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マスクはまじないフダ・御神体なのか

 夫は、マスク信者である。
 いや、過去形だが。 

 つい先月くらいまでは、必ずマスクを装着し、普段マスクをしない私(健康上の事情による。自分に咳などの症状があるときや医療機関では着ける)を非難していた。
 但し、ひとつのマスクを1週間くらい使うのだが。
 その信仰は非常に篤かった。
 罹患した人の噂を聞けば、
「マスクの装着の仕方に手抜かりがあった。隙間ができていたか、外している時間があったに違いない」
と決めつけるか、
「マスクの選び方が間違っていたのだ。メーカーは◯◯チャームで、しかも国産のでないと効力がない」
と決めつけるかだった。

なぜそう決めつける…………………。

 見ていて、
人間というものは、理由などなく自分が『こう』と決めた対策しか認めないのだということははっきりとわかった。理屈や論理ではないのだ。


 それがいきなり、すっぱりとマスクを着けなくなった。なにか、憑き物が落ちたらしい。
 それ自体はいいのだが、今度は、あきらかに風邪症状が出ているのにマスクを付けようとしないので困った。マスクは万能ではないが、風邪症状がある人間が着ける場合には他者にうつさない一定の効果はあるとされている。
 ちょうど1週間前に、夫は有給休暇を取ってひとりで京都に行った。祇園祭である。たいそうな人混みである。
 帰ってきて3日が過ぎたあたりから、咳込み始めた。
 マスクはしない。
 どこででも咳込む。
 食事中に、食べながら大声でしゃべり、むせて咳込む。
 冷蔵庫を開けて覗き込み、物色しながら冷蔵庫の中に向かって咳込んだときにはさすがに私が怒鳴りつけた。
 危険極まりないので、食事の時間や場所をずらして、咳込みの飛沫を避ける対策を取った。
 マスクをしてくれと頼んだ。症状がある人間が着けるならば、一定の感染予防効果が期待できるのだからと。
 しかし、生返事をするばかりでノーマスク。
 仕方がないから、せめてもの対策で私が家の中で着けることにした。毎朝の鼻うがいを朝晩にした。

 夫に咳込みの症状が出てから3日が経ち、私の喉が腫れた。微熱が出た。声が嗄れた。声が嗄れては、私の仕事は仕事にならない。私は春に転職したので、年次有給休暇はまだない。夫とは、必要最小限の伝達や挨拶くらいしか口をきいていない。私は、非常に怒っている。

 



 あの、ひれ伏さんばかりのマスク信仰はいったい何だったのか。
 夫は、謝る気配もない。多分、
「何が悪いんだ」
と言うのだろう。



 
 

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