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からあげキアゲハ〜①出会い〜

これは10年以上前に、とあるレストランで出会ったキアゲハのお話。

当時わたしはクサっていました。銭ハゲをそこかしこにこさえながら書いた修士論文も、大学から「進学」を選んで続けたフランス語も、何かに使うには中途半端で、大学院を卒業した今、進学なのか就職なのか、どこへ行けばいいかわからなくなっていたのです。さらにはこの時期人生初の大失恋もしてわたしの人生はお先真っ暗。そう、まるで暗闇の中にいるようでした。

仕事もナイ、愛もナイ、あるのは悩む時間だけ・・・。ちくしょうなんて人生だ!こういう時って物影から子ネコがニャーとか出てきて「この出会いがターニングポイントでした・・・」とかなんとか言って人生が良い方向に進んでいくもんじゃないの?ちがうの?!マンガだけ??!
と、当時のわたしは思春期の子供よりもタチ悪くイライラしていました。

ある日、そんなわたしを見かねた母が、有機野菜を使っていると評判のレストランへ誘ってくれました。
「有機野菜かぁ。農業には興味があるけど、採用されるなら理系の人だよなぁ・・・。フランス語なんかできてもなぁ・・・。」
せっかく連れてきてもらったレストランでもウジウジしつつ、わたしはちゃっかりボリュームたっぷりカラアゲ定食を注文しました。

「お待たせしましたカラアゲ定食です〜。」
ほどなくして運ばれてきたカラアゲをほおばり、ふと付け合わせのパセリに目をやると・・・、何か黒いモノがついています。

おやキアゲハ。

さすが有機野菜。全長2ミリほどのイモムシがくっついていました。
どうしてキアゲハの幼虫だとわかったのか、と後にいろんな人に聞かれましたが、パセリを食べるイモムシはキアゲハの幼虫しかいません。同じアゲハでもナミアゲハはミカンや山椒など柑橘類の葉っぱしか食べませんし、アオスジアゲハはクスノキ科の葉っぱしか食べません。彼らはグルメなのです。

なんてイモムシ蘊蓄はさておき、パセリの上でじっとしている幼虫を、わたしはじっと見つめました。
何を考えているのかしら。死ぬかもしれない恐怖かしら、家に帰れない悲しみかしら。それとも何も考えたりはしないのかしら。

いずれにせよこの命は今終わろうとしています。ゴミ箱に捨てられるか、わたしの胃に入るか、あるいは運良く逃げられてもここからパセリの生えている畑には絶対に帰ることはできません。

・・・あるいは奇跡が起きたなら?

「わたしこのパセリ持って帰る。」
その日わたしは、このイモムシつきのパセリをもらって帰りました。
わたしに奇跡が起きないなら、わたしが奇跡を起こしたっていいじゃない。そして幼虫にこう言いました。
「人生は出鱈目よ。」

果たしてどちらへ漕ぎ出して良いかわからぬ暗闇のただ中で、わたしは子ネコではなく、イモムシに出会いました。

人生で起こる良いことにも悪いこと、全てのことには何かしら意味があって欲しい。けれど、それと同時に人生は出鱈目でもあって欲しいと思います。

かくしてわたしとカラアゲキアゲハとの生活がはじまったのです。

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