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キツネノテブクロの咲く頃に【長編小説】

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2年前に書いた短編をリライトして長編小説にしました。冒頭の注意書きは、いくつかのマンガを読んだときに見かけた注意書きを真似たものです。2年前の駒井もいまの駒井も、言いたかったのは…
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2024年6月の記事一覧

「キツネノテブクロの咲く頃に」第3話 #ファンタジー小説部門

********* キツネノテブクロの咲く頃に<3>ボクは鏡にうつらない(3) (約7400字)  姉さまとの旅は、とっても楽しかった。国ざかいをこえてからもずっと、姉さまとボクは森の中を進んで、たまに道に出ることがあっても、とおりすぎるだけで、道を歩いたりはしなかった。だけど旅のはじまりとちがって、夜じゃなくて昼、太陽が出てる時間に歩くようになったから、ボクはいろんなものを見つけて、もう声を出してもよかったから、それがなんなのかをぜんぶ、姉さまにたずねた。 「これ

「キツネノテブクロの咲く頃に」第4話 #ファンタジー小説部門

********* キツネノテブクロの咲く頃に<4>夜に溶けて飛ぶ鳥 (約6200字)  周辺の村の輩から『魔女』と呼ばれ、村から離れた森の中で一人、物言わない草木ばかりを相手にして暮らす偏屈なアタシにだって、それなりの親切心はある。月に一度、薬を買い付けに来る人間を相手するのにもうんざりして、それでも薬を作り続けるのは、ほとんどただの趣味でしかないのだが、まぁ人様のお役に立てているようでなにより、という気持ちも、少なからずあった。  だからこれは、『魔女』なんて変

「キツネノテブクロの咲く頃に」第5話 #ファンタジー小説部門

********* キツネノテブクロの咲く頃に<5>月のない夜の姫君(1) (約6000字)  わたしと弟の、最後の旅が終わった。  弟を魔女の家に残し、わたしは飛び立った。  鳥と化した姿を、弟に晒して。  空にある欠け残りの月の、弱々しい光を頼りに、弟が目覚める前に訪れていた樹を見つけ、降りる。四枚羽の鳥の姿から人型に戻ったわたしは、樹のうろから荷を出し、服と剣を身に着けた。  ふと、ほんの数刻前まで、この手に感じていた熱を思い出す。  唇で触れた頬のやわら

「キツネノテブクロの咲く頃に」第6話 #ファンタジー小説部門

********* キツネノテブクロの咲く頃に<6>月のない夜の姫君(2) (約4800字) 「此度の遠征、黒の姫君にも同行願いたいが。赤毛の子犬の世話で忙しいだろうか?」  四番目の兄さまがわたしに言い、五番目の姉さまがそれに続けた。 「よく鳴く子犬の世話くらい、メイドたちに任せればいいのにね? 月のない夜の姫君は、それほどに子犬にご執心なのね。たまにはわたしが面倒を見ましょうか?」 「それは、許さない」  わたしは姉さまの目を射るように見返し、即答する。

「キツネノテブクロの咲く頃に」第7話 #ファンタジー小説部門

********* キツネノテブクロの咲く頃に<7>月のない夜の姫君(3) (約4100字)  多くの人間たちは魔の一族のことを、魔妖の一種だと考えているらしかった。  しかし一族は、魔妖とは違う。  魔を身の内に取り込んでいるのは同じだが、魔に許されているが故に、魔妖のように飢えて、他の生き物が持つ魔を取り込まずには生きられない、ということはない。  だが人間たちには、それはどちらでもよいことのようだった。  軍の任務の一環としてわたしは、領地の境界を偵察しながら

「キツネノテブクロの咲く頃に」第8話 #ファンタジー小説部門

********* キツネノテブクロの咲く頃に<8>そして、キツネノテブクロの咲く頃に(1) (約7700字)  姉さまが四枚羽の黒い鳥になって、森の闇へと飛び去ってしまったのは、ボクが十三歳になる直前の夏のことだった。  だけどボクはあのときのことを、まるで昨日の出来事かのように覚えている。  それはきっと三十年前のボクが、姉さまとの出来事を毎日、何度も何度も思い返していたからだと思う。  姉さまがいなくなってからボクは、毎晩のように、不思議な夢を見るようになっ

「キツネノテブクロの咲く頃に」第9話(最終話) #ファンタジー小説部門

********* キツネノテブクロの咲く頃に<9>そして、キツネノテブクロの咲く頃に(2) (約6500字)  『魔女』の家で暮らす、最後の夜。  この家に来た日から、ボクはずっと、この二階の部屋で眠っていた。姉さまのぬくもりを感じながら眠った、姉さまとの最後の夜も、この部屋だった。  ボクの、すぐうしろで……いま、なにが起こっているのか?  それは本当に、ボクが望んでいたものなのかどうか、もし違っていたらどうしよう、という気持ちになってしまって、ボクはすぐには振