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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(01)

第一章
 ~BFF・私たちは永遠に親友だよね~

 西校舎の西階段の主はユリ、サクラ、スミレ、マサミ。聖アナスタシア学園の四美神と言われる美少女集団のメンバー全員が階段の踊り場で次の週末に誰の家に集まって恒例会を行うか相談していた。

 恒例の会だから、恒例会と呼んでいたが、これは彼女らを含めた学園内の10名程度だけが知っている符号だった。
 正しい漢字で書くと「降霊会」、つまり彼女らは霊を呼び出して望みが叶うようになる儀式を定期的に行っていたのだ。

 これまでは憧れのアイドルや俳優の霊などを呼び出していた。マサミが学校の旧館の図書室で見つけた降霊術の記載を基に編み出したのが、生きている本人の霊を呼び寄せるという危険だが彼女らが大いに満足する方法だった。

 降霊会は原則深夜に開かれる。ユリ、スミレ、サクラ、マサミとその日の特別ゲストの5人が互いの腕を交差させながら手を結び、五芒星を構成する。互いに結んだ手の下には羊の肉から抽出した油を固めて作ったろうそくがあり、炎が手に触れるか触れないかの高さに手を維持する必要があった。

 この降霊会が深夜に開催されるのは目的の人物が寝ている時にその意識を呼び寄せるためだ。お目当ての人物が寝ていない、例えば、深夜労働していて起きている場合などは呼び寄せることはできない。

 マサミたちが学園で君臨し続けられるのは、この降霊会とそれに集う女子学生の絶対的信頼と超常現象をコントロールしているという立場があったからだ。彼女たちにしてみたら、各学級の中心的学生を押えたら十分で、メンバーも最小に限ることができた。

 スマートフォンを一人1台或いは2台持っている時代に絶対秘密だからと口頭でしか連絡を取らないことにしていた。紙にすら残さない徹底ぶりは、降霊術の本にはその回の最後にすべてろうそくの火で燃やすように書かれていたからだ。

 マサミは、もちろん古い時代の書物だから、デジタルデータなんてものはなかったからと思っていたが、念には念を入れていた。ルキフェルが彼女らの望みを本当に叶えてくれるなら、その指示に一字一句従った方がいいと仲間3人に納得させて、一切を口頭或いはメモ程度で共有することにしていた。
 学校にも部外者にも捕捉されない方法が、デジタル機器を使わないことだったし、多少口外する者がいても「証拠」は何もない。もちろん、口外したものは制裁を受けるが、マサミたちの報復よりも悪魔が直接手を下す罰の方が怖かったのだ。望みが叶った生徒ほどルキフェルの力を信じた。だから、万に一つ、口蓋しようものなら、悪魔からどのような仕打ちを受けるか怖くて、秘密を守ることを徹底できた。

 まず、神に語り掛ける神官役のマサミが大天使ルキフェルに呼びかける。

「ルキフェル様、アナタの忠実なしもべであるマリア・フェライヤ・マサミンの依頼で、今夜はプリ・キンのイトウ君を親友・ユリカイアのもとにお連れください」
「ルキフェル様、アナタの忠実な僕であるマリア・フェライヤ・マサミンの永遠の友人であるセイラ・へレス・ユリカイアです。私の下にプリンセス・キングスのイトウ・セイオウをお連れください」

 ろうそくの炎が揺れた。5つのろうそくから立つ煙が五芒星の中央に集まり、静かに竜巻へと変わっていった。

 その竜巻の中に大天使ルキフェルの顔が見えた。

「マリア・フェライヤ・マサミン」
「は!あなたの忠実な僕のマリア・フェライヤ・マサミンでございます。心からの友人であり、永遠の友と思っている、隣に座すセイラ・へレス・ユリカイアの願いを聞いていただきたく、今晩はこの場を用意しました」
「ほお、へレス・ユリカイア、お前の望みを叶えてやっても良いぞ。しかし、当然のこと、お前は何かを儂に捧げないといかんぞ」
「セイラ・ヘレス・ユリカイアです。私はイトウ・セイオウとの2時間を得る代わりに、私の命の2年を貴方様に捧げます」
「ほお、そのような交換、しても良いのか?」
「人生百年、2年くらい大したことではありません」
「そんな自分に都合がいいように、お前は時間をコントロールできると思っているのか?」
「え?」
「寿命が最後に2年縮むとは限らぬぞ」
「どういうこと?」
「お前の青春の1ページにその憧れの者との2時間を刻むことはできても、失う2年はお前の言う人生百年のどこから抜き取られるかはお前が決められるわけではないぞ。良いな?」

 ゆり子は一瞬迷った。年老いて死ぬ時期が2年早まろうと構わないくらいプリ・キンのイトウという若者が好きだった。ルキフェルに2年を捧げて、大好きなイトウとの2時間を得られるなら、私は「悪魔に魂を売ってもいい」とマサミには常々言っていた。
 しかし、いざその悪魔と話してみて、自分の人生のどの2年分を抜き取られるのかが彼の気まぐれで決まるということは予想外だった。大丈夫よね?私はどうしても伊藤君に抱かれたいの!
 意を決してゆり子は煙の中に浮かんでいる顔に向かって話しかけた。

「はい、私の2年はアナタ様のものです。お望み通りに」
「よろしい、お前の決意、本物のようだな。望みを叶えてやる。お前の欲した2時間の代わりに儂はお前の2年間をもらい受けるぞ」
「はい、ルキフェル様のお望み通りに」

 幸い、アイドルグループのプリンセス・キングスの伊藤聖央いとうせいおうはその時間、自分の部屋で寝ていた。ルキフェルはその魂を肉体から抜き取り、今晩の請願者セイラ・へレス・ユリカイア=ゆり子が待つ部屋へと送り込んだ。

 ユリ、サクラ、スミレ、マサミの4人は目を閉じたまま結んでいた指をほどいて結界を解き、ゆり子が入っていった部屋の方に耳を澄ませた。4人とも部屋の中でゆり子が伊藤とどんなことをしているのかは分かっていたし、高校生とは思えないような艶めかしい声がそれを証明していた。
 マサミは呆れていたが、伊藤が激しいのか、ゆり子の欲望が尽きないのか、ゆり子は2時間ずっと女らしい声を上げ続けた。結界の外から様子を見ていた4人も西の部屋から聞こえてくる声が止むまで静かに座り続けた。

 マサミは自分以外の親友3人を見回し、今夜の降霊会が成功したことを確認すると共に、ゆり子のように欲望に任せて自分の人生の時間をルキフェルに捧げることがないよう、目で訴えた。

「あくまでも等価でないとサタンとも呼ばれているルキフェルと取引をしないように」
「そうよね」
「私たちは、彼に会うことも、彼にいろいろお願いすることもできるが、欲望に任せて、時間を売ることも魂を売ることもないよう気を付けましょう」
「はい」
「私たちは永遠に親友、互いを頼り、互いを守る。BFF=Best Friends Forever!」
「BFF!」

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