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月と六文銭・第十二章(8)

 武田はのぞみを元気づけようと夜景のキレイなホテルに誘ったのに、とんだ景色を二人で見てしまった。
 のぞみは寂しがり屋で、遠距離恋愛を続ける自信がないと思っているのか、武田が英国に行ってしまうのを別離と同じように感じていた。

~ソムニア1603~(7)

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 経理の松沼まつぬま和香子わかこがパパ活をしようが、風俗店でアルバイトをしようが、それが業務時間外で、本業に影響しないなら個人の勝手だから、武田ものぞみも見たことを黙っていようと思っていた。
 しかし、今彼女が関係を持っている相手が既婚者の総務次長・桐生康秀きりゅうやすひでとなると社内不倫で、完全にアウトだ。
 桐生は松沼の直属の上司だ。厳しく指導もしてきただろうし、決算期などの殺人的な忙しさも一緒に乗りきってきた連帯感もあるのだろう。
 どちらから誘ったのかは、もう問題ではない。松沼も桐生も部内で他の者と関係を持っていないかが問題となるだろう。
 ただ、もし人事部が本格的な調査に乗り出し、総務部内で複数の不倫が見つかった場合、そのインパクトのアセスメントが必要となるだろう。転属・転勤などでは済まないほどのインパクト、最悪の場合、半分くらいの人員の入替えが起こる可能性が出てきたら、部内や社内では隠し切れない事態となるだろう。

 のぞみを慰めようと思って夜景のキレイなこのホテルを手配したのに、とんだ景色を二人で見てしまったわけだ。
 そして、どちらともなく、「私のパートナーが独身で良かった」と思わずにはいられなかった。

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 ショッキングな光景には続きがあって、今度は松沼の背中が窓を面しているのが見えた。彼女は背中をこちらに向けて窓辺に座り、後頭部が窓に押しつけられていた。足を持ち上げられて正面から桐生を受け入れ、顔を天井に向けるように仰け反って達していた姿が武田の携帯電話に録画された。
 窓辺から松沼の姿が見えなくなった後も、薄暗くなったとはいえ、部屋の明かりがしばらく消えることがなかったところを見ると、ベッドでも行為が続いていたことが想像できた。

 肉食女子という言葉が普及し、女性から積極的に相手を選ぶことが珍しくなくなって久しいが、のぞみは自分よりも若い女性が不倫をしている事実、そして、肉体関係を持っている場面そのものを見てしまったことに少なからずショックを受けていた。
 映画のラブシーンやアダルトビデオを観るのとは違う生々しさで、実際に知っている人がその行為を行っている光景が脳裏に焼き付いてしまった。

 結局、二人はその後眠れず、じっくり今後のことを話し合った。
 まず、のぞみは会社の指示通り、2年間出向することで落ち着いた。休みが取れたらロンドンにのぞみが行くとか、夏と冬は武田が一時帰国するとか、のぞみは思いつく条件をたくさん並べた。
 最低でも年2回は帰国し、年1回はのぞみが渡英することを、武田は約束させられた。
 今回の出向では相手先の就業規則に従うことになっていたので、うまく先方の制度を使って休みが取れるかちょっと自信がないというのが正直なところだった。少なくとも1年目は仕事に慣れるので精いっぱいだろうと思っていた。
 のぞみと交代になる出向者から以前聞いた話では、出向先はかなり古い体質の職場で、休みがとりにくいだけでなく、時間中の休憩にもうるさいし、テレワークなんてもってのほかと平然と言う管理職がほとんどだという話だった。
 そして、自分はどんなに寂しくても絶対貞操を守るから、武田も絶対浮気をしないで欲しいと言った。ビデオ通話でいやらしい姿を見せてもいいとか、普段ののぞみからは出てこないであろう提案がいろいろあったことに武田は驚いていたが、のぞみの一途さにますます惹かれたのも事実だった。

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 翌朝、ホテル内の2階のカフェレストランでモーニングを楽しみながら、のぞみは遠距離恋愛は何とかなると感じていると昨晩と打って変わって肯定的な発言をした。
 しかし逆に、「余計なことだけど」と断りながら、「あなたのことが心配だから、健康的な食事を心がけてね」と武田にお願いした。和食を中心に、脂っこいものを控え、十分な睡眠を取るよう珍しくきつい目付きで武田に言った。

 チェックアウトまで時間があることを最大限に活かして、二人はシャワーの中で互いの気持ちを高め、そのままベッドに移り、もう一度愛し合った。
 座ったまま抱き合った後、のぞみは武田の硬さを確かめ、彼を押し倒し、自分から跨った。自分の中で当たるところを確認するようにゆっくりと腰を振った。
 気持ち良いところに武田の男根が当たるようにしたのぞみは、武田の頭を抱き寄せ、自分の胸の先端を舐めさせた。シャワーで温まった体は敏感で、自分で認めるのも恥ずかしいくらい先端が硬く勃っていた。
 細かく上下した後、のぞみはできるだけ深く武田を受け入れられるよう腰を密着させた。首に両手を巻き、彼の顔を引き寄せ、舌を絡めた。

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 武田はのぞみを後ろに手を着く形にして、腰をリズミカルに突き出した。のぞみは、今の角度で言えば、膣の上側、つまり腹側を内側から上下に刺激され、男根が往復する度に快感が増し、急ピッチで絶頂へと押し上げられていった。
 とどめは、腰の動きに合わせて、親指で陰核を刺激されたことだった。所謂ナカとソトの同時攻撃で、のぞみは体の芯から脳へと突き抜けてくる快感とそれ以外の部分を経由して体全体が快感に包まれる快感の二つに抗うことができなった。
「はっ、はっ、はっ、はっ。
 いいわ、すごい、すごい、うううぅ」
「どうだ、のぞみ?
 イケそうか?」
「うぅ、イクわ、イクわ、イク、イク、イックゥ!」
 のぞみの腹がせり上がり、仰け反りながら全身がぶるっと震えて、膣がギューッと締まっていった。
「のぞみ、出る!
 うぉー、出るぅ!」
 武田はのぞみの体が絶頂を迎えて震えたのを確認して、彼女の腰をがっしりと掴んで引き寄せ、出来るだけ深いところに精を放った。
 自分の男根がビクンビクンと動くのと同時にのぞみの膣が収縮を繰り返すので、まるでのぞみが自分から精液を絞り出しているかのような感覚だった。

 のぞみの腹はまだ激しく上下動していて、膣が収縮を繰り返していたが、彼女は体を起こし、武田に顔を寄せ、彼にキスをした。
「はぁ、すごかったぁ!
 いつも気持ちいいけど、今のはすごかった!
 一気に体が快感に包まれたみたいで、体が震えたわ」
 深い快感を得たことと、愛する人と一緒に絶頂を迎えられたことは、のぞみにとってこの上なく嬉しいことだった。武田の男根がビクンビクンと動いて、何度も射精しているように感じられたのも、満足度の高いセックスだった証拠と思えた。
 のぞみはゆっくり腰を浮かせて、体を離した。自分の中に放たれた温かい液体が、今は自分の外に流れ出ていることを興味深く見ながら、幸福すら感じていた。

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