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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(16)

第十六章
 ~怒りは静まり、望みが叶う~

 ルキフェルの怒りは静まったようだ。参加者全員がそう願っていた。再び全員の腹に染み渡るような重たい声で、ルキフェルはゆり子に話しかけた。

「後学のため、一度だけ理由を説明してやろう。ユリカイア、お前の人物が良いからだ。人間界では性格と言った方が良いかな」
「はぁ、それほどの人間ではありません。欲に突き動かされた、いち女学生でしかなく、ルキフェル様の前でもここにいる仲間の前でも痴態を晒しながら、なんとか人間界と降霊会での精神のバランスを保とうともがいている小者でしかありません」
「謙遜するな。わしはお前たちが興味本位で儂を呼び出し、私利私欲のために儂の力を使おうと思っている下衆連中だと初めは思っていたが、そのようなことはなく、誠に人間らしい欲を満たすことを考えている年齢相応の女性達であることを理解した」

 全員が顔を見合わせ、苦笑いをした。数万年も生きていて、人間世界の歴史をすべて知っている神から見たら、高々16、7年しか生きていない私たちは神が直々に見てきた権力者などと比べてみても小さな小さな存在だろう。

「そうだ、お前たちが今、頭に浮かべた、ローマのネロ、サンクトペテルブルクのアレクサンドル、ベルリンのアドルフなどは私利私欲で土地も人心も我が物にしようとし、その際、儂に協力させようとした。人の心とは誠に扱いやすいもの、影響を与えやすいもので、ちょっと背中を押せば、人を殺したいと欲する者はいくらでもいる。しかし、お前たちはこれまでそのようなことがない。不思議だが、不正も不誠実もしない。儂はそこが気に入っているからこそ、お前たちの望みを叶えてやろうとやってきているのだ」

 しかし、それだからルールを無視して良いとか、この程度が許されるだろう、ということはなく、交通ルールを守らないと事故に遭うのと同様、神様のルールを守らないとどこかで事故を起こし、取り返しのつかない状況に陥るだろうことをその場にいた九人はよく理解していた。

 腹に染み渡る重たい声でルキフェルが話し始めた。全員が一言一句、細大漏らさず聞こうと耳を澄ませた。

「儂は、お前たちが教会式にのっとり、正規の方法で降霊を実施しているから対応しておる。今後もそれは望む。儂への願い事は儂の判断で叶えるかどうか決める。叶わないこともあるし、儂の判断で断ることもある。理由はお前たちが知る必要はない、つまり儂に問うことは許されない。良いな?」
「はい!」
「よろしい」

 危機を脱したのか?小休止?帆波と優子は思わぬところから自分たちが命を失う可能性がある状況にいきなり叩き込まれたことに、まだ体の震えが止まらずにいた。
 全員が普通の人に許されない欲望を満たそうとしたら、それ相応のリスクがあることを改めて認識した。自分たちの欲望を満たすために降霊を軽々しく利用してはいけないということだ。それに連帯責任とはこういうことを言うのも自覚した。一人が神を冒涜したら、全員が罰を受ける。しかも、西洋で言う究極の罰、命でしか償うことのできない罰が与えられるわけだ。

 人生相談は良いし、悩み相談も良い。気に入らない奴に意地悪をする程度なら神様も笑いながら付き合ってくれる。しかし、欲求を満たすのなら、何を犠牲にできるのか、よく考えてから口に出すことだ。それが今夜全員が胸に刻んだ教訓だった。

 次に全員が心配になったのは、今夜の降霊がどうなるのかだった。

 神はお怒りのまま、マサミとユリ子を罰しない代わりに、ユリの望みを叶えずに天界に戻ってしまうのだろうか。怒りは静まったように見えたが、神が考えていることなど人間が勝手に判断したら、今度こそ、取り返しのつかない誤りが起こるかもしれない。

 そう考えているうちに閉めたはずの窓が静かに開き、風が吹き込み、ふわりとした煙か水蒸気かが、結界の中に集まり始めた。全員が見え上げると天井から下がっている燭台の少し下から床までの間にそれが集まり、徐々に人の形を成していった。

「ファービウス・ユーリカウ」
「は、ユーリカウはここにおります」
「お前が望んだ、サイトウ・ユウトを連れてきた。好きにするが良い」
「ルキフェル様、ありがとうございます!」

 ユリは顔を上げ、目の前に逞しい斉藤の肉体が立っているのが見えた。自分が予想した通り適度に鍛えられていて、余計な脂肪の層はないが、ボディビルダーのようなマッチョではなかった。当然これまで見たことがなかったが、立派なペニスが突き出ていて、勃起したらボーイフレンドの聖也せいやよりも体積がかなり大きくなることを予想できた。

 ユリは急いで立ち上がり、隣に用意していた修道服を彼に渡した。

「先生、これを着て」

 ユリは服を彼に渡し、正面の紐を結んでやった。ユリは斉藤の手を取り、結界の境界線を示すチョークで書かれた線を跨がせた。これでユリはもう後戻りができない。大天使ルキフェルとの契約が実行に移された。
 その後、他の女子生徒が心配している関係に発展しようがしまいが、4時間ほど斉藤を独占できるが、自分の人生のどのあたりの二日間を取り上げられるのかが分からないという不安はあった。大事な時の二日間だと人生に大きく影響することが予想されるし、人の信用を無くすこともあり得る。

「先生、こっちに来て」

 斉藤の霊はユリに導かれるまま、西の部屋に一緒に入っていった。

 全員が心配した通りにはならず、しばらく経っても斉藤先生との性行為の証しともいえるユリの嬌声が聞こえてこない。はっきり聞き取れないものの、二人で何かしゃべっているようだった。

<やっぱり、ユリはしっかりしている>

 そう思ったのはゆり子だった。

<ユリはどうして我慢しているの?望み通り斉藤先生が来たんだから、彼を求めて、すっきりしたらいいのに>

 こう思ったのは幼馴染に近い友人のサクラだった。

<優子や未希に何か示したいの?先生が来たんだから、ヤったらいいじゃない!あたしたちは皆、欲求があって普通なんだから>

 梨花の考えはかなりストレートだった。

 マサミは賛成したような反対したような立場だったから、ユリには慎重に行動してほしい半面、行動を開始したのなら、とことん納得するまで行動してほしいと思っていた。
 ユリが自分の中の欲求に納得できたら、再び勉強に集中できるだろう。私やサクラと違って勉強もできるのだから、ゆり子たちと一緒にずっと上の学校を目指すべきだし、もっと世の中の役に立つ人間になるはずだ。

「あぁん、あぁ、あぁ、あぁ、せんせっい、はぁ、気持ちいぃ」

 隣の部屋の八人には、急にユリの喘ぎ声が聞こえ始めた感じがしたが、実際にはその少し前から西の部屋の二人は互いに体をまさぐり、敏感な個所を触り合っていたのだ。

 部屋に入るなり、まずはユリが跪いて斉藤のペニスを頬張り、力が漲るようにした。勃起した斉藤のペニスは、ボーイフレンドのそれよりもかなり大きく、角度もグンと天を向いて、伸びあがるような力強さを感じさせた。

 ユリは斉藤の手を引きながら、後ろ向きに寝台に上がった。

「先生、どうして私がアナタを選んだのか、分からないでしょ?」
「分からない。どうしてだ?君は僕の補習を先週始めたばかりだし、これまでは接点がなかったし」
「理由は、アナタの声よ」
「声?」
「そう、アナタの声を聞くと、私、濡れるの」

 斉藤の霊は不思議そうな顔付きでM字に足を広げたまましゃべっている女子生徒の話を寝台の端に立ったまま聞いていた。

「君は僕の声が好き、ということか?」
「好きとか、嫌いじゃなくて、体が反応するの、先生の声に。先生の声が私の女としての欲求を呼び起こすのよ」
「そうか。ならば」

 そう言いながら斉藤がユリに近づき、寝台に昇って、彼女の脚の間、股間のすぐ近くまで進んできた。

「ユリ君、どんなことを言ったら君はもっと濡れるのかな?」
「『あたしのことが好き』とか、『アタシが欲しい』とか、『アタシを抱きたい』って言って」

 斉藤が迫ってきたので、ユリは後ろに倒れた。斉藤は彼女に覆いかぶさるようにして顔を近づけ、耳元で「君が欲しい」と渋い声で話しかけた。

「あん!」

 ユリが反応した。いや、ユリの体が反応した。背筋がゾクっとするのと同時に、体の奥から熱い液体が外を目指して軽く吹き出た感じだった。彼女は修道女の服の下には何もつけていなかったため、吹き出た愛液は女陰を伝わり、寝台の布団を濡らした。

「もっと、たくさん、私に話しかけて!」

 ユリは一度体が反応したら、あとは坂道を急速に下っていくジェットコースターのように、快感がどんどん加速した。
 斉藤には休まず、続けて言葉を浴びせて欲しいと思った。

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