月と六文銭・第十四章(76)
工作員・田口静香は厚生労働省での新薬承認にまつわる自殺や怪死事件を追い、時には生保営業社員の高島都に扮し、米大手製薬会社の営業社員・ネイサン・ウェインスタインに迫っていた。
保険会社の営業ウーマン・高島都は逢瀬の相手であるネイサン・ウェインスタインに捕らわれ、出国の途中で彼女を殺すつもりだと示唆された。高島は部屋を監視していたチームが大使館の連絡員に状況を伝えてくれていると信じて、ウェインスタインに合わせて行動することにした。
~ファラデーの揺り籠~(76)
301
***現在***
武田の質問に、田口はコクンと頷いた。
「ターゲットのを咥え込んで放さず、ペニスをうっ血させてダメにしたことあるから」
武田は青くなった。それがどんな状況か、想像していたのだろう。
「もちろん、そのまま耳からアレを突っ込んで殺したけど。
抜けた後の死体のペニス、紫になってダメになっていたのよ」
アレと言って田口が指差したのは例の簪だった。
「すごいね…。
抜けなくなるというのは都市伝説だと思っていたんだけど」
「どんな情報を信じるかは個人の自由だけど、外国人のは大きくて、私の膣壁が締めるところを越えて入っているため、ちょうど中間部を握っている感じになるみたいよ。
それで動かせなくなるというか、ぎゅっと…」
武田の目が点になっていて、瞬きの回数が急に多くなっていた。
田口は笑いながら普段から思っていることを口にした。
「哲也さんって本当に分かりやすいよね。
アタシとポーカーやったら、絶対アタシの百戦百勝よね」
武田は田口の前では素になってしまうのか、考えていることが顔に出てしまい、それをすべて田口に読まれてしまうのだった。
「いや、道具は大切にしないといけないと思っているので…」
「女の子をヒーヒー言わせる道具のことかしら?」
「そういう意味ではないけど、傷めたら修繕の効かない大事な道具だからね」
「そうね、傷ついて使えなくなったら、アタシも困るもんね」
「そう思うなら、大切に扱っていただけると…」
「はい」
そういって田口は武田の男根を丁寧に撫でて、優しく包んだ。
***再び回想へ***
ウェインスタインは赤いベントレーの右ドアを開け、高島を押し込み、自分は反対側から乗った。
「You can't buckle up...」
(ベルトを締められないね…)
高島は再び体の自由を奪われていたようで、腕はだらりと前に垂れていた。
302
ウェインスタインは高島に噛まれないよう注意深く彼女のシートベルトを締め、シートの位置を合わせた後、自分のも締めた。
「There is a temple on the way to Narita. People don't go into the mountains behind it. You get to rest there.」
(ナリタに行く途中に寺があって、その裏の山に人はあまり踏み込まないらしい。君にはそこで眠ってもらう)
<部屋を出た時、あ、考えちゃいけないんだった>
高島は監視班がちゃんと見ていたよね?と言いたかったのだが、それを頭に浮かべたらウェインスタインに読まれてしまうと気が付いて、考えるのをやめた。
これまでの作戦ではデイヴィッドが必ずタイミングよく助っ人として登場していた。もちろん事後には「タイミングばっちりな俺に感謝しろ!」となるところだけど、デイヴィッドはもういない。作戦通り、監視班からジョンに連絡を入れて、本部の了承を取り付けて、アルテミスが行動を起こしていることを願っていたが、それすら考えないようにしていた。
高島は視線をまっすぐ前に固定されているようで、左の視線の端にウェインスタインのハンドルを握る右手が見えていたが、計器盤も見えないし、シフトレバーはギリギリ見えない位置にあった。
「You're going to bury me in a mountain in Narita?」
(ナリタの山奥にアタシを埋めるの?)
「That's my plan.」
(その予定だ)
「What about my luggage? People will come looking for me.」
(アタシの荷物、置きっぱなしよ、すぐに人が探しに来るわ)
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「You're not staying here. People won't notice. We came down to the parking lot together as a normal couple. No one will suspect anything strange. We just went out for a spin. By the time anyone notices, I will be far gone.」
(このホテルじゃないから、すぐに人は動かない。それに僕とは普通に駐車場に向かった映像が残っているから、不審に思う人はいないだろう。一緒にドライブに出かけたということになるし、何かに気が付いたところで、僕はもう日本を離れているから)
「You think it's that simple?」
(そんな都合よくいくかしら?)
「You can't stop me. Neither can your friends.」
(君は僕を止められないし、君の仲間も僕を止められないはずだ)
<月が私に代わってお仕置きをしてくれるわ>
「What? Japanese Anime? You pray a hero in a sailor's uniform is going to save you?」
(なんだ、ジャパニメか?セーラー服を着たヒーローに救出を懇願したのか?」
<ああ、もうだめだ、アタシは殺される…>
「Yes, you have no future.」
(そうだ、もう君には先がない)
<ネイサン、アナタは本当にアタシの考えが分かるの?>
「Everything. Anything you think, I can see.」
(分かるよ、すべて。君が頭の中で思ったことは、全て僕には見えるんだ)
304
<もうだめだ…>
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