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神様とキツネとまんじゅう

 上野に着くまでの間、当然ながら子どもたちは仲良し同士下段ベットの狭い空間に集いのトランプゲームやら何やら始めだした。
 汽車内の移動は乗り込んだ同級生たちの二両の客車に限定されてしまう。
 好奇心のままに車両内をうろついて見ても楽しい隠れ家は見つからない。勢い用を足す目的でもなくトイレをのぞけば、あらかじめ教師がドアの前に立ち待ち構えている。

 たいがいはこんなあんばいで思春期の男女の好奇心を満たすようなスリルには出会えないままに、教師からの消灯のオフレが車内にこだます。
 ヨネたちの女の子グループも四~五人たむろしながら、オカルト好きで背の高いススキのような幸子の 
『修学旅行の就寝前こそ絶好のチャンスだー!』的ネタを普段の早口な口調をぐっと抑えて、今にも仏壇のカネが「チーン」と鳴りそうなトーンでとつとつ語り始めた。

真夜中田んぼ

 
  いきなり幸子のテンションが高い
「だ・か・ら・マカチガイねえ~つ~の‼️ オラの小学校の教頭先生に聞いた話なんだからねッ、よぐ聞げよ。しかもこれはつい昨日聞いたばっかりの話だ」

 教頭先生がいつもの小学校の体育館での時代劇映画観賞会の後片付けをしていたんだけれども、フィルムの手入れやら映写機の修理やらが重なって家に帰る時間が随分と遅くなってしまったもんだ。
 教頭先生は
「さて、随分遅くなってしまった。じゃ今日は近回りして田んぼのあぜ道ぞいをバイクで帰ることにしよう。雨も降らず、星も光っていい天気だから少しくらい暗くても近回りして早く帰って、カカアの作ってくれる晩御飯早く食べたいからな」と。

 学校から田んぼ続く狭い獣道をバイクで降りていくと、広い田んぼの一帯が見えて来た。暗くて細かいところまでは分からないが、沢山のハゼやニョウ。仕舞いきれないで立て会わせたままの稲の束などでこの辺りの田んぼ一帯が十月の十五夜に明るく照らされて、こんな真夜中にも関わらず、何処の国にあるやは知らぬが、田一面あちらこちらに金色堂が建てられている風情に見えるのでした。
 
ハアー 今年は豊年満作でいがったなあ

 って独り言いいながら教頭先生はバイクをゆっくり走らせながらあぜ道を走っていたらば、なんだか五十メートルばかり先の田んぼが周囲より明るくて、どうやら耕運機の音が聞こえる。月明かりにしては明るすぎる。
 はて? このあたりの田んぼの稲刈りも全部終わってしまっているのに、なしてここだけ刈り遅れているのだろう。
 訳を知りたくて話を聞いて見ようと思った。
 近寄ってみると耕運機のライトに照らされた田んぼに四・五人の若い衆が鎌を手に刈り取り作業をしている風に見えたのだが… 待てよ 
 この田もよその田と同様ですでに稲の刈り取りは済んでいるにも関わらず、若い衆は刈り取りの仕草を続ける何だか幾分足元がおぼつかないのが気にかかる。

 教頭先生は合点が行かないとかぶりを振りながら、この田の持ち主の与作に話を聞いてみた。
「おう、与作さん夜中までお疲れさまだじゃ。とごろでこの田んぼまだなんぼが刈り残しあるんだべが。見た目には綺麗に刈り終わったように見えるけれども。まずまずご苦労様ですじゃ」
 すると与作は教頭先生の姿を見るなり随分とよろけながら(他の若い衆も同様によろけていた)近寄り、
「おやまあ教頭先生様こんな遅い時間まで、まんつご苦労さまだこと。いや、オラ達はホラ今年の作柄同様に来年の豊年満作を願いまして『お神楽』ば奉納させてもらっおりますのですじゃ。
何かのご縁なのでしょう。町からの帰り道、そこの曲がり角で『花松神社』の神主様とバッタリ逢いまして神主さまのお勧めの通りにご祈祷がてら神楽をやっております」

 よくよく見れば、与助さんも他の若い衆も何処か目は虚ろ。話し方も妙に大人しげ。
 さてその神主さんは、教頭先生も一・二回拝見したが今より随分恰幅が良かった記憶がある。
 そして、田んぽの角のススキの生えた盛り土の上に四つのまんじゅうの入ったお重を辺りに散らばった稲を束にして、今まさに『神主』がお重を縛り、片手に抱えたところで『神主』のはかまが雷光一閃、縦に真一文字に裂け、そこから火柱かと見まごうばかりの金色の尾が右左に揺らめいたかと思うや否や~~~

実はこれは私が次回作として展開しようとしている『ヨネ』の冒頭です。

図書館で徐々にまとめつつあります。
もう少々お待ちくださいませ。

 

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