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マンガMeeでマンガ家デビューから人気連載までの道のりを大公開!『冷たいベッドの上で。』みずや実莉先生インタビュー【後編】

マンガMee公式noteでは、デビューを目指すみなさんへ、面白い漫画作りのヒントになる情報を発信中。マンガMeeで活躍する人気作家さんに、漫画家志望者なら気になる漫画作りのアレコレを教えてもらうインタビュー連載を公開しています。
 
今回は、マンガMeeで連載中の大人気作品『冷たいベッドの上で。』連載100回突破を記念して、作者のみずや実莉先生にデビューから長期連載に至るまでの道のりを伺いました!
 
後編となるこの記事では、『冷たいベッドの上で。』連載開始から長期連載に至るまでについてをお届けします!

▼前編の記事はコチラです!


予想外の継続

——前編ありがとうございました!チャレンジMee(以下、チャレミ)で見事グランプリを受賞されて『冷たいベッドの上で。』を連載されることになったみずや先生ですが、アプリでの連載開始までに大変だったことはありますか?

みずや実莉先生(以下、みずや) 2話以降のネーム直しが大変でしたね。ストーリー自体が結構トリッキーなので、読者さんは段々「なんでこんな関係続けてるの?」という疑問が湧いてきてしまう。そこを「このキャラはこういう気持ちだから別れないんだ」と説得力を持たせて描いていくのが難しくて…情報を開示していくうちに違和感が出てきたりして、そのたびに修正を重ねていました。

チャレミの時にもメイン3人の掘り下げはしたのですが、やっぱりまだ完全に把握しきれていない部分もあったので、キャラがブレないように固めていく作業は苦労しましたね。特に妻の悠乃は行動や性格が全く定まっていなくて、修正するのが大変でした…。

『冷たいベッドの上で。』あらすじ
足立美春は会社の上司・伊東照と不倫関係にあった。本来であれば奥さんにバレてはいけないハズだが伊東の妻・悠乃は2人の関係を公認していた。三角関係の中で美春は、悠乃がいなくなれば照を自分だけのものにできると思い始める…。

——みずやさんは連載開始時、別業種のお仕事もされていたとお伺いしたのですが、お仕事との両立はどうされていたのでしょうか?

みずや 連載が始まるまでにしっかり描き溜めの時間をいただいていたので、仕事の合間を縫って少しずつ原稿を進めていました。修正が多かったこともあって、チャレミでグランプリを取ってから連載開始までには9か月ほど描き溜めをさせてもらえたんです。
当時は週5で8時間働いていたので原稿を進めるのは大変でしたが、連載開始時はある程度ストックを準備した状態で始めることができました。確かスタート時に7話までは完成していて、最初は11話で終わるものだと思っていたから「あと3,4話くらいは働きながらでも描けるな」と。
※チャレミからの連載は11話確約

——続くかも、という想定はされていなかったんですか?

みずや 全然してなくて。一応確認で10話手前くらいの時に「11話で終わるんですよね?」って聞いたんですよ。そしたら「続きますよ」と言われて「え!?」みたいな(笑) 
もちろん継続できることはめちゃくちゃ嬉しかったんですよ!ただ「ありがとうございますありがとうございます!…で、次どうします?」となって(笑) 早く続きを考えないとヤバいってかなり焦りました…。

そこから仕事を辞めるまでは本当に大変で…9時か10時くらいに出勤→帰ったらお風呂とご飯をパパっと済ませて、23時くらいから翌朝4時まで原稿、みたいな日が結構ありました。本当に身体がどうにかなってしまいそうで…できれば仕事を辞めたかったんですが、人手が足りなくてなかなか辞められなかったんです。何回も「辞めたいです」と言っては「代わりの人が見つかるまでもうちょっと」と引き止められ続けました。結局辞められたのは結婚した時で。「結婚して遠くに引っ越すので辞めます」ってスパっと伝えて、ようやく了承してもらえました。

一応アシスタントさんに着色をやってもらってはいたんですけど、当時はいつも〆切ギリギリで…担当さんも私が忙しいことは分かっていたのでおまけを挟んだりして調整してくれていたのですが、〆切に間に合わせるのはかなりキツかったです。

——壮絶ですね…当初は11話で終了予定だったとのことですが、連載開始時点で「この話数ではこうなる」といった大まかな流れは決まっていたんでしょうか?

みずや 細かく書き起こしてはいなかったんですが、頭の中では大体用意していました。8話で○○して、9話では○○して…みたいに。ネームは結構勢いで描いちゃうところがあるので、とりあえず頭の中にあるものを起こしてみてから担当さんに読んでもらって、違和感のある部分やより面白くなりそうな部分を修正していましたね。 

——具体的にはどういう修正をされたんですか?

みずや キャラのブレを修正するというよりは、エピソードの順番を入れ替えるような修正が多かったですね。特に6,7話あたりは佐倉くんの登場にあたってかなり構成を悩みました。といっても、結構前のことなのであまり具体的なことは覚えてないんですけど…(笑)

美春の心の支えとなる佐倉くん
『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

——では、修正部分に限らず第1章の中で印象に残っているシーンはありますか?

みずや 3話目で、突然部屋に入ってきた悠乃が「どうぞ続けて! 今生理で私混ざれないし」と2人に言うシーンですかね。物語前半の悠乃は常に不気味で理解しがたい雰囲気がありますが、中でもこのシーンが一番怖いなと思いました…。

『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

個々の要素を自然につなぐ

——先ほど継続するという想定は全くしていなかったと仰られていましたが、継続が決まってからどのような流れで第2章の物語を執筆されていったのでしょうか?

みずや 継続が決まってから、担当さんと「今いるキャラの話をずっとやっていくか」「新しいキャラの視点と物語で2章、3章…と続けていくか」のどちらにするかを話し合ったんですけど、やっぱり1章は美春と悠乃が照の支配から脱するまでの物語として完結しているので「無理に続けるより新しい話にしよう!」という事になりました。

そこからどうやって今の2章ができたのか…正直かなり勢いで描いた部分もあるのでしっかりとは覚えてないんですが(笑) とりあえずネームに入る前の取っ掛かりとして「救えないダメ男の話」というコンセプトを決めたんです。いかに悪い男やヤバい男を強烈なエピソードの中で描いていくか…そこから《異常なほど妻を愛していて妻の浮気すら興奮材料になってしまうATM男》の陽太と、相手役になる《いろんな男と遊びまくってる性欲お化け女》の紗希を思いつきました。

上:陽太 下:紗希
『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

あと、1章に出てきたキャラクターたちを絡ませたいなとは最初から考えていました。どこで誰を絡ませていくのかと考えていた時に、佐倉をメインに据えれば面白くなりそうだな、と。

——第2章が始まった段階で、結末までの流れは決まっていたんですか?

みずや 佐倉をメインに据えると決めた段階で美春と揉める展開になるだろうなとは思っていたんですけど、2章が始まったばかりの時はどういう結末や流れになるのかはあまり決まってなかったですね。ただ描いている途中で「佐倉くん何かヤバそうだな」と思って、佐倉のキャラをどんどんヤバくしていく方面に進んでいきました。結構その場その場のネームで決めていた部分もあって、特に序盤はバタバタしてた覚えがあります。

中盤あたりにはエンディングまでの構想がざっくりと固まって、終盤ではわりとイメージ通りに進めていけたかな。とはいえがっつりプロットを組むタイプではないので、「お前そんなキャラだったのか」という驚きは描いてる自分でもありましたね(笑)

第1章では好青年だった佐倉の豹変ぶりも見所
『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

——最初に全ての流れを決めてしまうというよりは、流れの中で面白くなりそうな展開を考えていく作り方をされているんですね。

みずや 基本的にはそうですね。もちろん3章や4章は始まるまでの猶予があったので、2章よりも話の方向性やキャラは固まった状態で始められましたが、あまり1話ごとの展開をガチガチには決めてないです。勢いみたいなものも大事だと思うので。
描きたい展開やシチュエーションが点々と浮かんできて、そういった個々の要素を自然な流れになるように繋げていく感じですね。それとは別にキャラが自ら動いてくれることもあって、特に3章の公開プロポーズではキャラの力をひしひしと感じました。

公開プロポーズのシーン
『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

——3章の主人公である怜治が不倫相手のキャバ嬢・凜に公開プロポーズをする場面ですね。キャバクラの引退イベントで凜にプロポーズをしてドン引きされているのが印象的でした。

みずや このくだりは怜治に作ってもらったと言っても過言ではないですね(笑)  思い付いた時に担当さんに話したら「絶対入れよう」と言われて、この回の打合せでは「出ましたー公開プロポーズ!!」って担当さんと盛り上がりました。

——楽しそうな打合せですね! 担当とはどのくらいの頻度で打合せされているんでしょうか?

みずや 大体週に3回くらいですかね。基本ネームに入る前に打合せをして、ネーム後に1,2回打合せをする形です。細かい修正だったらラインでやり取りしています。

私、ネームは勢いに任せてじゃないと描けないんですよ。思ったことはすぐに描かないと忘れちゃう。でもそういう描き方だと結構見落としている点もあるんで、ちゃんと冷静に指摘してくれる担当さんの存在はありがたいですね。
毎回のネームが良いか悪いかも自分だとあまり分からなくて、「これいいのかな、大丈夫かな」って不安になる時もあるんですけど…担当さんだったり読者さんだったり、他の人の反応を見て初めて「これで良かったんだ」って思う。だから周りの人の感想はすごく嬉しいです。

——ネーム前に打合せをされるとのことですが、その後はどういう執筆スケジュールで進行しているのでしょうか?

みずや 1週間を1つのスパンとして考えると、ネーム1日→線画1日→ペン入れ2日→背景+着色調整+吹き出しなどで2~3日くらいのスケジュールで回してますね。ペン入れが終わった部分から着色アシスタントさんに回して、待っている間に背景作業を行ってます。アシスタントさんにはベースの色だけ塗ってもらっていて、肌の影や髪の毛の艶など質感を表現する部分は自分で塗っていく感じですね。
だから、人物の作画コストに関してはあまり横読みの漫画と変わらない気がします。どちらかというと背景をカラーで描かないといけないことの方が大変ですね…。

——縦スクロールならではの描きやすさや表現の伝えやすさはありますか?

みずや 一番大きいのは「色」だと思います。色が付くことによってモノクロでは表現しづらいリアリティや迫力が出てくるので。あと髪色を分けられたりするから誰が誰だか分かりやすい。

立ち絵をがっつり入れられるところも良さだと思います。横読みの漫画における立ち絵は棒立ちの印象を与えてしまうことが多く、表情も見せにくいのですが、縦スクの場合は画面いっぱいに立ち絵を入れることができる。動きがそこまでないポーズでも、アップで表情をしっかり見せた後スクロールでグラデーションをかけて暗い心情を演出するなど様々な工夫をすることができるので、横読みとは違う表現のしやすさがありますね。

徐々に黒が広がっていく表現
『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

——人物の作画をされるときに意識されていることはありますか?

みずや 一番力を入れているのは表情ですね。特に不倫ものみたいなジャンルだといわゆる「顔芸」で直観的に読者を楽しませることが大事になってくると思うんですよ。フォーカスして描くとキャラの心情も伝わりやすくなるので、腹が立つ顔や怖い顔は少しオーバー気味なくらいに描くようにしています。

オーバーな表情で心情を表現
『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

読み続けてもらうための工夫は?

——『冷たいベッドの上で。』は現在100話を突破しており、Meeの中でもかなりの長期連載ですが、長く連載を続けていくうえで大変だったことはありますか?

みずや 読者さんが読み続けてくれるように、という部分を意識しながら作品を作っていくのが大変ですね。ずっと続いているとだんだん飽きてくる人もいるだろうし、新規の人も入りにくくなるじゃないですか。しかも一気に読むと胃もたれしそうな内容だし(笑)
だから試行錯誤しつつ、できるだけ読者さんが付いてきてくれるようにいろいろと工夫しています。

——「読み続けてくれている読者を落とさないための工夫」とは、例えばどんなものなんでしょうか?

みずや キャラの描き分けはかなり意識していますね。序盤の頃は誰が誰か分からないって言われることも結構あって…もともと描き分けが得意な方ではないんですけど、髪型や表情などが被らないようにして出来る限り分かりやすくなるようにしています。『冷たいベッド』みたいな群像劇っぽい作品だと、キャラの区別が付かなくなるのは致命的なので。

あとは、お話をちゃんと分かりやすく描きたいなと思っています。スピーディーで予想外な展開はこういうジャンルに求められる要素ではありますが、塩梅を間違えると読者さんを置いていってしまう可能性もある。一度置いてけぼりにしちゃうと読者さんは戻ってこないので、ストーリーラインや重要な展開は明確に描写するようにしています。

——「キャラの描き分け」というお話が出ましたが、ビジュアル面以外でキャラを立てていく時に気を付けていることはありますか?

みずや キャラクターが増えていっても元からいるキャラの存在感が消えないように気を付けています。話の性質上どうしても全員が全員濃いキャラになっていくので、新しいキャラにフォーカスをあてると以前のキャラの印象は薄れてしまう。そのままにしていると本当に存在が消えていっちゃうんで、適度に登場させてインパクトを残すようにしてますね。

あとは、キャラを立てる時「○○した人」っていう一言の説明で覚えてもらえるようにしています。例えば1章の照さんだったら「同意を得て複数の女性と関係を持ちたい人」、2章の佐倉くんだったら「彼女のために別の女性と関係を持ってお金をもらっている人」みたいな。

——3章の始まりとなる46話では、怜治が妻の下着を嗅ぐという衝撃的なシーンがありましたよね。それも「○○した人」として印象付けるために描写されたんですか?

みずや 実はあのシーン、PR(マンガMeeのアプリ上に表示される広告)のために入れたんですよ。担当さんに「タップ率増えるのでインパクトあるシーン入れましょう」って言われて、話し合った結果パンツ嗅がせることになりました(笑) アプリ上に表示された時は思わずスクショしちゃいましたね。確かにトンデモ行動っていう意味では印象付いてるかもしれない(笑)

妻の下着を嗅ぐ怜治
『冷たいベッドの上で。』©みずや実莉/集英社

4章でもインパクトのある展開や「これ描きたい!」ってシーンはいっぱい温めているので、これからも読み続けてもらえると嬉しいです!

——それはとても楽しみです!最後に、漫画家志望のみなさんに向けてメッセージをお願いします!

みずや やっぱりマンガを楽しく描いてほしいですね。担当さんに一度、自分の好きなものじゃなくて売れ線や流行りのものを描いていった方が良いのか相談したことがあるんです。その時に「売れ線でやっていってもいつかは行き詰まりがでてくるだろうから、描きたいの描けばいいんだよ」と言われて…結果自分の描きたいものを描いて連載できたので、それは正しかった。 伸び悩むといろいろなことを考えてしまいますが、自分の中にある「好き」を大事にして、やりたい話を楽しく描くのが一番の成功の道だと思います!頑張ってください!

——みずや先生、ありがとうございました!

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関連リンク

みずや実莉先生の『冷たいベッドの上で。』はマンガMeeのアプリからお楽しみください▼

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