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12 福島の赤い逆大三角形

 子供の頃、毎年夏休みになると福島の田舎に連れて行かれた。親にとっては手っ取り早い避暑だし、ぼくらも同年代の従兄弟と遊べるので田舎に行くのは嫌じゃなかった。昼は山で虫を採ったり、田んぼで蛙を捕ったりして遊ぶ。夜になると、近所から親戚が集まってきて大宴会になる。

 そんな親戚の一人に「ただおじ」と呼ばれているおじさんがいた。忠司なのか忠雄なのか正確な名前は知らないが、とにかくみんなはそう呼んでいた。

 このただおじ、耳がすごくデカくて、顔の半分くらいは耳だ。つるっぱげの逆三角顔で、そのうえ耳がデカいもんだから、逆三角顔がいっそう強調されていて、子供にはたまんないフォルムをしている。おまけにこの人は酒好きなのにあまり強くないようで、飲むとすぐに顔が赤くなる。ぼくはそれがおもしろくて、ただおじが大好きだった。

 うちの父親は酒が強く、酔っているところを見たことがない。もちろん顔も赤くならない。だから、ぼくが「酔うと顔が赤くなる人」を初めて見たのは、ただおじが最初だった。そして、おそらく父からの遺伝で、ぼくもどれだけ飲んでも顔色は変わらない。

 飲んで赤くなる人もいれば、逆に青くなる人もいる。まあ青は比喩であって、血の気が引いて白っぽくなるということだろう。

 アルコールは、体内に入るとアセトアルデヒドに変質する。そのアセトアルデヒドは、血流を促進・抑制する神経に働きかけ、血管を拡張させたり収縮させたりする。このアセトアルデヒドを分解するのが「アルデヒド脱水素酵素」で、この酵素のタイプの違いによって、顔が赤くなったり青くなったりするするらしい。いくら飲んでも顔が赤くならないぼくのアルデヒド脱水素酵素は「ただおじ型」でないことは確かなようだ。

 しかし、だからといって安心はできない。以前(マニタ酒房 第6回)にも書いたように、ぼくは酔っても顔に出ないし、態度にもほとんど出ないだけで、肝臓には確実にダメージを喰らっている。それは、血液検査のγ-GTPの数値として思いっ切り現れている。いま400超えてますからね。

 かつて、医者に言われた「あなた、お酒向いてないですよ」の言葉を噛み締め、残り少ない飲酒可能な日々を慈しみながら、今日もホッピーのジョッキを傾けるのである。

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