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映画「正欲」感想文 私はアボカドが嫌い


私はアボカドが嫌いです。
味のえぐみと食感が苦手です。アボカドが好きな人の気持ちは多分この先当分はわからない。
だけど、アボカドが好きな人のことを"ありえない、意味がわからない"とは言わない。そういうことなんじゃないのかなと思う。

映画「正欲」にはアボカドの話なんて一切出てこない。でもこういうことなんじゃないかと思う。

私は朝井リョウさんの原作小説「正欲」が大好きで、映画化されると知った時から何ヶ月も楽しみにしてきた。
原作も多くの人に読んでほしい。映画も多くの人に観てほしい。だからできるだけネタバレをしないように感想を綴っていけたらと思う。

あらすじ
横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。

映画「正欲」公式サイト


啓喜を稲垣吾郎さん、夏月を新垣結衣さん、
佐々木佳道を磯村勇斗さん、
諸橋大也を佐藤寛太さん、神戸八重子を東野絢香さん
が演じられています。

原作と筋は変わらず、オリジナルのシーンが多くあったように感じた。
文字を読むと、自分の脳内で世界を作るため、作品世界の姿が無限にあるように感じるが、映像となるとそうはいかない。だからこそ、多くの人に観てもらえるように仕上がっていると感じた。

多様性を認めよう!という言葉をよく聞くようになった。そもそも多様性とは何なのか。「正欲」に触れるまでは、私もこの標語に賛同していた覚えがある。多様性、という言葉はその言葉を発した人が想像しうるだけの多様性しか含んでいないのではないか。

そもそも、認めよう!って何なんだ。
認められているという自覚がある人間が、認められていないだろうと勝手に決めつけた人間に対し、"私たちと同じ土俵に立って良いですよ"と言っているように聞こえる。

繰り返すが、「正欲」と接するまでは、
多様性認めなきゃね〜自分と違う人も認めなきゃ〜と呑気に思っていた。
これを読んで、多様性を認めるのは大事だろ!と思う方も多いと思う。
もう、とりあえず「正欲」を読むか観るかして欲しい。
絶対に私と同じように意見が変わるわけではないと思うが、"明日死んでもいい"と思っていないのであれば、是非読んで欲しいし観てほしい。

少し話は変わるが、8月にNetflixで配信された「LIGHT HOUSE」の中にあった、若林正恭さんの1行日記を思い出した。(みてください!)
多様性を大切にしていると自分で言う人は... この1行日記は「正欲」を観ている時何度も浮かんできた。

認めないといけない、分からないといけないとは思わない。
だけど、自分の想像の及ばない人間もいるということ。
自分と違う人を分かるなんて無理だから、とにかく否定して踏み躙らないこと。
1ミリでも分かろうとしてみること。
このことを肝に銘じて生きていたい、この世界で生き延びたいと思う。

アボカドを好きな家族に、「このアボカド料理、クリーミーで濃厚で美味しいよ!」と言われても、"え、無理無理そんなの食べる人ありえない"と突き放すわけじゃなく、そうなんだ〜クリーミーで美味しいんだね〜(食べないけど) みたいなスタンスが必要なのではないかと思う。

アボカドは食べなくても生きていける。けどそれどころじゃない、それ以上に生きていくために必要なものを否定され踏み躙られる人がいる。
それを知ることができるかできないかは、やがて大きな違いになっていくだろうと思う。

いなくならないで欲しい人、繋がりあっていたい人の存在が誰しも必要であり、分かり合えなくても大事に思う人、思われているという事実は尊く不可欠なものだと感じる。

私は星野源さんが好きだ。星野さんの書く歌詞には、世界はみんな元々ばらばらであり、ひとつにはなれない。2人はふたつ。という概念がたびたび登場する。(私の解釈です。)

もともと分かり合えないのだと割り切ることは大切だと思う。分かり合えないと分かっているからこそ、分かろうとする姿勢がある。
分かり合える人と出会えている人は、本当に幸せで奇跡で、恵まれているのだ。

私は分かり合える人と出会えているのかいないのか、自分でもよく分からないが、どちらにせよ、明日を生きたいと思えているこの幸せを潰さないように、自分で育てることを大切にしようと思う。

「正欲」は生きていられること、息ができることがどれだけ奇跡なのかを痛感させてくれる物語なのではないかと思った。

この作品で見た「多様性」に視界をとらわれることなく、息をしていたいと思う。


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