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その後の轟轟戦隊ボウケンジャー:ロケット・サマー(前編)

こちらのSSは2007年05月05日に某mixiに投稿したものです。

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「・・・はやくしろよ、菜月ぃ。暁さんついちゃうだろ」
「だ、大丈夫だよっ。まだ時間まで20分ぐらいあるから」
「20分って!。電車じゃないんだよ、菜月ぃ」
「真人ぉ・・・仮にもおばーちゃんに向かってその『なっきい』って呼び方やめない?」
「いーじゃん、実のお婆ちゃんじゃないんだし。菜月ぃは菜月ぃだもん」
「よくなぁいっ!」
「・・・ほら、菜月ぃ。ドックはもうそこだよ、急ごうよ」
「え、うん。そうだね・・・って、真人ごまかさないーっ」

潮の香のする林の中を抜けて角を曲がると、いきなり視界が開けて青い海が飛び込んできた。
その青い海にかかったリボンのように白い道が走るその先に、サージェス財団の航宙船専用ドックがある。

「帰って来るんだね、チーフ・・・」
ふたりしてなんとなく青空を見上げた。
もうすぐゴーゴーボイジャーが地球に帰還する。『不滅の牙』明石暁を乗せて。

「オレ12年ぶりだ、暁さんに会うの」

そんなに経ってたっけ?と、菜月は思う。
最近すっかり時間の流れに無頓着になっているなぁ、とちょっと反省してみる。
えーと、いまいくつなんだっけ真人・・・19歳か。じゃあ、前回チーフに会ったのは7歳のとき。それは楽しみにしていることだろう。チーフとさくらさんが宇宙のプレシャス探索に出発したあの日から、地球では50年が過ぎた。ビデオメールはやり取りしているけれど、チーフからの通信はいつも「元気か?。こっちは元気だ!××のプレシャス探査も順調。」みたいな事務報告っぽいものばかりだしね。

「けーっきょく、ボウケンバカなのよ」
ぐるっと見渡さないと青い海と白い直線道しか見えないので、なんとなくえんえんと続くように思えるドックへの道を歩きながら菜月はつぶやいた。
「え?・・・ああ、暁さん。」
「うん。あ、ごめんね。」
「謝ることじゃないでしょ?。オレも暁さんボウケンバカだと思うし、結局菜月ぃみたいに暁さんのこと知ってるわけじゃないんだから」
「でも、真人のおじいちゃんだもの」
「おじいちゃんねえ。実感無いよなあ、ホント」

「真人。」
菜月が足を止めた。
強い日差しに照らされて輝く髪を手櫛で梳きながら言いたいことをまとめる。
かつてトレードマークだったツインテールにはもう長いことしていない。ストレートの漆黒の髪と強い意志を秘めたまなざしが持つそこはかとない威厳に真人がちょっとたじろぐ。レムリア文明の遺跡で眠りについていた菜月は極めてゆっくりとしか年を取らない。その成長速度は約100年で1歳程度と、かつて牧野先生が言っていたのを菜月は覚えている。だが、見かけの年齢や疑いをもたないひとなつこい性格を差し引いても、目を覚ましてから50余年の様々な経験は彼女にも人生の重みというものをもたらしている。

「実感無いのはわかる。真人にとってチーフ・・・暁さんはうーんと遠くの人で、しかもほとんど年をとらない、テレビのヒーローみたいな人だから。でも、真人。暁さんは確かにあなたのお母さんのお父さんなんだから、暁さんに会ったらちゃんとした態度をとらなきゃ駄目だよ?」
「う・・・、はい、わかりました。菜月おばあちゃん」
「わかればよろしいっ」
菜月は真人の頭をなでようと手を伸ばして、随分背が伸びたなあ、と思う。真人はちょっと嫌そうな顔をしながらおとなしくなでられている。

「さ、行こうか。もう少しでドックだよ」
「はい」

(ロケット・サマー(中編)に続く)
https://note.com/manet26/n/nea9d091b96e7

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