 しかし、高額で売りに出すのは勝手であり、その価格で売れるかどうかは別問題である。冷静に晴海フラッグの転売について考えてみたい。
 誰が買うだろうか?案外大した儲けにはならないかも知れない。
1)一般の一次取得者は晴海フラッグの元の販売価格が支払い可能な限度一杯だったのだろう。だからあれだけの人気になったのだろう。
2)パワーカップルと呼ばれる高額所得者にとっては支払い可能な価格かもしれない。しかし、同じ価格を払うなら選択肢は豊富に出てくるし、その中で晴海フラッグが選ばれる可能性は高く無いだろう。
3) 投資家もしくは投機家は安くて将来的な売却益を見込める物件を探しているはずで、既に相場以上に吊り上がった転売価格で買おうとはしないはず。

4. 不動産市況の現状

 最近の不動産市場は何か異常である。市況を考察すると既に住宅市場は次のように三分化しているのではないだろうか。
1)高級住宅市場
 本当の富裕層の自己居住のための住宅市場。例えば三田ガーデンヒルズ。この様な住宅は市況に左右されず、主に富裕層の実需により売買されるのだろう。
2)不動産投機市場
 転売ヤーや相続目的のタワーマンションの購入、海外投機家が主な購入者となった都心再開発物件であるタワーマンション等。既に物件価格は1億円を超え、一般人を対象とした市場では無くなっている。
3)一般住宅市場
 一般の人の自己居住のための住宅市場。対象者が多く、規模としては最も大きい。一般の人達にとっては上記の1)、2)の市場は全く別の商品を扱う無関係な市場のようだ。三つの市場はある程度は連動しながら、本質的には独自の動きをするのだろう。

 これは私が現役時代に仕事で関わっていたコーヒー豆市場の分極化に似ている。アラビカ種のコーヒー生豆の価格は一昔前まではニューヨークにあるコーヒー定期市場の価格に連動していた。産地、品種の違いに合わせ、定期市場価格より一定のプレミアムもしくはディスカウントをつけて取引されていた。2000年代に入り、スターバックスが独自の品質基準で高級豆を買い始めると品質による差別化が始まり、スペシャルティーコーヒーというカテゴリーが誕生し、全く別の価格帯の市場が誕生した。そして現在では特定の産地の中の特定の農園の特定の樹種から生産されるコーヒー豆という様に、極度に差別化されたコーヒーが更に高額でマニアの間で取引されている。このようにコーヒー豆市場はあたかも別商品を扱う市場の様に三分化し、将来的にもそれぞれの市場は機能して行くだろう。

 一方、不動産市場はバブル期に三分化し、バブルが弾けると萎縮しまた一つの市場に収縮した。そして、今、再度、三分化している。

5. 今後の不動産市況

 再び三分化した不動産市況は今後どうなるのだろうか。このまま発展を続けるのか、崩壊しまた一つの市場にまとまるのか?

 転売ヤーの動きを見て、世も末だと感じた。一部の不動産評論家のように確信的に価格暴落論を唱えるつもりは全くない。しかし、冷静に常識的に考えれば今の状況が異常であり、異常である限り、いずれはその修正局面が来ることは理解できるはずだ。一般の人にとって住宅は死ぬまで必要とする大きな買い物だ。1-2年先と言った短期間の動きを見るのでは無く、例えば住宅ローンの借入れ期間である35年と言った長期間で考えるべきであろう。

 私はバブル期に住宅を購入せざるを得なかったバブル世代である。バブル崩壊後は住宅価格が下落し大損をした様に見える。しかし実際はバブル期には高値の花だった戸建住戸の価格が手の届くところまで下落して念願の戸建を購入する事ができた。バブル崩壊は悪い事では無かった。しかし、本当の問題はバブル崩壊後は日本経済が停滞し、日本を世界経済の牽引役からお荷物へと変えた。だから今の住宅バブルは経済に大きな悪影響を与えぬ様、出来るだけ穏やかに正常化することが望ましいと思っているが。

 現在の不動産バブルは下記の政策によるところが大きい。
1) 国の大規模金融緩和は経済の活性化が目的であった。しかし、有り余る金は経済の活性化には向かわず、不動産市場にのみ流入した。また、極端な円安を呼び込み、日本の不動産価格が割安となり、海外投資家の投機資金を呼び込んでいる。
2)また、住宅市場の活性化のための低金利政策と住宅ローン減税は、マンションの価格を高騰させ、逆に新規販売戸数を大幅に減少させ、一般の人達の住宅市場を低迷させる結果になっている。
3)タワーマンションの税務上の価格の評価制度が現状に合わず、相続目的としたタワーマンションや不動産の購入が増えた。これについては2023年6月に改正の議論が活発になり、今後市況に影響を与える可能性はある。

 上記1)、2)とも目的と結果が逆になっている。また、国の負債は異常に膨らんでいる。このような政策が未来永劫継続される道理はなく、早晩、金利の上昇と住宅ローン減税の縮小が起こるだろう。それが何時起きるかはわからないが、市況を冷やし、価格の下落を招く事は間違いない。
 よく建築資材、人件費が高騰しているのでマンション価格は当面下がらないなどとの意見を耳にするが、これは本末転倒的な議論である。販売価格が上がるから資材が上がるのである。販売価格が下がれば、建築資材は下がらざるを得ない。さもなくば住宅市場は死に体となり、ますます資材の需要は無くなる。

 なぜこの時期に転売が増えているのか。価格がまだ上がると思えば、この時期に転売せず、物件の保有を続けるだろう。しかし、皆、転売物件が豊富にあり、竣工後に物件が多く出て価格が下がる前に売りに出しているのではないだろうか?意外と彼らもマンション価格の下落を予感し始めているのかもしれない。
 既に、都心のマンション価格は一般の社会人が購入できる価格を超えている。パワーカップルと呼ばれる人たちでも購入に二の足を踏む水準にまで高騰しているように思える。となれば、今後、首都圏の各地で販売が予想される再開発の大型物件の高額住戸の購入者は投機家のみになるだろう。実需の少ない投機的不動産市場では将来、市場に転売物件として出てくるであろう在庫がどんどん積み増されて行くだけだ。供給が需要を上回れば価格下落は必至だ。彼らは相場には敏感だ。彼らの手の内にある大量の投機物件の在庫は市況が下落を始めれば大量に放出され、価格下落に拍車をかける。

6. 住宅購入適齢期の若い世代へのアドヴァイス

 住宅購入適齢期にある若い人達に何がアドヴァイスできるだろうか。いずれ下がるから待った方が良いのか?しかし、家賃も上昇しており、賃貸も得ではない。下がるまで待つにしてもその間の賃貸費用の支出合計は価格下落によるメリットを上回るかもしれない。住宅は必要とする時が買い時なのかも知れない。
 大したアドヴァイスは出来ないが、この時期には資産価値などと言った上辺の架空の利益に捉われず、身の丈にあった、本当に自分の家族との生活に最適と思われる住戸を選ぶ事だろう。資産価値の高いと言われる住宅は相場の上昇時にはより高くなる。しかし、逆の局面では高額物件ほど価格下落率は高くなる。長期的に見ればどちらの局面も起こりうる。だからあまり上辺の資産価値などに捉われすぎると本当に価値のある住宅の購入の機会を失う結果になりかねない。
 都心のタワーマンションなどに捉われず近郊、郊外の大規模物件に目を向ければ、本当に価値のある住宅が今もある。幕張ベイパークなどもその一つだろう。住戸は家族の成長、経済的な変化等により将来、住替えが必要になるかもしれない。しかし、市況の下落局面ほど買い替えが容易だと知ってほしい。市況の上昇局面では物件の価格差は大きくなり、買い替えの費用が大きくなるが、下落局面では逆に小さくなるからである。

以上




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