その支点、信じられますか?

ロープを使った山登りをする際に必要な支点の構築。
メジャーなルートでは、自分でハーケンやボルトを打ったりすることは稀で、既にあるハーケンやボルトを使ったり、木や岩などの自然物を使います。
ハーケンやボルトなど、既にあるものだとなんとなく信用してそれを支点として使ってしまいます。

でも、その支点はどれだけ信用していいのでしょうか?


登山研修所のHPにあった昔の資料なんかから数字を引っ張ってきました。
目安の数字だと思って、あまり絶対値にこだわらないで見てください。
また、この数値に私は責任を負いません。山はあくまで自己責任で。

【支持力】支点が崩壊する力を最小値が大きい順(信頼できる順)に並べると

・ハンガーボルト 2550Kgf
・直径5cmの木の枝や幹 1000~1300Kgf
・アイススクリュー(16cm) 660~1000Kgf
・リングボルト 360~860Kgf
・直径2cmの木の枝や幹 350~800Kgf
・ハーケン 180~1350Kgf
・スノーバー、デッドマン 100~150Kgf

上記は所定の条件でしっかりセットしたと思われる状態での数値。
グラグラのハーケンとか緩んだボルトとかは問題外です。

リードクライミング中に身長170cm、体重70Kgの人間が自分の身長分墜落すると約310kgfの衝撃が支点にかかるそうです。
そうすると足元の支点がハーケンやリングボルトだと落ちられないと思うわけです。
支点が何であれ積極的には落ちたくありませんが。。。

また、懸垂支点では上記の支点1つだけで懸垂下降することは基本的にはないと思います。
ただ、どうしてもそれだけで懸垂しなければならないということもあるかと思います。
その際、上記の数字は漠然とでも覚えておいた方がいいと思います。
その支点で懸垂下降すべきかの最終判断の材料になりますし、懸垂下降時の丁寧さも変わってくると思いますので。

昔冬山で、その場の状況と装備から凍った雪からわずかに露出していた直径2cm程度のハイマツの枝で懸垂下降せざるを得なかったことがありました。
私の師匠はそそくさと最初に降りてしまいました。
最後の私も直径2cm程度のハイマツの枝を信じて降りるしかありません。
あの懸垂下降は生きた心地がしませんでした。

よく聞くのは、懸垂下降で使う木の太さは最低でも人間の腕の太さくらいという言葉。
しかし、腕の太さくらいのハイマツの幹を2本使った懸垂支点が崩壊したという事例もあります。
数字上は十分な強度のはずですが、ハイマツの生えている環境や荷重の方向などの条件でこういったこともあるのですね。

師匠は経験と状況からあの2cmの枝で充分に懸垂下降できると判断したのだと思います。
自分だったらその判断はできませんでした。

山は理論と実践を通して経験を積み重ねていくものなのですね。

ともすると、何気なく使ってしまう支点ですが、信じられるものなのか自分の経験を総動員してチェックするのは忘れないようにしたいと思います。

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