「思い出す」(『さよなら絵梨』(著 藤本タツキ)の読書感想文 )

数年前の夏、どこかの海で大学生が波にさらわれて行方不明、というニュースを見た。2日後、発見された。
その日は台風警報が出ていて、海には近づかないように言われていたようだった。
いつもはそんなことしないのに、その時なんとなく気にかかって、報道されてた名前を検索してみた。
「流された◯◯の大学は?一緒にいたのは彼氏?調べてみた!」みたいな記事がいくつか出てくる。
記事の中にTwitterとInstagramのアカウントが載っていたので見てみた。
どこにでもいそうな普通の大学生。飲み会して、ドライブして、バンド活動して。楽しかったことや辛かったことが、みんなに受け入れられやすいようにフワッとした言葉で書かれている。
最新の投稿のコメント欄には、悼むコメントや、「浅はかな大学生の自業自得」と決めつけて攻撃するコメントが並んでいた。

パッ パッ パッ と見て画面を閉じる。

なんでかわからないけど、1週間ほど経ってまたアカウントを見に行っていた。コメントがあったのは事故のすぐ後だけで、無音のページがまだ残っている。
ただ想像と違ったのはTwitterアカウントが更新され続けていること。
「質問箱」という機能が自動的にツイートを生産し続けていた。
もう答える人のいない質問を募集するツイートが、毎日毎日決まった感覚で投稿され続けている。

俺がフォロワーだったらきっとフォローを外すと思う。
でももしフォローを外さずに、この自動ツイートを毎日見続ける人がいたら、それはどんな気持ちなんだろう。
そんなことをぼんやり最初に思って、それから定期的にそのアカウントを見に行くようになった。
今日も投稿がされている。今日も投稿がされている。
気がつけばフルネームやアカウント名まで覚えてしまっていた。

もはや見ても何も思うことはないのに、半年に1回、1年に1回くらい突然思い出して、またそのアカウントを見に行く。

・・・・・・・・・・・・

みたいなこととか「さよなら絵梨」を2回読んで考えたりしてて。
漫画喫茶で読んでたから「これは面白いから買おう買おう」ってなって本屋に行った。

そしたらすごい偶然なんだけど、平積みされた「さよなら絵梨」の前で大学生2人組が喋ってんの。

「あ!これ漫画になってんだー」

「何これ?」

「これジャンププラスで読み切りになってたやつ。漫画になってんだー」

4秒ほど間があいて

「まぁでも全然おもんなかったけど」

おもんなかったけど 本の前で足を止めてしまったんだね

これってさ、そんな話をしてる彼らの前で、サッと本をとって購入したらおもしろいんじゃないか って思って

ほんの少しだけ早歩きで向かったら

横にいたピンクのカバンを持った少し丸いおじさんが急に後ずさりしてきて、思いっきり足を踏まれた

痛っ て思う前に「すいません」って言ってた
邪な気持ちを見透かされた気もして

おじさんは何も言わずに早歩きで去った

不必要に猫背になりながら「さよなら絵梨」を抜き取った

踏まれた感触が残った状態でこの文を書きました


おわり

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