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その後の轟轟戦隊ボウケンジャー:ロケット・サマー(中編)

こちらのSSは2007年05月05日に某mixiに投稿したものです。

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こちらからお読みください。

ロケット・サマー(前編)
https://note.com/manet26/n/n28bb7e34e122
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「遅いぞ、菜月。真人、お前もちゃんと連れてこい」
ドックの最上階にあるミッションコントロールセンターに入ると不機嫌な顔で真墨が立っていた。

当年とって69歳、いまだ現役。最年長のボウケンジャーとして、サーチ、アタック、トランポ、ガード、レスキューの5つのボウケンジャーチームの総指揮を執り、『不可能を可能にする男』として世界中に名の知れた彼であるが、12年ぶりの明石の帰還ということで、自ら今回のミッションスペシャリストを買って出た。
本来ゴーゴーボイジャーの帰還ミッションそのものはその気になればフルオートでも可能なものだから・・・要するに真墨はチーフの前で立派なところを見せたいのよ、と菜月は思う。

「ごめん、ます・・・」
「まあまあ、まにあったんだしぃ、いーじゃん、ね、菜月?」
「そうそう。相変わらずだよね、真墨“チーフ”は。ま、変わらないからこそ、いまでも現役なのかな?」
横合いからひょいと顔を出して仲裁したのはだれあろう「風の」シズカである。
そして立てた人差指を振りながら茶化したのは、もちろん蒼太・・・うわ、あいかわらずにこにこしながら微妙に辛辣なコト言うな~っと思いつつ、案の定なんとなく凹んだ様子の真墨をほったらかして菜月は蒼太に声を掛ける。

「わーいそーたさん、ひさしぶりー!。あーなんだかダンディっぷりがあがってるねーしぶーい」
「でしょー!菜月もそう思うでしょー?。ほらね、蒼太、やっぱり髪形変えて正解だって、いいかげん自分の年齢把握しようよ、若作りするより渋い系に移るべき時期なのよっ」と手柄顔でシズカ。
「そうそう、色男も一生現役って訳には行かないんだよな」と、コレは真墨。土俵際でなんとか立ち直ってきたらしい。

「うう、やっぱりそうなのかな・・・さっき受付でも、からかわないでくださいよーって言われたんだよね」
長めのロマンスグレイをオールバックに流してコットンのストライプシャツにマリンブルーのサマージャケットを羽織った蒼太が無念そうにつぶやくのを、シズカがふくれっつらして睨んだ。どうやら蒼太、御年70歳を越えたというのにいまだにかわいい女の子には声を掛け続けているらしい。・・・シズカもタイヘンよね、と菜月はこっそりため息をつく。
だいいち『渋い系に移るべき時期』なんて四半世紀前に通り過ぎてないのか?。まあ、元気そうで何よりだけど、と最近会っていなかった元チームメイトを見やる。

実は、菜月たち初期のボウケンジャーチームの中で最初にサージェスを離れたのは蒼太だった。
明石たちが宇宙に旅立ち、徐々にその行動半径を伸ばし始めると、太陽系内をほぼ常時亜光速で運航するゴーゴーボイジャーとの定期通信やデータリンクの維持の必要性から、サージェスはJPLと共同でディープ・スペース・ネットワークの再構築を計画。このミッション遂行のために奔走し、みごと完遂したのが蒼太である。

結果、およそ地球上の個人として最大級の深宇宙を含めたあらゆる衛星や電波灯台、さらには天文台や管制施設とのコネクションと電波情報解析技術を手に入れた彼は、Mr.ボイスの勧めによりサージェス財団のバックアップを得て独立。入手したさまざまな秘匿情報を含む重要情報の多くを公開(オープンソース化)すると同時に、その情報の平和利用のため国際情報解析ネットワーク『ブルーシャドウ』を立ち上げる。インターネットを利用したボランティアによる分散コンピューティングを基本とするこの情報解析ネットワークは既存組織や国家による情報の占有に真っ向から対立するものであり、当然様々な反発や圧力を受けることになった。

が、・・・そこで、蒼太のパートナーとして主に各国の諜報機関や結社や軍需産業による妨害排除実務と資金調達を一手に引き受けたのが風のシズカ率いる旧ダークシャドウの残党であった。もと国際スパイである蒼太自身のアンダーグラウンドなコネクションも相当なものではあったのだが、これにシズカによる変幻自在の実力行使が伴うことで、欧米先進国を中心にした国家的な諜報機関は物資人材の両面で復旧に10数年はかかるといわれる打撃をこうむることとなり、自身の組織が『ブルーシャドウ』の援助を借りねば立ち行かないという本末転倒の事態となった。結果として『ブルーシャドウ』はきわめて短期間のうちに急成長を遂げたのである。

・・・まあ、マメにナンパってしておくものよねーっと当時、菜月は思ったものだ。

それにしても蒼太も40代から60代の間のどの年齢でも納得できそうな年齢不詳っぷりだが、シズカもシズカで一体いくつになったんだろうと首をひねるような若々しさをキープしている。そもそもが忍者の隠里に生まれたシズカの年齢は当の本人しか知らないのだが・・・レムリア人である自分と違ってシズカは『人間』のはずで、キツネとかタヌキとかじゃないよね?と長年の疑惑を思い出す菜月。

「真墨さん、遅くなってすみませんでした。蒼太さん、シズカさん、お久しぶりです。」
と、殊勝に頭を下げたのは真人である。

「まあ、間に合ったからよしとしてやろう」
「ひさしぶりー!」
「真人クン久しぶり。そろそろボウケンジャーの任務にも慣れたかな?」
「あたりまえだ。だれが鍛えていると思ってる」
「えっらそうに言っても指導してないじゃん、真墨」
「え、ええっと・・・オレは・・・いや私はレスキューユニット所属ですから、真墨さん、いや伊能リーダーの直接指導はなかなか受けられないんですが、ほらガキの頃からしょっちゅう遊んでもらってましたから」

「相変わらず優等生な発言だな、真人!」と、真人の背後から声がしたと思うといきなりこめかみに鞭のように腕が絡み付いた。
「うわ、痛、たたっ。イタイイタイイタイっ!頭蓋軋んでます頭蓋っ」
「うるせえ。この程度のヘッドロック抜け出せねえでどうするっ!レスキューも基本は体力だっ」
って、真人の頭をクラッチしているのは、現在はボウケンジャー・レスキューユニット(旧サージェスレスキュー)の顧問として後輩の育成に当たっているご存知「眩き冒険者ボウケンシルバー」こと映ちゃんである。

現役引退は15年ほど前。新設されたボウケンジャー・サーチユニットと蒼太率いるブルーシャドウチームによる調査・解析により「高丘邸の三面鏡を合せ鏡にした56番目の自分の背後にアシュの封印された次元への回廊が存在する」ことが判ってからである。
それ以来、彼は高丘流の末裔としてのアシュの監視、およびアシュとの混血としてアシュたちとの共存の可能性を探るべく、アシュの次元と行き来しながらの生活となったため、現役を退いたのである。
どうやら実母とも再会を果たしたらしいが、本人が妙に照れて言葉を濁すので菜月は詳しいことは知らない。ただ、マザコンの疑いが日に日に濃くなってゆくのみである。

「ちょっと待って、はずして、腕っ」
「やれやれ、キミも真墨とおんなじで相変わらずだね」「そーそー、おこちゃまよねー」
「おい、聞き捨てならないことを言ったな?俺のどこがこの半人半獣と一緒なんだ」「なにぃ、そこのデカ目で反っ歯の黒いのっ!言いやがったな」「なんだと、この野郎。眩しいのはジャケットだけにしとけっ!」「何が言いたいっ!」「最近お前のヒタイが眩しいんだよっ」「てめえぇっ!」「いたいいたいいたい。頭がもげる、首が死ぬ。チーフっ、リーダーっ!喧嘩はヘッドロック外してからにしてくださいよう」「あーもう、止めなさーいっ」「やー、にぎやかになってきましたねー」「ほんとですねー」

みんな変わらないなーっ、とはしゃぐメンバーを眺めながら菜月は、この騒動を一喝で静めたであろうあの人のことを思い出していた。

「さくら姐さん・・・」

(ロケットサマー(後編)に続く)
https://note.com/manet26/n/nd6ced451f854

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