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ためらわずにむしりとれたら微笑んで誉めて


あなたが自分の肉片を切り取って差し出す
痛かったでしょう?
私はうっすらと目に涙を浮かべて
生のままその肉片を指で口に押し込んでしまう

次には私が自分の足の爪を一枚一枚はがしていく
これでもう早く走ったりはできない
でもいいのあなたと居られるならば・ゆっくりとペンチではぎとっていく
私の背中は細かく震えていて、あなたはそれを少し離れた場所で眺めている
あなたはそれを まるで植物の成長を確かめるような目つきで眺める
私は痛くないふりでさらにあなたを喜ばせる

血まみれの両手を広げてあなたに近寄ると
「偉かったね」とあなたは私の頭を撫でて笑う
当然だという誇りをにじませたあなたの口調

なぜなら二人は愛しあっているのだから

床に散らばった血まみれの爪は じきに 使われなかった切符へと変わり
捨てられた選択肢としての行き先を あいまいにぼやかせたまま
切符はやがて塵に返って消えてしまう

なぜだろう愛情の証明はいつも削り取って差し出すこと
我慢してくれる 差し出してくれる いつもいつもいつも
いつもいつもいつも 誰と居てもいつも

だけれどもう 二人が身にまとっているものはそれほど多くはなくて
むき出しの筋肉と神経をさらしたまま呆然と向き合えば
抱擁すら疼痛の源で 導かれる喜悦の嗚咽も液状の苦痛の中に溶け
ついに直に肉体に歯を立てて相手をむしりとれば
まるでどちらかが消えなくてはならないような心地
どちらか先に消えた方が よけいに愛が深いような?

チョット待ッテ 私タチニハ愛ガアッタハズ 愛ガ二人ヲ包ミ守ッテクレテイルハズ

ところが「愛」は自分の中の 自分だけの野蛮な宗教で
その神は容赦なく奉仕と犠牲を求め
自分でも 相手でもない 何か他のものになれと囁く

私たちは見つめあう
力が抜けていたはずの指先がかすかに脈をうつ
そもそもの発端を相手の瞳の中に求める
すべてが大きな冗談・たぶん交われない位置の線と
分かった時の恐怖の大きさは
なぜか安堵と釣り合っていて、それで全てがおしまい

やがてあなたは首を横に振り 首の後ろのオルゴールを止めて
ボロボロになった肉体の上から あたらしい肉・別の自分を羽織ってしまう

私は針金で地球儀を作り 中心に入れる目玉が足りなくて困っているところ
「じゃあ俺は行くから」とあなたが言う時、
目玉が足りないの中心に埋め込むのよないととても困るの、私はすでに関心を失って
「愛してた?」・・・「愛シテタ」おうむがえしにつぶやけば、
急に身体中が細い細い針金で作られていて、そこから抜け出ることができない気持ち

「・・・今度はもう 何も削りたくない なにか間違っているわ」
私は小さな声で言う
だけれどそれもまた虚栄の一種
最後のキスで絡み付いた舌を噛み切って床に吐き出し
あなたの甘い声を永久に封じてしまいたい

今度は私があなたを あの目線で追いかけている
私は心の中で指を折り 数えている 声には出さないで
数える度にちがうその合計

あなたの肉の味を覚えている

あなたにすら分からない肉の味を

それは私が作り上げた虚構の美味かもしれない
だけれど 流した血と 感じた痛みはホンモノだから

躊躇なく私は
頭のなかで
幾度となく指を折って
あの・秘密の・数を・数えてしまう


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大昔に書いた暗黒詩シリーズ。


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