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自分の子どもを人前でほめること

自分の子どもは言うまでもなく大切だけど、だからこそ人前でそれをあからさまにみせるのはなんだか恥ずかしい。

私自身が母親から、人前では至らないところをまず指摘されていたし、母としてはひとつの処世術としてそうしていた。人前で我が子をほめちぎり自慢などしようものなら、それを見た他人は鵜の目鷹の目でその子のあらを探すものだから、と言っていた。他人からあらを探されない為にはその子の親は無防備に親の欲目をさらけ出してはならないと言い、私の至らない点を数え上げれば幾らでもあったから、指摘されることはいちいちごもっともだった。うちの親は、よその子のことは美点を探してほめ、自分の子・特に第一子である私に対してはよその子とは違うものさしで検分して的確に至らない点を指摘した。
結婚するときなどは夫の親に、「気が利かない娘で…。妹の方ならこまめに動くのだけど…」と話したので、「妹の方なら良かったらしいんだけどね、何もしないらしいよ」と婚家の親戚に姑が話していた。嗚呼、実母の愛…。
「だから人前で自分の子どもをあからさまに可愛がったり、ほめたりするものではないよ」と、母親になった私に実母はアドバイスした。なるほどと思ったし、実行するのは難しくなかった。実母の言動を真似すればできるのだから。
私の母親は、ウエットな乙女ふうの性格で、詩や和歌を作るのが好き、ちょっとした季節の変化にも涙ぐむような人なので、他人から我が子が辛辣な目を向けられると思うだけで耐えられなかったのかもしれない。

親というものは自分の子を人前でほめるものではない。

私の子ども達もそれに慣れた様子で人前で指摘されるがままになっていた。仕方がないことだ、自分がわるいんだから…と思っているような表情ではにかんでいた。

夏休みのある日、小学校低学年と幼稚園児の子ども達と家にいたとき、ドアチャイムが鳴った。
「私は、子育ての悩みを聴くために訪問しています」。
…は…?また新手の物売りか?
子育ての悩みだ子育てのストレスだと、知ったようなことを。
教材やら絵本セットやら売りつけるたぐいか?
宗教や自己啓発セミナーか?
子育てとくれば悩み・ストレス…そんなふうに決めつけるから、「ストレスたまっちゃって…」「母子密着はよくないから」と言い訳をつけてまだ幼い自分の子どもをそこいらに放流・放置して他人に面倒みさせて自分はママ友との世間話にうち興じる親が出る。うちの上の子に「小さい子の面倒ちゃんとみてね」と『自分がストレスだからみたくない子ども2歳児』の面倒をみさせようとしていたのを私は知ってるぞ。
物分かりよさそうに母子カプセルだ専業主婦の孤独だと論じたて、はては子どもを預けて働いて子育てのストレスを仕事で解消し仕事のストレスを子育てで解消しましょうとおためごかしに誘導するのもいる。なかには子育ての疲れが仕事の質の粗さにつながり仕事のストレスが子どもへのいわれなき八つ当たりにつながるのが関の山ってケースも出るんじゃないのか?…私はそうなりかねないよ。転勤族・範囲は県も地方も飛び越える。人それぞれ事情があるんだからせめて落ち着いていさせてもらいたい。
浄水器やら教材やらの訪問販売や、宗教勧誘目あての戸別訪問を警戒して、撃退することに決めた。
たとえ悩みがあったところで、いきなり来た不躾な人間に誰が話すのだ?

戦闘態勢でインターホンに向かった私は(ごめんね見知らぬ訪問者さん。結局私はあなたがどんなかたかは知らないままに決めつけたわけだ)出せる限り可愛らしく聞こえるような高めの裏声で答えた。
「あのぅ…。うちは、子育ての悩みはないので結構です」
(訪問者)「…えぇっ?…あの、子育ての悩みやストレスを聴いて差し上げようというんですけど」
(裏声で)「はい?ですから、子育ての悩みやストレスはないので結構です」
(戸惑いまくった様子の訪問者)「あのね、子育ての悩みやストレスをね…聴いて差し上げようというんですよ?」
(思いきりぶりっ子声で怪訝そうに)「はい。だからうちの子たちとてもいい子だから、悩みもストレスも私、ないんです💕」
(混乱した様子の訪問者)「あ…あの…💦」
(いい感じ いい感じ。もうひと息)「あら?それとも、子育てに悩みとかストレスとか、あるのが当たり前なんですか?悩みがないって私、おかしいんでしょうか?子育てのストレスって、ないのはおかしいんですか?」
(もうしどろもどろ)「い…いえ、そんなことは…💦」
(いいぞ😁)「そうですか。そうですよね。うちの子ども達、ほんとにいい子なんですよ💕。私、この子達といるのが楽しくって」
(混乱)「は…はい…」
(とどめじゃ😝)「じゃ、そういうことで。失礼しますね✨」

インターホンを切ると、幼稚園児の下の子が笑顔で抱きついてきた。
「そうだよね、おかあさん💕。ぼくたち、いいこだよね💕」と言いながら。
小学校低学年の上の子は、びっくりした表情で固まっていた。
まあそうだろう。口やかましく小言を言い、人前でほめることなどまずない母親だ。

私は…。その日、気分が良かった。心が明るかった。おもしろかったのもあるけど、自分の子のことを「とってもいい子なんですよ」と、はっきり言いきるのは気持ちが良かった。行きずりの、見ず知らずの不躾な訪問者が相手だから、思いきり言った。多分保健師とかではないだろうし。

子ども達にとっても、多分良かった。



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