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6.山小屋の生活(26歳)

・サウナを造る
 

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この頃、アメリカで世話になった藤田君が遊びに来るとよく町のサウナへ行った。温泉や風呂が好きな2人にとってのんびり裸ですごせるサウナは最高だった。 山小屋に住んで一年、山の中にサウナがほしくなった。普通のサウナは電気を熱源にしているのだが、山小屋に電気はない。木を燃やすしかない、どの位木を燃やしたら汗をかく温度になるかもわからない。
 
町のサウナ室は100°C~110°C位までになっているのは知っていた。考えてみても結論はでない。試しにサウナを作ってみる事にした、サウナ室の広さは一坪にした。熱源はドラム缶を横にして使う事を考えた。

ドラム缶の蓋を半分切り落とし、焚き口を作る。いちばん奥に煙突をつける。焚き口の部分はサウナ室の外にある。一番奥の煙突から煙りがもれないようにつなぎ目には石綿を詰め密封し、煙突の先端はサウナ室の外へ出るようにしてある。熱くなり過ぎた時の調節の為に小さな窓も付けた。百数捨度計れる、温度計も買って来た。
初めて火を付けてみる。10分程して温度計を見ると100°C以上になっている」。大成功だ。こんなに簡単にできていいのかと思う位うまく温度が上がっている。

昼間でも山の中なので誰もいない。すぐ裸になって熱が逃げないように作った小さな扉をあけ中に入る。乾燥した熱い空気が鼻の粘膜を刺激する。サウナ室の壁際に並んで3人が座れる様なベンチも作ってある。
ベンチに座ってみた。あつい!ドラム缶は真っ赤になってその熱で熱くて座っていられない。これでは長く入っていられない。

翌日解体屋で流し台に使っていたステンレスの板を見つけてきて、ドラム缶の廻りにL字型に付けてみる。今度は大丈夫だ。直接の熱はこなくなり快適だった。10分近くがまんして入っていると汗が吹き出て来る。燃やすのは、枯れ枝や枯れ葉枯れ葉で十分だった。ある程度温度が上がった後は太めの木を入れて置けば長い時間温度が下がる事はなかった。

サウナから出ると松ノ木の下にある木の風呂桶にはった水風呂に入る。山の中で自分の作ったサウナに入れるなんてなんて幸せなんだ、最初は1人で入ったサウナだったが、今度友達が訪ねて来る時の事を思って1人ニヤニヤして入っていたに違いない。


・ニワトリが空を飛ぶ
 

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出来るだけお金を使わない生活を考えていた私が買う物は、ほとんど決まっていた。豆腐、納豆、油揚げ等の豆製品と切り昆布やワカメ等の海藻、それと玄米だった。

それ以外必要なのは、野菜だったが、これは身近で手に入れる事が出来た。ある日、子供の頃食べた卵掛けご飯を思い出し、にわとりを飼う事にした。養鶏場に行きひよこを3羽買って来た。
山小屋の南側に金網で囲いを作り、ニワトリ小屋を作った、キツネ等に襲われないように愛犬ガルの犬小屋をにわとりの囲いの脇に置いた。

ニワトリは、日に日に大きくなり、1m程の高さの金網を飛び越える様になった。朝と晩コゥコゥココと呼んで金網の中にえさをまくとニワトリは山の中の何処からか表れて来るのだった。
ある朝、目をさましてベッドの中から窓の外を見るとテラスの脇に立っている松ノ木の上の方の枝にニワトリが2羽とまっていた、地面からは4m近くもありどんな風にして登ったのか考えさせられてしまう高さだった。

次の瞬間ニワトリが飛んだ!羽根を羽ばたかせ10m近くも滑空したのだった。すごい!ニワトリも鳥なんだと思った。
ニワトリは金網で囲まれた隅に屋根のついた小屋に住んでいた。小屋の中に止まり木を付け巣箱をつけた。数カ月たったが卵を生む気配がまったく無かった。もう卵を産んでもよい時期だ。

私は小さい頃、にわとりの世話をするのが手伝いのひとつだったので、もう卵を産んでも良い頃だと知っていた。だまされて雄を買わされてしまったのかとも思ったりした。何日か後、ニワトリが縁の下へ入って行くのを見て奥の方を目をこらして見た、なんとそこに卵が山になっているのが見えた。

腹ばいになり縁の下へ入って見ると、23個あった。やっぱり、産んでたんだ。山のように重なった卵のほとんどが腐っていた。ニワトリは同じ所へ卵を産むのが分かったので、その中の1つに印を付けて巣箱へ入れてみた。翌日は、2つになっていた。こうして、私は子供の頃に食べた、味わい深い卵かけご飯を食べれるようになった。

しかし、そんなに山深い所ではないのに競争相手がいた。ある時、巣箱の中の卵をとろうとして手を伸ばして一瞬氷りついてしまった。卵を飲みにヘビが中に入っていたのである。もちろん私はそのどろぼうを成敗した。

また、ある時にはサウナ室の脇の木ノ下に卵の殻だけ落ちていた、人に聞くとカラスが盗んで松ノ木の上から落として割って食べるらしい。こんなにわとり達に愛着がわき、その頃のアイドル3人組にちなみ「キャンディーズ」と名付けたのだった。


・「原木なめこ」は2年後に


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しいたけは、農家ではほとんどの家で作っている。山小屋生活でも薪にする「くぬぎの木」で良い椎茸を栽培する事ができた。椎茸の菌を手に入れる為に行った農協のパンフレットでなめこの菌がある事を知り、早速注文する。

近所で「なめこ」を栽培している人はおらずパンフレットを読んで準備をする。「なめこ」栽培には、桜や柳の木が良いと書いてある、父に話をするとすぐ木を手に入れる事が出来た。柳の木は川沿いに切り倒したものがあり、桜はお寺の木を切り倒すのでそれをもらえる事になった。

山小屋に切った木を運び菌を植える。かなずち状の穴をあける道具で木に穴をあけそこへなめこ菌がついている木屑を打ち込んでいく。15cm以上の太さの原木は15cm位の輪切りにして菌を打ち込み、杉の林の中へ並べる。細い物は横に寝かせて置く。

キノコを上手に出す為には、半日陰でキノコ菌を「ほだ木」全体にまわらせる事が大事になる。山の南側斜面にある、杉林の下はしいたけには大変良い条件になるのは、わかっていたが「なめこ」については全くわからない。
杉林の下の草を刈り取り、なめこ菌を打ち込んだ桜の木や柳の木を並べてみると、結構な広さになった8畳位の広さにずらっと並んだ「ほだ木」は壮観だ。木を短く切ってから、菌を植えて並べるまでに3日間費やした。

「ほだ木」はあまり乾燥し過ぎると黒い苔状のものが繁殖してしまいきのこは出てこない。こうして、杉林に「ほだ木」を並べても仕事はまだ残っており、数カ月後には、上を下に直して菌をよく廻す仕事をする夏には、「ほだ木」が蒸れないように廻りの草を刈ってやる。

こうして原木に菌を植えてから2年目の秋、杉林の中に入った私の目に飛び込んだ光景は素晴しいものだった。一斉になめこが出ていたのである、きらきら光っている。それも町に売っているものとは比べくらべようが無い程、立派な「なめこ」だった。茎は親指程の太さのものもあった、どれもが、生き生きしていた。

特に、太い桜の木に出た「なめこ」は最高だった。収穫した「なめこ」で「なめこうどん」を作ってみた。こんなにうまい「なめこうどん」は食べた事がなかった。
香り良し、歯ごたえ良し、味良しで文句のつけようが無いものだった。近くにあるゆずを取りその皮を2~3切れ入れた「なめこうどん」は、商売でやっても十分評判になるのを感じる程うまかった。困ったのは「なめこ」が一斉に出て来るので食べきれない事だった。

隣近所には毎日配って歩いた。「なめこ」のみごとさにびっくりされ、食べた後では、「うまかった!」と喜ばれた。喜ばれた事で自信を付け、近くにある市営住宅に販売に出かける事にする。
パックの中に檜の葉を引き「なめこ」を並べゆずを1個入れ説明書を付けた。20パック用意したものはあっという間に売れた。その後いろいろな所へ行く機会があって原木で出した「なめこ」を買ってみるが、私が栽培した「なめこ」より味の良いものに出会った事がない。もう一度食べてみたいあの「なめこうどん」である。

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