夏の終わりの朝

夏の終わりを知らせる朝


携帯の通知音で目が覚める
天井に小さな蜘蛛が一匹
どこから入ってきたんだ

うつらうつらと目を開けて携帯を見る

「あさかつ」

昨日の夜中
数ヶ月ぶりの連絡が来て

もう来ないで

願ったのも束の間
今朝も連絡がきた

やっと抜け出せたのに
また、脳内を埋め尽くされるのは御免だ

真っ赤に染まった脳内は
時間と共に徐々に薄まって
他の色に染まりつつあった

いつも私の中の赤が途切れそうになると
やってくる
悪魔なのか
天使なのか


窓を開けると
外で風鈴の音が聞こえる
車の走る音
機械音
向いの家の人が洗濯物を干す音

夏が終わりを告げようとしている
数日前までの
私を燃やすような太陽と
全ての水分を奪い切ってしまいそうな熱を持った空気は
もうない

さらっとした風が部屋の中に入ってくる

ふと思い出す
長くてしっかりした腕
大きい手
さりげなく髪に触れた長い指

触れられた部分から波紋が広がる

自分の思いや理性じゃどうにもならないほどに
惹かれていた

名前を呼ばれる度に
助けを乞われる度に
愛しさが増し

きっとこの人といたら破滅に向かう

そんな時にあなたはふといなくなってしまった

いてもいなくても
破滅していくんだと思った

いなくなってから
幾度となく泣いた
泣いて泣いて
それでもいつも考えている
どうしようもないもんだから
他のことをしても
頭の中の赤を消すことはできない

「すき」

その2文字にとてつもない呪いをかけられた
そう言われて
私の中のシャッターが開いてしまった



窓の外から流れる風が強さを増してきた
風鈴がけたたましくなり続ける
遠くで風が鳴る


この人は私を幸せにはしないし
私も彼を幸せにはできない

一緒にいても
きっと
私だけ消費されていく


朝の蜘蛛はどこに行ったのだろうか
夏の終わりに
私はまた
涙を流す方を選ぶのだろうか


ちょっと寒くなってきた

窓を閉めよう

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