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コンサルティング会社と事業会社の納期意識の違い

前職のコンサルティングファームと現職のスタートアップの違いの一つは、「締め切りに対する意識の高さ」にある。確動性の違いと言い換えても良いかもしれない。もちろん、事業特性や会社の習慣によって一概に違いがあるとは言えないが、背景・環境に違いがあるのは確かだ。

コンサルティング会社は社外からのプレッシャーにさらされる

まず、コンサルティング会社は、社外からのプレッシャーが強い。コンサルティングファームにおいては、仕事の締め切り=納期が業務委託契約書の"契約期間"として明記される。
様々な事情で契約期間終了日を過ぎても支援を続けることはよくあることだ。クライアントのキーマンの予定が合わず最終報告会が契約終了日の数日後になってしまったといったような軽微な延長もあるし、報告会での納品物=報告書や報告内容にクライアントが納得いかず、ブラッシュアップのために1週間継続するなどやや危険な場合もある。

とは言え、契約書に明記された締め切りがあり、それを順守しないのは契約違反で、何よりプロフェッショナルとしての質を問われる問題になる。〇〇までに終わらせると約束して始めた仕事をその宣言通りに終わらせなければプロ失格だ。
クライアントも自らの事情に合わせて締め切りを指定してくる。月末を跨ぐと予算を取り直さないといけない、クライアントの上司=経営者や株主から指定された締め切りを逆算するとそこが期日になるなど。
いずれにしても、プロフェッショナルのコンサルタントである以上、クライアントと"握った"締め切りは命に代えてでも守るように動くのだ。

社内からのプレッシャーも強い

一方、プレッシャーを与えてくるのはクライアントだけではない。
実は、社内からのプレッシャーもそれと同様に強力なものだ。これはコンサルティング・ビジネスの特性によるもので、システム・インテグレーションと同じく、コンサルティングもプロジェクトに関わる単価✕人数でで費用が決定される。スタッフを何日・何時間稼働させるかというのを予め見積もった上で、顧客に提示し契約を結ぶのだ。

コンサルティング会社は、高い報酬のコンサルタントを雇用している。コンサルタントが稼働していようがしていなかろうが、高額な人件費を固定費として抱えることになり、稼働していなければただの金食い虫だ。
よって、所定の稼働枠=キャパシティに対して、隙間なく稼働させ続けて売上を生むかが重要であり、広義ではホテルや航空キャリアと同じような稼働率ビジネスとも見てとれる。
このような事情により、コンサルティング会社自らの経営視点で言うと、見積った時と同じように稼働させることが重要で、それ以上の稼働は売上を生まない稼働になるため、社内での評価を落とすことになる。想定以上の稼働により追加で売上が見込める場合はまだマシだが、納期を守れなかったことで生じる稼働は、本来別のプロジェクトにその稼働を投下することで生じるはずだった売上機会を逃すことになる。

納期を守れなければ、クライアントとの約束を反故するのと同時に、社内で金を生まずに稼働だけを消費する能無しの烙印が押されるわけだ。

よって、社内外から納期遵守の大きなプレッシャーを受けるため、コンサルタントの納期への感度は大変敏感になる。

自ら締め切りを決めることの難しさ

話が長くなってしまったが、コンサルティングファームは社内外から圧力により納期遵守の意識は高い。できる奴・できない奴の判断基準にもなるので、残業だろうが休日出勤だろうがお構いなしで納期を死守する。

事業会社はコンサルティングファームと比べるとそのようなプレッシャーはほぼない。ゼロではないが、生死を分かつような重要性を持っていない。

基本的に目標は自分たちで決めるものであり、納期を達成しなくてもマイナスにはならない。コンサルティングファームはクライアントの信用を失うため、納期を達成しなければマイナスになる。ゼロかマイナスかが大きな違いだ。

そのような背景があり、コンサルタント時代のクライアントや現職のスタッフを見ると、事業会社で働く人は納期への感度が低いように感じられる。締め切りは自分たちで決め、延長も自分たちで決めるという環境がそうさせてしまう。

それを批判することは簡単だが、自分だったらやれるのかと言われると自信がない。個人で年始・年度初めに立てた年間目標をどれだけクリアできているか。状況や環境の変化を理由に目標を取り下げてはいないか。そもそも目標自体を忘れてしまっていないか。それほど自ら締め切りを決めることは難易度が高く、それを遵守しようとすればストレスが伴うのだ。

しかしながら、納期という締め切りはスピードを生むということもまた事実だ。仕事を依頼した時、依頼された時、スピード感を伴うかどうか、確実に実行に移されるかどうかは締め切りが設定されているか否かにかかっている。自ら締め切りを決めることの難しさを自覚し、チームや自分自身に締め切りを能動的に仕掛けていくことができれば、スピード感を生み競争力につながるはずだ

ポイント

コンサルティングファームの出身者がプロ経営者として事業会社に転じて企業のトップに立つというケースも当たり前のように増えてきた。会社のトップでなくても、ある日あなたの上司がコンサル出身者に変わるということもあるかもしれない。
そんな時は、納期意識について確実に注文を付けられることになる。自分の要求に合わせてスピード感を持ってほしいと。
そのような状況に備えるためではないが、今のうちから納期意識を高めることは確実にプラスになるはずだ。圧力が少ない中でもその意識を持つことができれば、どのような環境下でも対応できるからだ。
自分で締め切りを設定し、守るように自分に約束しよう。
仕事を依頼する時、される時は必ず締め切りに合意し、遵守しよう。

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