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月と六文銭・第十七章(04)

4.三枝のぞみ:部長の恋人
 Nozomi Saegusa: The Director's Girlfriend

 ゲイ説は払拭できなかったが、少なくとも武田の知人にスーパーモデルが実在することが確認されたことにより、アンチは黙らざるを得ず、密かに憧れている女性は諦めてくれたりしたが、黙っていられない女性が一人、心の刃を研いでいた…。

 武田の帰宅を待っていた恋人の三枝さえぐさのぞみだった。武田が帰宅すると既にのぞみは彼の部屋に来ていて、台所で彼に"事情聴取"を開始した。

「哲也さん、昨日帰りが遅かったのはセミナーの交流会に参加したからですよね?」
「はい!」
「まさか、身長178cm、バスト87、ウェスト61、ヒップ88でスロバキア出身のモデルと一緒に楽しく過ごしていたからじゃないですよね?」
「あら~、のぞみさん、どこからそんな話を聞いたのかしら?」
朝会あさかいで渡辺君が昨日のセミナーについて簡単に報告をしたんだけど、武田部長も参加していて、セミナー後に知人と一緒に食事していたことを株の全員が知っているわ」
「のぞみさんとのことを隠すには絶好のカモフラージュでしょ?」
「私に内緒で会って、他人に目撃されて、大胆にもそのまま一緒に帰ったらしいですね」
「ほら、ビアトリスが日本に来ている間、ラーナ・エフレイムからあっちこっち連れて行ってあげてと頼まれてね。
 昨日はセミナー会場近くのレストランで食事をして、表参道ヒルズを案内したの」
「随分と帰宅が遅かったようですが?」
「え、そんなことはないと思いますよ」
「ふーん、食後にそのモデルとエッチして、帰宅して、その後平気な顔をして私ともエッチしたってことですか?」
「してません、ビアトリスとは」
「腕を組んでどこかへ消えていったという話は嘘なのですか?」
「レストランを出る時に腕を組んだけど、西洋では普通でして」
「ここは日本です!
 何回言ったら分かるのですか!」
「あ~、ですから、何もしていません。
 部屋には送り届けましたが、外でグッバイしました。
 部屋には入っていません。
 我が愛する三枝のぞみが心配するようなことは、ビアトリス・クルシコフとは絶対致してません」
「当たり前です!
 でも、こうして私が心配しているのですから、そういうことはダメです。
 今後慎んでください!」
「はい、すみません、反省します」

 反省するわけがない、この人が、とのぞみは思った。しかし、多分自分以外の女性と関係を持つとも思えない。それはカウンセラーの静香しずかさんが保証していた。
 彼女が言うには:
「ある程度の年齢ですから、交友関係がのぞみさんより広いのは致し方のないことです。
 いろいろ頼まれることもあるでしょうし、外資系企業や外国生活が長い方ならなおさら、日本にはないマナーや習慣に対応しないといけないでしょう。
 逆に日本の男性があまりにもその辺に疎いから海外では相手にされないとか馬鹿にされちゃうのを一番よく知っているのが武田さんよ」

 私も彼のマナーの良さ、知識の深さ、そして実際にそれを実践しているのを知っているし、そういう面では尊敬している。彼が言うなら信じよう。

「哲也さん、今回は許すけど次回はないと思ってください!
 いいですか、必ず事前に私に伝えてくださいね」
「はい、海よりも深く反省しております」

 どうだか?!本当に人を食ったような表現をして逃げちゃうんだから…。でも、惚れた弱み、アタシの方が彼にぞっこんだし、私よりも20年も長く生きているのだから、成功も失敗もたくさん経験し、今まで成功の階段を上って来た人を私が簡単に批判できるわけがないよね。

「今度、約束を破ったら、4週間、禁セックスしますからね!」
「あ、それは辛すぎるのでやめましょう!
 のぞみさんが」

 う、バレたか。確かに、私の方が先に根をあげちゃうよね、禁セックスってなったら。私の体をこんな風にしたのは彼だけど、もうどうにも止まらないのよね。彼が触れたところ、彼の触れ方、話しかけ方、息の吹きかけ方すべてに体が反応してしまうのだから、私の方が先に欲しくなってしまう。
 そして、その瞬間、彼は逆襲に出て、私が欲しいのに、「禁セックス期間中ですので、できませーん」と私を突き放すだろう。そして、私は悶々とした夜を過ごし、認めたくないけど指で自分を慰めるしかなくなる。

「それでは2週間の禁セックスと禁欲期間を設けます。
 自分でしてもいけません!」
「うう、それは苦しいです」
「当たり前です、私を傷つけ、苦しめたのですから、苦しんでもらいます」

 たまには私が彼に悪戯をして、苦しめようかな?!アレを元気にして、その後何もしないとか、途中まで口でして出そうになったらスパッとやめてしまうとか。寸止めって言ったかな、こういうの。

 武田はのぞみが真面目に罰を考えているのが微笑ましかった。成長して、パートナーとして、甘えるばかりではなく、きちんと締めるところは締めるようになり始めたのだ。

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