瞬間に目の前に未来が展開する不思議


春には大きな地震があったんだよな

 教室の窓際で収穫まじかの黄金色に広がる田んぼを眺めながら太一がふとそう思った時、片肘をついてる机が揺れはじめた。段々揺れがひどくなり、教室の中の女生徒たちがが小さな悲鳴を上げはじめて、窓ガラスがガシャガシャ音を上げた辺りをピークに地震の揺れは次第に収まった。
級友たちが誰となく顔を見合わせながら、
「十勝沖地震より小さかったナ」
 と口々に言う。
 太一が「春には大きな地震があったんだよな」正にそう思ったときに揺れた地震。
 誰に言うともなく「まるで予言したみたいに地震来たな」と言いながら秋晴れの青空を見上げて。

 前フリもそこそこに、この同じ教室で起きた「未来が目の前に現れた現象」を太一と一緒にお伝えしましょうか。

 時期や季節ははっきり覚えていないが、二時間目と三時間目の間の休み時間の時だった。
 十五分。少し長めの休み時間だから、おおよその生徒は席を立ちトイレや廊下に出て思い思いに時を過ごすありふれた休憩タイム。
 それは太一も一緒で、自分の席を立つと、教室の後ろの壁へと歩み始めた。気分はふんふんふん。重くも軽くもなし。と、歩き出すと突然、頭の中にスクリーンが拡がり、級友たちの動画が展開し始めた。
 それは、太一と同じように教室の後ろの壁に向かう数人の一団が小さく嬌声を上げながら塊になると、その中の二人が隅の掃除用具入れの箱に乗りあがり、真上の天井点検口に入っていく。
 この時見たのは頭の中の映像であり、これから二・三秒後に全く同じ展開が現実に起きた。

 あー何でだ何でだ!

 太一は唖然とした。教室でこんなことが起きたのは初めてだし、何よりも頭の中にあらかじめ映画のスクリーンに展開した動画が太一のすぐ目の前で現実に起きたからだ。
(当時の掃除用具箱は小さくて木製で可愛いものだったし、それを踏み台にして天井の点検口に入るのは難儀だから普段はそんな遊びはしなかった筈)
 結局このことは誰にも打ち明けられず、今日まできている。いちいち話すことでもないし、どうせホラだと思われてしまうだろう。何よりもあの時に驚いたのは太一本人だった。

 世の中には説明しがたい不思議は色々あるけれど、いざ自分で体験した場合にはどうにかしてつじつまを合わせようとするもの。この一件は今も自分の中ではつじつまを合わせられないでいる。
 また、つじつまは合うけれども不思議なこともまたあるもの。

フィクションのはずなのに現実が絡み合う 何でだー!

 だから世の中は分からないもので。



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