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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(33)

第三章 マンションの完成を目指して

11.建替組合保留床の販売

1)組合保留床取得の経緯

 2018年11月の臨時総会でマンション建替決議が可決され、それまでの建替え反対者も建替えに参加、2019年にブリリアタワー浜離宮建替組合が発足した。その後、権利者の住戸選定を行ったが、抽選で希望住戸を当てることが出来なかった権利者が権利変換手続きを拒否、抽選のやり直しを要求した。しかし、その理由と要求はとても受け入れることはできず、建替組合は
やむなく、権利の売渡請求を行使し、その権利者が保有する2戸の1Rの買取を行った。以来、組合として2戸の1Rを所有することになった。
 組合保留床の取得以来、その販売は理事会の重要案件であった。理由は当初より工事費の増加により組合収支は赤字が予想され、販売で利益が出ればその補填となることが期待されていたからである。しかしながら。理事会役員の誰もが竣工前の物件の売却の経験が無く、正直言ってどのように販売すれば良いか分からなかった。

2)キャンセル住戸の東京建物への販売と組合保留床の販売

 住戸選考の後、思い通りの住戸が当たらなかった人や元々転出を迷っていた人が、転出を選択し、1R、1LDKを中心に専有面積で672.51m2の転出があり、それらの住戸を保留床価格に準じた単価419万円/坪で東京建物に売却する事を決定していた(2019年)。これにより、権利者の取得専有面積を建替前マンションの専有面積の100%以下に押さえるという東京建物との約束の努力目標を達成でき、事業収支を大幅に改善することができた。従い、これ以上東京建物に売却する保留床を増やす義務は無くなっていた。
 当然、組合保留床も東京建物に買取ってもらうと言う考えが理事会メンバーの主流であったが、不動産市況は好転を続け、もっと高額で売却できれば事業収支は黒字となり、余剰が出れば組合員への還元の可能性も出てきたことより建替組合独自の販売の模索を始めた。

3)東京建物の提案と販売方針の検討

 とはいえ、理事会役員の誰もが竣工前の物件の販売の経験は無く、東京建物の支援に期待したのは当然であった。東京建物よりは最低価格を保留床価格よりやや有利な460万円/坪とし、組合員を対象として入札により販売する。つまり、組合員に希望買取価格を出してもらい、最も高い希望価格を出した人に販売する。誰も最低価格以上の希望価格を出せなかった場合は東京建物が最低価格で引き取ると言う提案である。最低価格保証があると言うことは理事会としても安心できる材料であった。この最低保証価格を当時の市況価格に合わせて上げてもらえないかと言う意見もあった。この提案につき、長い時間をかけ理事会にて検討したが、下記問題があった。
(1) 2021年当時の市況から判断して坪単価460万円はかなり割安になっていた。しかしながら、東京建物も従来の保留床単価より高い価格を提案しており、それが社内許可を得られる精一杯の価格であると言われていた。
(2) 組合員が相場並みの価格を払うとは思えず、割安な価格で販売した場合は1−2名の組合員にのみ利益を提供することになり、不公平である。
(3) 最低保証価格の水準で販売した場合は事業収支の赤字補填になるだけで組合員に還元できる余剰を産むことはできず、理事会としてもやりがいを見出せなかった。
 一方、港区役所に組合保留床販売に伴う所得税の相談したところ、建替事業は営利事業ではなく、販売利益は税金の対象にならないとのことであったが、販売は公募によらないといけないとされた。公募制の定義は曖昧だが、少なくとも購買者を組合員に限定することは公募制に反する。また、東京建物は分譲住戸の追加販売にあたり、権利者向けに優先販売を行ったが、誰からも1R住戸の購買の申し込みは無かった。従い、組合員の購入を期待していなかったのでもとより購入者は一般人を対象とすることに異論は無かった。
   以上より組合独自で組合保留床の販売を行う事を決定し、その販売時期、価格につき検討を始めた。事業者側としては権利者住戸の無償オプション、有料オプションの締切(2021年)前に販売を完了することを希望していたが、標準仕様にて販売しても販売価格に大きな影響は無いと判断。価格に就いては2022年に東京建物が一般分譲の完売後に1R、1LDKの追加販売を行う事、また、近隣で三井不動産のパークホーム浜松町の販売が予定されており、これらの分譲を見て販売価格を決めることにした。その為、販売時期を2022年後半以降とした。

4)売却価格、時期、方法

(1)売出価格の議論
 2022年中頃には東京建物の1R、1LDKの住戸の販売が行われた。上階の一般分譲住宅の販売で聞いていたほどの人気ではなかったようだが、それでも売り出しから1ヶ月程で売り切れたとの報告を受けた。1Rの販売価格は平均で4,500万円程度であった。その価格を基準に階数差による価格補正。内部仕様の差(東京建物は一般販売のため、総額135万円ほどの有償オプションを追加していた。)及び仲介手数料を価格調整項目とし、売り出し価格を決定しようと議論を進めていたが、なかなか結論が出なかった。理由はおそらく理事会役員には東京建物と自分たちの販売力を比較して、本当にその価格で売れるか自信が無かったことにある思われた。ある理事よりネットで簡単に複数の仲介業者に査定を申し込めるので査定を受けてから価格を決定してみたらどうかとの提案があり、その助言に従うことにした。

(2)価格査定と価格決定
 東京建物不動産販売及びネットで依頼した仲介業者3社より査定を受けることになった。その前に自分でも勉強のために査定を試みた。取引事例比較法では対象としてパークコート浜離宮ザ・タワーを選んだ。このマンションはひと足さきに販売されており、2018年当時建替実施計画の事業収支の作成において一般分譲単価を設定するのに参考にしたマンションであった。しかし、2022年当時では中古住戸の取引実績、売り出し価格とも大変高額でJR浜松町から同じ徒歩距離にあるものの山手線内側と開発が進んでいるとは言え、海岸1丁目では従来より物件の価格差が大きく、パークコートの物件価格からブリリアタワーの価格を導き出す方法が分からなかった。そこで収益還元法で査定すべく近隣の賃貸募集案件を探し、賃料を導き出し4%の表面利益で計算すると東京建物の販売価格と同じ4,500万円(7F)となった(後日、東京建物も同じ手法で売り出し価格を決めた事がわかった。)。これに階数補正を加え、15F物件を4,900万円、12F物件を4,700万円と査定した。
 仲介業者4社の査定は3社が取引事例比較法(比較対象パークコート浜離宮)を採用し、1社が収益還元法を採用していた。しかし、適正価格の査定額は4,500−4,800万円とあまり大差無く、パークコートとブリリアタワーの価格差の説明はなかった。もちろん、売出推奨価格やチャレンジ価格では価格差は大きくなっており、取引事例はチャレンジ価格に反映されているのかもしれないが。詰まるところ、理由づけは色々あったが、単純に東京建物の分譲価格を参考にしたと言うところかもしれない。
 理事会役員も各社の査定により売出価格に自信がついた様で、15F 4,900万円、12F 4,800万円と各社の査定より百万円ほど上乗せして売り出すことを決定した。

(3)売却方法と時期
 販売は査定を受けた4社と一般仲介契約を結ぶことにし、組合員向けにはシティーコンサルタンツが販売を担当した。ただし、組合員向けの通知は郵送が主となり、仲介業者の一般向けの販売告知と対象者に届くタイミングに差が出る事が予想された。そこで公平を期すため、販売開始日の2022年11月19日から12月5日までに購入の意思表示があった人たちを平等に扱い購入者を理事会で選考する事にした。それまでに購入希望者が現れない場合、12月6日以降の購入は先着順とした。しかしながら、すぐに購入者が決まるとは全く考えておらず、2022年12月10日に予定されていた理事会では価格見直しの時期や見直し価格を議論する予定だった。理由は消費税還付の手続き上の問題より建物の竣工の前、2023年6月までに売却契約を完了しておく事が望ましかったからである。契約上の手続きを考えればできればその前の3月中には購入者を決めておきたかった。

(4)購入者の選考と売却益
 2022年12月の理事会では、販売開始直後より思いもよらず計6件の購入希望がありとして急遽、購入者の選考が議題になった。購入希望者は a) 2名は台湾国籍の権利者の親族、現金一括購入可、b) 国内居住権利者、支払いは銀行とローン契約締結が条件、c) 一般、法人、2件購入希望、現金一括購入可、d)  一般、個人、現金一括購入可 であった。
 購入者選考の条件は後の手続き上の利便性から、現金一括購入を第一優先条件、また仲介手数料の観点より権利者(及び関係者)向けを第二優先条件とした。その結果、台湾国籍の権利者もしくは権利者の関係者に決定した。外国人であったが、購入希望者は日本語が堪能で、仕事の関係で頻繁に来日することより管理組合とのコミュニケーションに問題がないとの判断からであった。しかし、契約締結に至る前の12月20日に日銀の長期金利の上昇の発表を受け、円が1ドル150円台より130円台へと急上昇した事より台湾国籍の権利者の親族は購入を辞退した。やむを得ず理事会にて予め部屋ごとに抽選にて決定していた次点の購入者希望者(2部屋とも法人)との交渉に切り替え、2月に契約、支払いが終了した。売却益は仲介業者に支払う手数料を差し引き52百万円になった。
 結果的には瞬殺的な売却であったため、もっと高く売れたのではないかと言う思いも無くはなかったが、手続きに要する時間等を考えれば適正な販売価格であったと思われた。高い販売価格で売出し、売れずに値下げをして売らざるを得ない場合は物件に対し悪い印象を与えるため、それは避けたいと言う思いが理事会での共通理念であった。
 ともあれ、東京建物の販売価格よりも高く売れたことで権利者住戸の資産価値を下げることが無かったのが何よりだった。

(5)組合による保留床の売却の意義
 
我々は意識せずに組合の保留床を売却したが、これはある種の建替事業にとって大きな意義があるかも知れない。容積率の割増が少なく、新規分譲住戸が少なく、事業採算の悪い建替事業では、デヴェロッパーでは無く、建設会社を事業協力協力者に選考し、余剰の住戸を組合が仲介業者を通して販売することによりデヴェロッパーに払うべき販売経費を削減でき、採算性を大幅に改善できることが証明できたからである。 

以上


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