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PMMがボトムアップで新規事業の売り方改革を進めたら2年でようやくスタートラインにたどり着いた話

株式会社SmartHRでプロダクトマーケティングマネージャー(以下PMM)をしている埜村(のむら)です。

SmartHRのPMMは、何が売れるかを考え、それをプロダクト化し、どう売るかどうサクセスさせるかに責任を持つ職種で、私は2020年4月にSmartHRに入社してからほとんどの期間を「タレントマネジメント」系の機能に関するPMMとして働いています。

SmartHRというと労務系の業務を効率化するSaaSプロダクトのイメージをお持ちの方も多いと思います。実際に私が入社した時のSmartHRでは、タレントマネジメント領域に関わっていたのは開発チームが2チームと、ビジネスサイドでは私を含めたPMM2人のみという状況でした。

そのような状況の中で、当時SmartHRの新規事業だったタレントマネジメント領域を伸ばしていくために行ったことを、特に「売り方」の観点で書いてみようと思います。

ちなみに、タイトルにもありますが丸2年いろいろ取り組んだ結果、ようやくSmartHRのタレントマネジメントに関する売り方を変えていくスタートラインに立てたという状況だと思っています。
これが早いのか遅いのか、良いのか悪いのかは分かりませんが、PMMというちょっと特殊な立場で今までとは違ったやり方を組織に浸透させる動きをしている方や、その中でも特にボトムアップで変革を進めている方の参考になれば幸いです。


※気合いを入れすぎて7,000文字超の大作になってしまいましたが、それに負けない気合いで読んでいただけると嬉しいです!

SmartHRがタレントマネジメントを推進する際の課題

SmartHRは、「Employee First. すべての人が、信頼しあい、気持ちよく働くために。」というサービスビジョンを掲げ、主力事業でシェアNo.1の労務管理系の機能を軸に、すべての人が、信頼しあい、気持ちよく働くための組織開発や人材開発の機能としてタレントマネジメント領域に展開しています。

そのSmartHRでタレントマネジメントをやることのなにが大変だったの?という話を先にお伝えすると、SmartHRが「労務業務の効率化」で「No.1」ということが、タレントマネジメント領域をスケールさせやすい売り方の浸透を阻んでいたように思います。

「労務業務の効率化」が主軸なことで発生した壁

あくまでタレントマネジメント領域と比較した場合の私の感覚ですが(※ちなみに私は7年ほど組織人事領域で営業・CS・コンサルティングをしていました)、労務領域は比較的お客様が効率化したい業務がイメージされており、「機能を利用する」ことでお客様がやりたいことが実現できるケースが多くあります。(もちろんオペレーションや運用の提案は必要)

そのため、お客様がシステム化できていない部分を聞き、その部分をどうしたいのかを聞き、それを叶える機能を紹介するという流れで機能説明を中心に提案を進められます。

たとえば、入社手続きを紙で行っているお客様がそれをシステムで行いたい!収集したい情報はこんな情報で人事はこういう情報を見たい!とおっしゃったとします。
その場合、紙ではあれ現在もお客様は同様の業務を行っているため、それに対してシステム化することで同様のことがもっと簡単にできますよという提案をシンプルに行うことができます。

一方でタレントマネジメントは、現在は同様の業務を行っていないことも多く、またお客様自身の課題認識が明確でないこともあります。それ故単純に機能を紹介しても使う必要性を感じていただけなかったり、その状態で機能を使ってもお客様がやりたいことが実現できないことが多いと感じています。

たとえば、サーベイ機能に興味があるというお客様も、そもそもなんのためにサーベイを実施するのか、サーベイを実施した場合どんな仮説に基づいてどうサーベイを分析したら良いのかなどを明確にイメージできているケースはあまり多くありません。

そういった状況では、そもそもなぜサーベイに興味があるのかや課題感はなんなのかを聞きながら、やるべきことを明確にしていく必要があります。

そこで「離職が課題で、、、」という話が出たとしても、じゃあサーベイで現状を把握しましょう!というだけでは、サーベイを実施して課題を解決できるイメージが湧きづらく納得感を得られないことも多くあります。
納得感を得るためには、ある程度の組織に関する専門性を駆使してヒアリングをしながら、離職の原因の仮説を立て、「離職の原因は管理職がメンバーを育成できていないことの可能性があるので、メンバー育成に関する管理職の取り組みやメンバーの反応をサーベイで調査しましょう」というような具体的な提案が必要です。

それを「労務業務の効率化」を中心に提案してきたSmartHRが行うとなると、提案スタイルや必要な知識に大きな違いがあり、タレントマネジメント領域の売上や受注率を伸ばす障壁になっていました。

また、提案時や導入後の支援で具体的な課題把握や運用提案が実施できていないと、ご導入いただいた後に「結局サーベイ実施したけどうまく活用できないぞ、、、」というケースも発生し、お客様のサクセスにも影響が出てしまいます。

「No.1」だったことで発生した壁

SmartHRは労務管理SaaSとしては先駆者で、機能も実績もNo.1です。
そのためお客様への提案をする際にも、競合他社との細かい機能比較をしながら「他社ではできないけどSmartHRならこれもできますよ」というような提案は先行者利益を活かせる効果的な提案スタイルだと思っています。

ところがタレントマネジメント領域では後発なので、当然単純な機能比較では競合他社ができることがSmartHRではできないということもあり、労務では勝ちパターンだったはずの提案スタイルを実施してもタレントマネジメント領域では勝てないということが多発します。

また、タレントマネジメントにおいては枝葉の機能がなくてもお客様の根本的なニーズを満たせることはよくあります。しかし「機能」を中心に提案してしまうと、本当はSmartHRでもお客様のやりたいことの実現や課題解決はできるのに、そこに直接関係ない機能で比較されて競合に負けてしまうということが起こります。

そのため労務の勝ちパターンに加え、新たな提案スタイルや知識の習得ができないとタレントマネジメントを早く適切にスケールさせることができません。

しかしそこに対して「労務ではこの方法で勝てている」という事実が新たな提案スタイルや知識の習得に取り組むことへの大きな壁になっていました。

また、労務が強いのでそれを契約するならとセットでタレントマネジメントが「そこそこ売れている」ということもあり、大きく提案方法や知識量を変える必要性を感じづらかったこともあったかなと思います。(個人的にはそのままだとニーズが顕在化しているお客様しか契約できず、そもそも潜在的な課題が多いタレントマネジメントではスケールしづらいのでは?という危機感がかなりありました。)

ボトムアップで進めた新規事業の売り方の改革内容

ここからは前述の提案スタイルの改革や知識の習得をどのように進めたのかについてお伝えします。
かなり長い取り組みになっていますが、なぜそうなったのかの考察はこの章の後に記載します。

①機能売りじゃなくて課題解決提案しないと売れないしサクセスしないよ〜とピーピー言う(最初の1〜2ヶ月)

これは何の効果もなかった話なのですが、組織人事領域での機能売りはお客様に刺さらない感覚を強く持っていたので、タレマネやるなら今の売り方だと厳しいと思う!という話をずっとピーピー言ってました。

ただ、少し触れたように当時のSmartHRでタレントマネジメントの勘所がある人は多くなかったので、「そんな難しそうで回りくどいことする必要ある?」「それってコンサルがやることじゃないの?」という反応が多くなかなか理解を得られず特に効果はありませんでした。

②提案資料の提案ストーリーを課題フォーカスに変更して使い方を啓蒙する(3〜12ヶ月)

とはいえ、特に初期は機能も絞られていて機能中心の提案ではなかなか価値を感じてもらえないという課題はあったので、仕組みを変えようということで提案資料をいじりました。

具体的には、組織人事領域だとよくあるパターンだと思いますが、日本の労働力人口の現象などを背景に選ばれる組織づくりの必要性などに触れ、組織づくりに関する取り組みの必要性や課題を訴求した上で、SmartHRで解決できる課題に紐づけて機能を紹介するという構成にしました。

これも当時は前段の訴求ストーリーが難しくてうまく語れないという声があったり、人によってはそこを飛ばして機能の説明から始めたりしていて、ものすごく効果があったとは言えないです。

ただ、この提案ストーリーは現在の提案資料でもベースとして利用されていたり、試しにこのストーリーで話してみよう!とチャレンジしてくれていた人には良さが伝わっていて、一定の効果はあったようにも思います。

③商談に同席しまくって実際にやってみせてこの方法すごいぞ!と思ってもらう(4ヶ月〜)

しかし、提案資料を変えただけですぐに何かが変わるわけもなく、これが成果につながる実感を営業の方が持つことも難しいです。
そのため、自分自身が商談に同席して実際にこのストーリーを使いながら提案を行ったり、お客様の課題や目的を深くヒアリングして、課題解決のための提案を実施しました。

これをやっていると、一緒に商談に出ていた営業の方は「お客様の反応が全然違いました!」「録画を見てこの方法真似してみます!」というように、徐々に自分でもやってみようと思ってくれる方が出てきたり、いろいろと質問をしてくれるようになったり、勉強会の実施をお願いされたりするようになり、ついでに私個人に対しても「タレマネと言ったら埜村」的な認知が徐々に生まれてきたように思います。(この認知を得られたことが後々かなり効いていた感じがあります。)

そうして半年くらい同席しながら啓蒙を続けて、ある程度新しい提案スタイルの必要性を感じてもらえてるかもな?と思ったので、セールスイネーブルメントやマネージャーと話してタレントマネジメントに関するオンボーディングやイネーブルメントを増やしていくことを話してみました。

結果は「まだ労務を優先したい」「そこまでやることの効果がわからない」といった反応で、なかなか会社を動かすことはできませんでした。
とはいえ同席していた営業の方の反応は良く、徐々に信者!?も増えてきていたので「今がチャンス!」と思って実施したのが④の有志の勉強会です。

④有志の勉強会を開催して伝道師を生み出す(11ヶ月〜22ヶ月)

実際に商談にたくさん参加していたこともあり、この頃にはタレントマネジメントに合った提案スタイルへの変革の必要性への思いはさらに強固になっていました。

ついでに、私自身がもともと人材開発のキャリアが一番長く、ちゃんと教えたらある程度のところまで人を育てることができそうな感覚もあったので、強制?必須?でイネーブルメントできないなら有志の勉強会をやろう!ということで、手挙げ制 全6回の勉強会を企画しました。

内容は以下のような感じで大前提の労務とタレントマネジメントの違いをしっかり理解してもらった上で、組織づくりの提案を行う際の知識のインプットを行いました。
また、この領域ではお客様の認知を変えたり気づきを与えるコミュニケーションも重要になってくるので、コミュニケーションのポイントなどもお伝えしました。

【全6回のテーマ】

  • 第1回 〜労務ニーズの商談とタレマネニーズの商談の違い編〜

  • 第2回 〜事業モデルごとの組織づくり編〜

  • 第3回 〜組織ステージごとの課題編〜

  • 第4回 〜お客様の変化を促すためのコミュニケーション編〜

  • 第5回 ディベート編〜ハイパフォーマーにフォーカスするか全員を対象にするか〜

  • 第6回 ディベート編〜組織を変えるなら採用強化?それとも既存社員の変革?どっちが良い?〜

ちなみに、やるからには効果を出したいということで参加者にはこんな条件を伝えて、私自身もコンテンツ作成や参加者へのフィードバックには全力で臨みました。
(社内では「タレマネ大学」という名称がついたので、最後には卒論もありました。)

このタレマネ大学という有志の勉強会の取り組みは2期実施をしており、当然諦めの悪い私は1期終了後再度マネージャーやイネーブルメントとかけあいましたが、この時もここまで大掛かりなことを必須でやるのは。。。という形で正式展開はできませんでした。

⑤勉強会参加者の成果や口コミを活用して再度必要性を啓蒙する(16ヶ月〜)

タレマネ大学1期が終わってからは、卒業生たちが学びや良い評判をいろいろなところで話してくれたり、実際に受注やお客様のサクセスにもかなりつながっていたことから、その実績をもとに2期の開催を呼びかけたり、引き続き「みんなやった方がいいよね?」という啓蒙を続けて、タレントマネジメント領域における提案スタイルの理解者や、知識の習得に意欲的な人を増やす活動をしました。

実際にタレマネ大学参加者は、参加していない人と比べて1件あたりの平均受注金額が約13万円高かったり、参加前後での受注率が2.1%上昇したりと数字で語れる成果が出ていました。

↑参加者からの嬉しい声↑
※1期はタレマネ大学ではなく「ジンマネ大学」と呼ばれてました。
↑Slackの受注報告チャンネルの投稿↑
※私は社内ではmansaiと呼ばれています。

ボトムアップで進めた理由と振り返り

ここまで読んでいただいた方は「なんか回りくどいことやってんな〜」「なんでボトムアップでやったの?」などいろいろお感じになったことでしょう。

私も同じ気持ちです(笑)
そうなった背景にはPMMの特性と、いわゆるイノベーションのジレンマ的なものが影響していたように思います。

まず、PMMは営業やCS組織の人間ではないため、その組織に対する人事権や意思決定権がありません。(SmartHRだけもしくは私の能力がないだけかもしれませんが)

そのため、いくら私が課題訴求の提案スタイルにシフトしたかったり、セールスやCSの知識を増やす取り組みをしたくても、「これに変えていくぞ〜」とはできず、そこにはセールスやCSの意思決定者の合意が必要になり、これがボトムアップで進めることになった理由の一つです。

そしてイノベーションのジレンマ的な話なのですが、SmartHRは労務を中心に伸びてきた会社で、労務領域での勝ちパターンが浸透しています。
また、ほとんどの社員が労務はわかるけどタレントマネジメントには詳しくないので、タレントマネジメントの当たり前をすぐに理解したり必要性を感じることは難しかったりします。(タレマネバックボーンの人にはすぐ伝わるけど社内にはなかなか伝わらないことがたくさんありました、、、)

そんな状況でいくらタレントマネジメントで勝つには課題訴求が必要だ!もっと知識も身につけなきゃ!と言っても、「今も売れてるし何が問題なの?」「とはいえ労務もまだまだ伸ばさないとだからそんなことやってる場合じゃない!」と思うのは当たり前で、逆に私も労務に明るくないので労務の話でピンとこない話も山ほどあります。

そんな状態だったので、結果的には自分の力が及ぶ範囲で人を感化しながら、タレマネなら埜村という認知も作りつつボトムアップで進めたことが、組織を動かすことにつながったのかなと思っています。

これが仮にPMMに人事権や意思決定権があったとして、トップダウンで進めてうまくいったかというと結局新しいやり方や学習の必要性を理解していない状態ではうまく進まなかったのかなと感じています。

新しいことを推進するミッションを担って外部から採用された人が、なかなかうまく組織を動かしきれなくて去っていくという話をいろんな会社から聞きますが、自分の論理や感覚を理解して賛同してくれる人が少ないことが理由のことが多いのではないかな?なんて思います。
どんなに論理展開の筋道が正しくても見る角度が違えばその論理に対する納得感は生まれにくいので、その論理展開の前提に対する理解をしてもらうことが大事なんだろうな〜。。。

また、もしかしたらなんでPMMがそんなイネーブルメント的なことをガッツリやってるの?と思った方もいるかもしれませんが、展開したい新しい領域に詳しい人がイネーブルメントチームの中にもいない状態の場合、そこに専門性があるPMMが先導する必要が出てくるのかなと思います。

「PMMという立場」で何か新しいことをやっていくには、時間はかかるし地道かもしれないけど、少しずつ人を巻き込みながらボトムアップで進めることで成果につながることもあるのかもなというのが今の感覚です。

スタートラインに立った今とこれから

で、今はどうなってるの?という話ですが、なんと24年からイネーブルメント組織が中心となり、セールスのマネジメントレイヤーに必須でタレマネ大学の取り組みが実施されることになりました。

新しい方法を浸透させるにはマネジメントから必須で実施して、共通言語を作り一つの文化にしていくことが大事だと思ってやってきた私としては泣きそうなほど嬉しい結果です。
ついでにタレントマネジメント専門の営業組織も発足しました。

マネジメントを中心に共通の知識や方法を学びメンバーに展開する土台ができ、専門部隊もできたのでようやく提案方法の変革へのスタートラインに立てたと思っています。

あとはこの勢いをそのまま成果に繋げられたら、タレントマネジメント領域における提案や知識をSmartHRのスタンダードにできる気がするのでそれに向けて頑張っていきます。

SmartHRのPMMの魅力

最後にSmartHRのPMMについて宣伝させてください。

ここまで長々と書いてきた取り組みですが、基本的には私が勝手にSmartHRにとって必要だ!と思って進めてきた取り組みです。(もちろんいろんな方のご協力がめちゃくちゃあったので超絶感謝)

ここが私的SmartHRのPMMの推しポイントで、誰かに言われるのではなく自ら必要だと思った取り組みに合理性があれば、自分なりのやり方でいろいろチャレンジできる良さがあります。方法も自分の強みが活きる方法を選択することができます。

もちろん前提は会社や事業が良くなるためですが、同じ目標に向かって自分で考えて主体的に課題を解いていきたい方はぜひSmartHRのPMMも検討してもらえると嬉しいです!

ちなみにSmartHRのPMMにはわりと開発よりで機能の企画をすることが多い人もいれば、マーケと一緒にコミュニティを広げている人もいれば、私のように営業やCSと関わることが多い人など様々で、きっとご自身の価値が発揮できる領域があるはずです!SmartHRでお待ちしてます〜。


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