ポストコロナへ一歩ずつ~動きはじめた地域の風景~
新型コロナウイルス感染症が5類に位置付けられ、ようやく自治体レベルでの観光振興の取組が本格化してきたように感じます。
こうした状況の中、私事で誠に恐縮ですが、長年勤務した埼玉県庁を縁あって昨夏に退職し、今は地元の副町長として勤務しています。
県庁在籍時には、「とにかく尖っていこう!」を旗印に、コンテンツツーリズム施策を好き勝手やらせてくれた県庁の懐の深さに、今も深く感謝しています。それにしても、よくクビや左遷にならなかったものです(笑)
さて先日は、当町でも数年ぶりに地域の夏祭りが復活し、盆踊りや住民有志による露店などを久しぶりに堪能させてもらいました。主催者が冒頭で、「今回の祭りのテーマは、コロナで失われた『笑顔』と『ふれあい』を取り戻すことです!」と力強く宣言されていました。言葉にすごく説得力があり、胸にしみました。
感染防止のため運営方法に制限がありましたが、コロナ以前を超える多くの来場者が訪れ、いたるところで笑顔がはじけ、テーマは十分に達成されたと実感しました。
その光景を眺めながら、ふと県観光課在籍時のことが思い出されました。緊急事態宣言も発令され、多くのアニメファンが集う「アニ玉祭」や、電車等でアニメの舞台地を巡る「埼玉聖地横断ラリー」などの実施可否について頭を悩ませる日々。ファンの期待には応えたい、でも、不要不急の外出抑制や3密回避が叫ばれる中でイベントを実施してよいのか…。職員間あるいは関係団体などとの議論が何度も行われました。
出した結論は、動画配信形式で「バーチャルアニ玉祭」を開催すること。メインMCにアイドルとVtuberを起用し、市場規模が拡大中のeスポーツコーナー、VR動画を活用した観光地体験などの企画を盛り込みバーチャル感の演出を図りました。
「バーチャルアニ玉祭」は令和2年度から3回開催され、令和4年度にはコンテンツの一部を配信とリアルを組み合わせたハイブリッド型で実施しました。
この形での開催は、アニメファンと地域、あるいはアニメファンの交流機会づくりが難しいことや、開催地のにぎわいづくりや経済効果の創出が図れないという課題があります。
一方で、コロナの感染状況に左右されずにイベント開催が可能なことや、遠方の方にもアニ玉祭や埼玉観光の魅力に触れていただけるといったメリットもあります。
これらの点についていかに折り合いをつけるかが、ポストコロナにおけるコンテンツツーリズムを成功させるカギになると考えます。
バーチャルアニ玉祭から派生した観光施策も生まれました。埼玉バーチャル観光大使「春日部つくし」さんの任命です。
令和2年度のアニ玉祭でVtuberの可能性を再認識し、Web上で埼玉県観光をPRしてくれるバーチャル観光大使を任命しようと県観光課内で盛り上がりました。
せっかくなので、単に専門業者へ委託するのではなく、魅力的な観光大使をオーディションで選ぶことにこだわりました。(発想のヒントは、当時はやっていた某アイドルグループです♪)
奇跡的に県庁内の予算審査手続きもかいくぐり、無事にオーディションが行われた結果、「春日部つくし」さんが大使に就任されました。
彼女はコロナ禍に負けず、埼玉愛に満ちたPR活動を展開してくれました。今年3月には「春日部つくしと行くバスツアー」という大胆な企画も実施され、チケットは1時間半で完売!当日は、彼女がガイド役になっての観光地巡り、車内でのLineチャットによるファン交流のほか、ミニライブなどで盛り上がりました。
ポストコロナにふさわしい新しい観光の形かもしれませんね。
また、祭りの光景を見ながら思い浮かべていたことがもう一つあります。それは、4年ぶりに開催された鷲宮八坂祭での「らき☆すた神輿」の渡御です。ファンの思いと地域文化をつなげる同神輿の存在は広く知られていますが、ぜひこちらのサイト(「らき☆すた神輿ウェブサイト」)もチェックしてみてください。
あいにく、私は公用と日程が重なり参加できなかったのですが、従前と同様に大勢の担ぎ手が全国から集まり、元気な掛け声が街中に響いたようです。久喜市商工会鷲宮支所からご提供いただいた以下の写真からも、熱気が伝わってきますね(名カメラマンの野村さん、本当にありがとうございます!)。
「らき☆すた」を通じたファンと地域との絆は、コロナ禍を経ても脈々と引き継がれています。作品が好き、舞台である地域が好き、人と人との交流が好き。鷲宮の取組を支える思いは、ポストコロナでもコンテンツツーリズムを成功させる大切な鍵なのでしょう。
書いた人:島田 邦弘
埼玉県上里町副町長。間野山研究学会理事。元埼玉県庁職員として、アニメを活用した観光振興等に公私を問わず関わる。令和4年7月より現職。