見出し画像

18 レバ刺しがうまいなんて幻想だ

レバ刺しが食べられなくなって久しい。なぜ食べられなくなったのか?

皆さんも覚えているでしょう。2011年に富山、福井、横浜でチェーン展開する焼肉店でのユッケによる集団食中毒事件。これの影響で厚生労働省が生食用牛肉の処理に関する基準を改訂し、2012年7月には生の牛レバーを販売することも提供することも禁じられてしまった。日本中のユッケ好きやレバ刺し好きが「ああ〜」と落胆したあの出来事を。

食肉でも、いちおう馬刺しは大丈夫ってことになってるみたいだし、厳しい基準をクリアした高級店では牛のユッケも食べることは出来る。でも、下町のもつ焼き屋からは豚のレバ刺しは完全に消えた。さすがに、これは仕方ないと思う。牛以上に豚の生食は危険だ。我々はライオンじゃないんだから。肉なんか生で食うもんじゃない、ってことか。

ぼくは、それが禁じられる前は、もつ焼き屋に行くとほぼ毎回レバ刺しを注文していた。レバ刺しを置いてない店には行かないほどだった。端から見れば、よっぽどレバ刺しの好きな人に見えたことだろう。

でも……レバーってそんなに好きでもなかったよ!

はい、ずっこけた皆さん、いまから説明するから起きて起きて。えーと、ぼくがもつ焼き屋に行くたびにレバ刺しを食べていたのは、レバーが食べたかったからじゃない。それをつけるタレ──ごま油+塩の味が大好きだったからなのだ。

ごま油のうまさに目覚めたときのことは、いまでも覚えている。

あれは26年前(1999年)だった。当時、住んでいた下北沢のアパートの近くに「M」という焼肉店があった。ぼくは一人で焼き肉を食べに行ったりするのを少しも恥ずかしいとは思わないので、月に一度くらいの頻度で夕食に利用していた。そこでタン塩を頼むと、ごま油が出てくるのだった。

レモン汁でタン塩を食わせる店は多い。けれど、ごま油が出てきたのは、この店が初めてだった。うまかったなー。あんまりうまいのでごま油だけお代わりして、カルビも野菜焼きもごま油にひたして食べた。それ以来、焼肉店はもちろん、居酒屋なんかでもごま油で食べられるメニューに注目するようになった。

もつ焼き屋では、レバ刺しの他にガツ刺しを頼むことが多い。ガツとは豚の胃袋だ。もちろん生ではなくて軽く湯通ししてある。あちこち食べ歩いてみて、ガツ刺しのタレはだいたい3種類あることがわかった。「ごま油+塩」「醤油+おろしニンニク」そして「酢味噌」だ。

醤油+おろしニンニクも悪くない組み合わせだが、やはりごま油+塩の官能的な味わいにはかなわない。ぼくは酸っぱいものが苦手なアンチ・スミソニアンなので、酢味噌だけは勘弁願いたい。デフォルトが酢味噌でも、融通が利く店ではわがままを言ってごま油に替えてもらったりする。

というわけで、生レバーがうまいなんてのは、幻想なのだ。みんな牛にナメられてるんじゃないのか。たとえレバ刺しが規制されても、ぼくはごま油さえあればいい。レバーがなければ刺身こんにゃくだっていいじゃないか。ごま油に浸したこんにゃくを舐めてるだけで、チューハイ4杯は飲める。

気が向いたらサポートをお願いします。あなたのサポートで酎ハイがうまい。