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月と六文銭・第六章(6)

 板垣いたがき陽子ようこは、武田が自分の誕生日を覚えていて、プレゼントを用意していることを知って…

~誕生日プレゼント~


「どうして、私の誕生日を知っていたんですか?」
「インターネットに載っていました。例のレースクィーン紹介ページです。本当の情報だとすると明後日が誕生日ですよね?」
「はい、そうです。ありがとうございます!」
 小さく頭を下げながら、陽子の目は大きなユリの柄の入った袋を見つめたままだった。

 これって、『リリーズ・シルク』の袋よね?と自分でも目が大きくなっていくのが分かった。肌触りが気持ち良いと評判の有名なシルク・パジャマのお店の袋。まさかぁ?!
「これ、リリーズ・シルクですよね?」
「はい、開けてみてください」

 陽子は袋から箱を取り出し、リボンをスルっと外し、箱を開けて、シルクのパジャマの上を持ち上げた。噂通り手触りが良くて、そのまま頬ずりしてしまった。

 肩の所にユリの刺繍が入っていて、反対の肩の所に“YI”とイニシャルが刺繍してあった。陽子はちょっと涙が出そうだった。パジャマの下を見るのを忘れて、もう一つの袋は何だろうと目を向けた。

 もう一つの袋には『~CURRENT~』とエンボス加工されていた。
「そちらも開けてください」


 陽子は袋から箱を4つ取り出して、色の薄い順に並べた。ソレイユ、コーラル、マチルダ、ブルーナ。陽子は武田をちらっと見た。武田は静かに頷いた。ソレイユが開けられ、レース使いのきれいなブラジャーとパンティーが出てきた。
「パジャマと合うと思いまして」
「ありがとうございます!」
 陽子は夢中になって姿見の前で自分の体に当てていた。

 陽子は武田を見つめて、自分がしばらく忘れていたドキドキ感を思い出していた。パパもオジサマも、これまで欲しいものは何でも買ってくれていた。サプライズもドキドキもないことに慣れてしまった自分に気がついた。

 次にコーラルと書かれた箱に手を伸ばした。
「ドレスを買ったのに、中に着けるものを買い忘れたから、そのお店にお願いして、合いそうなものを届けてもらいました。サイズは大丈夫だと思います」
 陽子は白サンゴ色の上下のセットが入っているのを見て、なるほどコーラル=珊瑚ね、と思った。
「サマードレスと合わせてみてください」

 陽子は黄色のワンピースのボタンを外して、手際よくハンガーに掛けた。パンティーを脱ぎ、ブラジャーを外して、一緒にベッドの上に置いた。
 タグが付いたままだったが、すっとパンティーを履き、ブラジャーも着けた。サマードレスは後ろのボタンが木製だったが、手触りが良く、一つずつ丁寧に留めて、最後にサンダルを履いた。

「髪はアップがいいですか?」
 陽子は髪を一つにまとめながら武田に聞いた。
「帽子がないから、アップがよさそうですね」

 陽子は頷いて、髪をくるくる巻いてカッチンで髪を留め、ファッションショーの様に部屋を2往復して、ドレスを着た自分を武田に見せた。
「よく似合いますよ、陽子さん」
「ありがとうございます!夏に着るのが楽しみです」
「私も夏が楽しみです」
 武田が微笑みながら、ベッドに腰を掛けた。


 パジャマにはソレイユ、サマードレスにはコーラル、じゃあ、マチルダとブルーナは何?この展開だと"夜"用だよね、と陽子は思った。

「哲也さん、この後、マチルダかブルーナを着てほしいということですよね?」
「陽子さんがその気になってくれたら嬉しいです。どちらかを選んで着てほしいです」
「先に両方見てもいいですか?」
「もちろん」

 陽子は大きさが違うと思っていたが、マチルダもブルーナも同じ大きさの箱で、ブルーナの方がマチルダより色が濃いだけだった。

 陽子はマチルダを開けて、中のランジェリーを持ち上げたが、久しぶりに赤面した。ボディスーツだったが、胸のところがない。

 中の壁に留めてある小さな箱に“TOPS”と筆記体で書いてあって、それを手に取って裏を見たら、キラッと金属調のニプル・シールだった。

 パリのレビューでダンサーが乳首につけている感じのものだった。え、これ、ちょっとえっち過ぎない?と思ったが、見たことのない大人の玩具を尻に入れられるのに比べたら、案外大したことないな、と思い直した。

「哲也さん、こういうの、好きなの?」
「陽子さんとはちゃんとしていないなと思って、今夜の陽子さんの衣装に」

 確かに、箱根では数分だけ後ろから交わっただけだった。陽子自身も落ち着いて武田としたいと思っていたのは事実だった。


 陽子は次にブルーナを開けたが、真っ赤なレースが目に飛び込んできた。ブラジャー、パンティー、ガーターベルト、ガーター、つまり、一式が入っていた。ガーターベルトも細いものではなく、ウェストを広くカバーするタイプで、あまり見たことがなかった。

「マチルダとブルーナではだいぶ違いますね」と言いながら、陽子はベッドに両方並べて眺めた。自分から迫るならマチルダの方が盛り上がるよねと思った。
 ブルーナは別の機会にしよう。できればディナー・ドレスの下に着けたいな。

 陽子はブルーナを箱に戻し、マチルダを軽く畳んで振り返った。
「哲也さん、お風呂、一緒に入りませんか?」
 陽子はそう提案し、サマードレスを脱いで、"コーラル"だけになってバスルームに入っていった。

「わぁ、ジャグジーがある!」
 ちょっとはしゃいだが、すぐにやめた。

 パパとリゾートに行った時に、ジャグジーの吹き出し口の上に座らされ、変な感じが嫌だったのを思い出したのだ。パパは陽子の恍惚とした表情が見たくてそういうことを命じたが、あまり気持ちよくなかったのが正直な感想だった。

「水流が女性の部分にあたるように座らせる男性がいるらしく、一部の女性には評判が悪いケースもあります」
 壁のスィッチに触れて、浴室の灯りを少し暗くしながら武田は言った。
「そうですよね。パパはまさにそういう男性で、必ずアタシに脚を広げて座るように言うんです。気持ちいい時もあるんですけど、だいたいの時は強すぎて、痛くなっちゃうというか」
「じゃあ、弱で使いましょう」
「はい、お願いします!」
 陽子は湯を張り始めた。コーラルのボトムに包まれた迫力あるヒップをこちらに向けたままだったため、武田も下半身に血が流れ込み、力強くなっていくのを感じていた。

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