見出し画像

いい本に出逢えて嬉しい

『農業消滅』鈴木宣弘著 平凡社新書0979
2021年7月に出版された本だから、ここ2年間の独特な社会状況も踏まえて書かれている。この本に出逢えて良かった。

例えばTVのような、なんとなく流れ込んでくる情報だけを信じて生活していては、イメージに惑わされて間違った選択をしてしまう。そのことを痛感しつつ読み進む。いつのまにか刷り込まれるようにして入り込んでくる類の情報を安易に鵜呑みにしていては、いつ梯子を外されるかわからない。そのとき抗議しても、情報を流した側は責任をとってくれるわけではない。わかっていてわざと恣意的にイメージを刷り込むための情報を流していると思った方がいい。探して選べばイメージでない情報は手に入るのだから、勝手に流れ込んでくる情報だけを信じるのは勝手にしたことだと言われるのが関の山だ。こういう本に出逢えると、その幸運に感謝する。本物に出逢えた。「食糧を他国に押さえられてしまうのがどういうことか。」「自国の農業を大切にしないのがどういうことか。」種子法廃止以来、この国がどこへ向かおうとしているのか私は気がかりで仕方がない。自分では、小規模生協で買った野菜の根元を水に浸して根を出させ、プランターに植えているだけだが。

ここからあとは、引用がほとんどで、ちょぼちょぼ感想。

アメリカは、自国の農業保護(輸出補助金)の制度は撤廃せずに、都合のいいように活用し、他国に「安く売ってあげるから非効率な農業はやめた方がよい」といって、世界の農産物貿易の自由化と農業保護の削減を進めてきた。そして、安価な輸出をおこなうことで他国の農業を縮小させてきたのである。(第1章 2008年の教訓は生かされない より)
…そう。私は子どもの頃からこれが怖かった。

目次の章立てをみていくだけでも身が引き締まる思いがする。

序章 飢餓は他人事ではない
第1章 2008年の教訓は生かされない
第2章 種を制するものは世界を制す
第3章 自由化と買い叩きにあう日本の農業
第4章 危ない食料は日本向け
第5章 安全保障の要としての国家戦略の欠如
終章 日本の未来は守れるか

そして巻末の 付録:建前→本音の政治・行政用語の変換表 これがすごい。秀逸。そして思わず笑ってしまう。笑ってしまうが、そのまま、表情が凍りつく思いだ。

●国益を守る
  自身の政治生命を守ること。アメリカの要求に忠実に従い、政権と結びつく企業の利益を守ることで(以下略)…。

●戦略的外交
  アメリカに差し出す、食の安全基準の緩和する順番を考えること。「対日年次改革要望書」やアメリカ在日商工会議所の意見書などに着々と応えていく(その窓口が規制改革推進会議)ことは決まっているので(以下略)…。

●規制緩和
  地域の既存事業者のビジネスとおカネを、一部企業が奪えるようにすること。(以下略)…。

●コンセッション方式
  食い逃げ方式。国・自治体から一部企業が運営権だけ移管され、儲けられるだけ儲けて(以下略)…。

●誠意をもって丁寧・真摯に説明する
  強引・姑息にごまかす。

●失言
  本音。

●幅広い視点からの諮問会議の委員構成
  反対する人は最初から排除する委員構成。(以下略)…。

●科学主義
  疑わしきは安全。安全でないと証明(因果関係が完全に特定)されるまでは規制してはならない。(以下略)…。

●専門家が安全と言っている
  安全かどうかはわからない。(以下略)…。


著者は東京大学大学院農学生命科学研究科教授。専門は農業経済学。

慌てて、むせながら飲み込むように読んだから、もう一度ゆっくり、じっくりと読もう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?