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本を読む

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退職老人の本についてのエッセー集
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2020年5月の記事一覧

ペーパーバックを読む④

同学年:キンジー・ミルホーンとハリー・ボッシュ 私は1951年の早生まれなので、同学年と言うと1950年生まれの人が多い。この学年は、学生紛争の影響で東大入試が中止になった年に大学を受験したという共通の記憶を持っている。私は個人的に「薫くん世代」と読んでいます。薫くんというのは、庄司薫の小説「赤頭巾ちゃん気をつけて」の主人公で、日比谷高校生。東大の入試が中止になったり、長年ともに暮らしてきた犬が死んでしまったりして精神の危機に陥り、様々な彷徨をするという物語だ。サリンジャー

ペーパーバックを読む③

中国SF:リュー・ツーシンとケン・リュー 私が、高校生の頃から退職老人の現在に至るまで、ずっと読んできたペーパーバックは、ほとんどがミステリを中心とする英米の小説で、そこにたまに、他のヨーロッパ諸国や南米の小説の英訳が加わる程度だった。日本以外の中国や韓国などのアジアに(「三国志」などの古典を除いて)読むべき小説があるなんて想像もしていなかった。まことに不明を恥じるしかない。そんな私が、中国にも立派な作家がいることを知ったのは、2012年に莫言がノーベル文学賞を受賞してから

ペーパーバックを読む②

スエーデン・ミステリー:「マルティン・ベック」から「ミレニアム」へ 今回は、巣ごもり期間中の今月読んだばかりのペーパーバック(実際に読んだのはkindle本だが)、David Lagercrantzの"The Girl Who Lived Twice"「死すべき女」の話。世界中でシリーズ合計1億部も売れているという、ミステリー・シリーズ「ミレニアム」の第6作。昨年出版されたのだが、私はそれに気づくのが遅くて、ようやく今になって読んだ。世界的なセンセーションを巻き起こした、シ

ペーパーバックを読む①

悪魔の計算:マイクル・クライトンとダン・ブラウン もうずいぶん長いあいだ、英語の本はkindleで読んでいて、ペーバーバックを買うことはなくなったのだが、いまだに英語の本=ペーパーバックと思ってしまう。高校生の時に、英語の勉強のために、アガサ・クリスティを読み始めて以来、今に至るまで数百冊のペーパーバックを読んできた。そんな中から、昔読んだペーパーバック、最近読んだペーパーバックのことを少しずつ書いていきたい。 藤沢周平が山本周五郎の後継者と呼ばれることを喜ばなかったよう

「世界の名著」を読む ①    ニーチェから始まる

 1966年(昭和41年)1月、中央公論社が、ワインレッドの格調高いデザインの堅牢な函入り思想全集の配本を開始した。全66巻の「世界の名著」である。すでに「日本の文学」「世界の文学」によって、文学全集の出版において大成功を収めていた中央公論社ではあるが、大規模な思想全集の出版はまさに社運をかけた冒険だった。 なんて書いてみたが、実際はどうだったのか知らない。1966年といえば、ベトナムで戦争が続き、ビートルズが初めて来日し、中国では文化大革命が起こっていた年だ。私は、その年