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新型コロナウイルス・オミクロン変異株による第6波ピークアウト後の新規感染者数減少速度のシミュレーション

はじめに

去る2月13日付のレポートにおいて、東京都の感染状況を例にとり、ピークアウト後の新規感染者数の減少速度の予測を試みた。2月4日のピーク時における接触削減率65.5%を超えたあと、削減率は68%程度までは上昇し得るのではないかと考えた。しかし実際には2月10日ごろ約68%に達したものの、その後の2週間は平均値約66%のまわりに変動し、2月末には閾値63%を下回るまでに低下した。

削減率68%と66%では新規感染者数の減少速度に著しい違いを与える。2月中旬のワクチンの有効接種率を22%一定と仮定すると、SIR式に基づく新規感染者数減少の速度係数(増殖率)は68%削減の場合0.049、66%削減では0.023となる。これを新規感染者数の半減日数で言えば、68%削減では14日で達成されるところが、66%削減では31日と約2倍の日数がかかることに相当する。

以上の傾向は日本国内の他の府県においても似通っている。以下に、東京都に加えて、愛知県、大阪府、広島県、福岡県、熊本県、鹿児島県、沖縄県の計8都府県の新規感染者数減少の推移に関するシミュレーションの結果を示す。

1.東京都

東京都の新規感染者数の推移:オレンジの点線はピークアウト後の削減率を66.3%、グリーンの点線は68%、ブルーの実線は2月23日後の削減率を66%一定とした計算線
東京都における接触削減率の変化:赤線は感染が拡大方向か収束方向かの閾値ライン。削減率が赤線より上なら収束、下なら拡大に向かう。2月24日以降の削減率は約62.5~63%の閾値付近にあり、新規感染者数は毎日11,300人ぐらいで横ばいとなっている。

東京都の新規感染者数は2月4日、18,353人、削減率65.5%でピークを超えた。以降、2月10日ごろ68%まで上昇したあと、平均値66.3%のまわりに下降と上昇を繰り返している。その結果、新規感染者数の減少に複雑なうねりが見られる。いずれにしても削減率は感染拡大への閾値を下回ることはなかったので、速度は遅くとも新規感染者数は少しずつではあるが減少している。2月24日までの傾向が維持されれば2月28日には新規感染者数はピーク時の半分(9,190人)まで減少する見込みがあった。しかし2月25日以降、削減率は閾値63%をわずかに下回り、新規感染者数の再増加が懸念される。

2.愛知県

愛知県の新規感染者数の推移:ブルーの実線は2月23日以降に削減率66.3%一定とした計算線
愛知県における接触削減率の変化:2月3日から2月15日ごろまで、削減率は閾値のラインをわずかに下回って推移した。その結果、その間の新規感染者数は微増し続けた。2月15日に閾値ラインを上回ってようやくピークアウトしたが、2月23日以降、削減率は64%程度まで低下し、新規感染者数の減少速度は著しく鈍化した。

愛知県については、2月5日ごろ削減率65.4%でピークアウトしたかと思われたが、削減率はその後わずかに低下して新規感染者数はさらに微増し続け、最終的には2月15日削減率64.3%を超えて新規感染者数はピークに達した。その後の1週間2月22日ごろまで削減率の平均値66.5%を維持したが、23日以降の3日間は63〜64%に低下しており、新規感染者数の減少速度も著しく低下している。

3.大阪府

大阪府の新規感染者数の推移:ブルーの実線は2月8日以降、接触削減率を66%一定とした計算線
大阪府における接触削減率の変化:2月5日にピークアウトしたのち、接触削減率は平均値にして66%をほぼ維持している。

大阪府については1月下旬ごろに日々のコンピュータ入力における新規感染者数の計上もれの問題もあってか、データのバラツキが目立つ。しかし、新規感染者数の推移においては2月5日に13,074人、削減率65.4%でピークアウトしたと推定される。それ以降の約3週間、削減率の平均値約66%を維持しており、このまま推移すれば3月2日ごろには新規感染者数はピーク時の2分の1の6,500人程度にまで減少するものと期待される。

4.広島県

広島県の新規感染者数の推移:ブルーの実線は、2月25日以降の接触削減率を63%一定とした計算線
広島県における接触削減率の変化:1月25日のピークアウト後、削減率は66~68%を維持したが、2月23日ごろから削減率はその閾値63%付近まで低下し、新規感染者数の横ばい状態が続いている。

広島県は初期の感染拡大の速度が大きかったが早めに規制がかかったせいか、ピークは1月25日、新規感染者数1,371人、削減率66.2%で乗り越えた。その後の2週間は削減率は約68%まで上昇したが、2月10日以降は次第に低下し2月下旬には63%前後まで減少した。2月23日以降の新規感染者数の推移にほぼ横ばいか再拡大の予兆が見られるのは、削減率が感染拡大と収束の閾値のライン付近で変化していることに相当する。今後も削減率63%が維持されれば、3月3日ごろには新規感染者数はピーク時の約 半分 (690人) まで減少すると予測される。

5.福岡県

福岡県の新規感染者数の推移:ブルーの実線は2月8日以降の接触削減率を66.4%一定とした計算線
福岡県における接触削減率の変化:2月4日にピークアウトしたのち削減率は66~67%を維持したが、2月22日以降に削減率は63〜64%へ下降し、閾値ラインをわずかに上回る程度で、新規感染者数の減少速度が著しく低下している。

福岡県の場合、2月4日に新規感染者数4,735人、削減率65.2%でピークアウトした。2月8日以降2月21日まで削減率は66.4%を維持したが、2月22日以降は63〜64%に低下している。その結果、新規感染者数の減少速度が著しく低下している。仮に削減率66.4%が維持されれば2月28日ごろには新規感染者数はピーク時の2分の1まで減少していたと予測されるが、63〜64%の削減率では半減日は予測できない。

6.熊本県

熊本県の新規感染者数の推移:ブルーの実線は2月9日以降の接触削減率を66%一定とした計算線
熊本県における接触削減率の変化:1月29日ごろピークアウトしたのち、2月上旬には接触削減率は約67.5%まで上昇した。しかし、2月の中旬に66%、2月23日以降は63~64%へ減少した。その結果、2月23日以降、新規感染者数の減少速度が著しく低下している。

熊本県は1月初旬の感染拡大が顕著であったが、ピークは1月29日に、新規感染者数1,002人、削減率66.5%で超えた。その後2月3日ごろまでに削減率は約68%まで上昇しその後次第に低下したが、2月9日以降は66%を維持した。しかし2月22日以降、福岡県と同様に、削減率は63〜64%まで減少した。削減率66%が維持されれば2月26日に新規感染者数はピーク時の半数の500人まで減少したはずであるが、現時点では半減日の予測は難しい。

7.鹿児島県

鹿児島県の新規感染者数の推移:ブルーの実線は2月7日以降の接触削減率を66.3%一定とおいた計算線
鹿児島県における接触削減率の変化:2月4日にピークアウトしたのち、2月21日まで削減率は平均66.3%を維持したが、2月22日以降の削減率は62〜63%まで低下し閾値を下回った。その結果、2月22日以降の新規感染者数はわずかに増加もしくは横ばいで推移した。

鹿児島県についても他の都府県同様、2月4日にピークアウトした。その時の新規感染者数は617人、削減率は65.8%であった。それ以降2月20日ごろまでは削減率は平均66.3%を維持したが、2月22日〜25日の削減率は62〜63%まで低下した。この数値は感染拡大と収束の閾値をわずかに下回り、新規感染者数の推移においては感染再拡大の兆候を示している。削減率66.3%が維持されていれば新規感染者数の半減日は2月28日 (309人) と予測されたが、削減率が閾値以下に低下した現時点では半減日は予測不可能である。

8.沖縄県

沖縄県の新規感染者数の推移:ブルーの実線は2月25日以降の接触削減率を62%一定とした計算線
沖縄県における接触削減率の変化:1月12日にピークアウトしたのち、削減率は2月4日ごろまで69~70%の高い数値を維持した。しかし2月5日ごろから削減率は65~66%へ低下し、さらに閾値ライン上に沿って2月20日ごろまでに63~64%まで低下した。2月23日からはこの時期の閾値63%を下回って60%以下まで下降している。その結果、新規感染者数の推移は2月5日〜2月20日ごろほぼ横ばいとなり、2月23日以降は新規感染者数の再増加を招いている。

沖縄県では新年早々に感染が急拡大したが、1月12日に新規感染者数1,467人、削減率67%でピークアウトした。その後1月13日から2月5日にかけて削減率は68%から70%まで上昇した。その結果、新規感染者数は2月2日に半減した (721人)。しかし、2月6日から2月25日までに削減率は感染拡大と収束の閾値ラインに沿うように65%から63%へ低下した。結果的に、新規感染者数は日々550~600人と横ばい状態で推移した。さらに最近では削減率は約60%まで低下し、明らかに閾値ラインを下回って、新規感染者数の再増加が認められるようになった。

おわりに

以上、日本の7都府県についてピークアウト後の新規感染者数の減少速度について検討した。感染が急拡大した沖縄県、広島県、熊本県については、順に1月12日、1月25日、1月29日に削減率およそ66.5%でピークアウトし、その後68%程度まで削減率が増加した。東京都、大阪府、福岡県、鹿児島県については2月4日もしくは2月5日に削減率約65.5%でピークアウトし、その後削減率66.3%程度を維持した。愛知県はピークアウトが遅く、2月15日に削減率64%程度で緩やかにピークを超えた。

早くピークアウトした沖縄、広島、熊本の3県は直後からしばらくは約68%の削減率を維持したが、2月中旬ごろから沖縄は64%、広島と熊本は66%ぐらいまで削減率は低下した。その他の5都府県については、ピークアウト後からしばらくは平均すると削減率66~66.4%を保った。しかし、いずれの都府県も2月下旬から削減率はこの時期の閾値約64%かそれ以下にまで低下し、新規感染者数の減少速度の著しい低下を招いている。とくに沖縄県についてはすでに感染再拡大の傾向が明瞭に見られる。

3月3日付の報道によれば、「まん延防止等重点措置」を適用中の31都道府県のうち、18都道府県の期限を6日から21日に延長し、13県を6日の期限で解除する方針を固めたという。今回検討した都府県のなかで延長されるのは、東京都、大阪府、愛知県、熊本県、解除されるのは広島県、福岡県、鹿児島県である。一方、沖縄県は2月20日に解除されていたが、3月3日の時点で重点措置の再要請も検討しているという。各都府県の延長か解除かの判断基準は複数設定されているので評価は難しいが、新規感染者数の推移状況に関して言えばどの都府県も大差ない。つまり検討した8都府県のいずれもが3月上旬に感染再拡大の可能性が高い。一方で、接触削減率の閾値はワクチン接種率の増加とともに低くなっていく。したがって今後は、ワクチン接種速度の向上に期待したい。

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