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月と六文銭・第十三章(1)

 武田はのぞみとの状況を報告しようと同僚工作員の田口たぐち静香しずかに連絡を取った。
 中国人工作員に狙われている今、この状況からの出口プランを用意できるのは本部と田口だけだ。だからこそ正直に状況を共有し、上官ではないが、指示を仰ぐことにしている。

~コードレッド~(1)


 武田は今日、直接顧客先に行く予定だったため、恋人三枝さえぐさのぞみとは15分ほど時間をずらして、ホテルを出ることにしていた。
 キリッとした「できるOL」姿ののぞみを送り出した後、ブラックベリーで同僚工作員の田口静香に予定を尋ねるメッセージを送った。

 鏡を見ながらネクタイを結んでいる間に田口から返信があった。
「今夜、お邪魔していいかしら?」
「はい、部屋を取ります。
 後ほど場所を連絡します。」
 武田はすぐに向かいのコンチネンタルホテルに電話をして、部屋を予約した。
 田口にホテル名と部屋番号を送ったら、すぐに返信があった。
「楽しみですわ💛
 それでは後ほど✋」

 田口は夜を楽しみにしているというが、どういう心境なのか、武田は測りかねていた。
 小柄だが起伏に富み、反応も良く、きちんと触れれば気持ちが高まってオーガズムを感じられる体の彼女は、しかし、ミッションのために頭の中枢部分は常に冷静で、快感に飲み込まれることが全くないように訓練されているようでもあった。
 自分は、田口を感じさせて、イかせている、と武田は思っているが、これらはすべて武田を喜ばす為の田口の演技なのかもしれなかった。そもそも、どんな状況でもミッションを成功させてきた田口が快楽に飲み込まれるほど感じてしまうことなんて本当はないのだろう、と武田は思っていた。
 自分の快楽中枢をコントロールしているのか、もしくは、実は全く感じることはないのか、いずれにしても、初めからすべてオスカー級の演技で男性を騙してきたのかもしれなかった。


 不倫現場を目撃した松沼まつぬま和香子わかこ同様に、恋人ではない田口を窓辺に立たせて後ろから攻めたら、と不埒な考えが頭をよぎったが、田口の不敵な笑みと戦闘能力を思い出して、ブルッと体が震えた。
 自分の右腕をへし折って二度と使えなくされたら、今後、狙撃の仕事はできないし、首に一撃を受けて気を失っている間に何かを注射して自分を殺すことなど、彼女にはさして難しいことではないだろう。しかも、自然死に見せかけて、逃げ切れるだろう。
 小柄で優しそうな雰囲気に騙されてはいけない。天使のような笑顔を浮かべながら、何人も平然と殺してきた冷酷な殺人マシーンでもあることを忘れてはいけない。
 田口が自分に体を許す、というか自分と体を重ねるのは、自分のストレスを発散させる為だけであって、いくら田口が達していたとしても、決して快楽を求めての結果ではないことを忘れてはいけない。
 いつもどこか冷静で、ここまでなら快楽に身を任せても問題はないだろうという範囲を分かっているようだった。
 ベッドの中で攻守交代をするとかのレベルの話ではなく、もしかしたら、ターゲットにじっくり攻められて何度達しても、次の瞬間にはターゲットを仕留めるだけの集中力と体力が残っているように訓練されてきたのかもしれない。
 そうなると本当の意味でセックスを楽しめることはなくなってしまっている可能性があった。ちょっと寂しいなと武田は思った。せめて自分を信用して、体の奥から気持ち良くなってもらいたいと思ったが、それ自体は自分の思い上がりなのだろう。
 田口には田口の考えがあり、一緒にいる時は仕事の同僚で、彼女はあくまでもミッション成功のために自分の体を許しているだけ。ミッションでなければ、自分には何の興味も持たないだろうし、誘われて部屋まで来ることもないだろう。究極のプロフェッショナルで、警戒態勢が緩むことがない種類の人間なのだろうと武田は思うことにした。


 部屋に着くなり、田口はジャケットを脱ぎ捨て、トップは黒いブラジャーに黒いスリップ、下はタイトスカートという格好で廊下を進み、右に曲がった後、ファスナーを下ろし、タイトスカートをも床に落とした。
 ベッドに腰掛けて、スリップを脱ぎ、黒いストッキングを脱いだら、Dカップくらいの胸を包んだブラジャーとソングだけの姿になった。
 武田は毎回同様、田口のジャケットを拾い、クロゼットのハンガーに掛けてから、ベッドルームに入った。
「お食事前に一度すっきりしましょ」
 両手を広げて、こっちにおいでと目で武田を操縦し、自分の前に立たせた。男根は既に勃っていた。ガチャっとベルトを外し、ズボンを下げ、パンツの上から男根を両手で挟んで上下に撫でた。
「あら、待てなかったのかしら?」
「田口さんの姿を見たら、このようになるのは当然だと思います」
 武田は両手を伸ばして、田口の両胸を掴んだ。
「優しくしてくださいね」
「田口さんこそ」
「はい」
 田口は武田のパンツを膝まで下ろし、右手で男根を掴み、左手で睾丸を包んだ。
「のぞみさんとはコンドーム無しでしましたか?」
「ああ」
 武田の返答を確認して、田口は武田の雁首を2、3周舐めてから、ゆっくりと本体を飲み込んでいった。
 喉の奥に亀頭が当たった瞬間、田口の喉はあの飲み込もうとする動きを始めた。何かを飲み込んでいるというよりも舌と喉が一体となって、男根全体を引き込もうと動いているようだった。


「ううぅ、すごい!」
 武田は田口の頭を両手で挟み、腰を前後に振った。
 田口は腰を浮かせ、首を曲げて男根の動く角度に口と喉を合わせて、あまり苦しくならないようにした。それでも武田の動きが激しかったため、両手で武田の腰骨辺りを押し返して、顔を引き離そうとした。
「出る!」
 武田はさらに力を入れ、田口の喉の奥に湧き上がってきた快感をぶつけた。
 田口は仕方なく出てきたものを受け止め、飲み込んだ。多少咽たが、ゴクゴクと2度に分けて、苦い液体を飲み下した。
 武田は快感に酔っているのか、天井を見上げたまま田口の頭を押さえつけていた。
 田口はもう出ないと判断して、両手に力を入れ、武田の股間から顔を離した。息苦しかったこともあり、呼吸を整えた。
 やや厳しい目付きで、武田を見上げながら、口を開いた。
「満足しましたか?」
「相変わらず、すごい喉の動きですね」
「たくさん出ましたね。
 昨日もたくさん出したんじゃないですか?」
「たくさんしたけど、たくさん出たわけではないです」
 田口は一瞬複雑な表情をしたが、武田のパンツを引き上げ、男根を軽く撫でてからズボンを引き上げた。
「お食事に行く準備をさせてください」
 そう言って立ち上がり、バスルームに向かった。

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