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14 ラベルは酒の顔

小学生のとき、サケブタを集めていた。漢字で書くと酒蓋。日本酒の一升瓶の栓のことだ。

サケブタは真横から見るとTの字の形をしていて、縦棒に相当する部分はソフビのような素材でできているが、当時はコルクだった。だから、道路の上にそのままトンと置いて、斜め上から運動靴で踏んづけると、コルク部分だけがポキっと取れる。そうして残った丸い蓋部分を集めるわけだ。

サケブタには銘柄のロゴが描かれている。日本酒に様々な種類があるということは、それがそのままサケブタのバリエーションになる。日本盛、菊正宗、剣菱、白鶴、白鹿、大関、月桂冠。ぼくの子供時分に流通していたのはそんなところだろうか。

子供なので、これらを集めてただ鑑賞するということはしない。ゲームに活用するのだ。

友達とジャンケンをして、負けた方が場に1枚出す。勝った方は自分のサケブタで相手の置いたやつの縁をこじる。たいていは弾いてしまうだけだが、うまくやるとポンと跳ね上がってひっくり返すことができる。一回転して元に戻ったらダメだが、ひっくり返せればそれを頂戴することができるというルール。ビー玉でよくやるようなことをサケブタでやっていたわけだ。

サケブタの入手経路は親父が飲んだ酒瓶からもらうのが基本だが、よほどの大酒飲みだって月に2~3本がいいとこだろう。ゲームが弱いぼくはそれじゃすぐに無くなってしまう。そこで酒屋へ行くのだ。

もちろん、正直に「サケブタくださ~い」と言っても、くれるわけがない。だからコッソリ店の裏側へ回り、積んである空き瓶ケースからサケブタだけをスポスポ抜いていく。同じ店で何度もやるとバレやすいので、隣町の酒屋まで遠征したりもした。

なんでもすぐに集めたがる人間だから、酒を飲める年齢になったら「何か酒に関するコレクションができないだろうか?」と考えた。ぐい呑を集めていたことは以前にも書いたが、コレクターという人種は「統一規格」の中にある「バリエーション」に弱い。その点でぐい呑コレクションには蒐集の快感が薄い。

真っ先に思いついたのはラベルだが、あれはうまく剥がれないので楽しくない。ワインのラベルコレクターは世界中にたくさんいて、それを綺麗に剥がすためのフィルムがあるという。上から透明フィルムを貼り付けてそこにラベルを転写させてしまうらしいのだが、その仕組みはぼくにはちょっと違う気がして手を出さずにいる。

ちなみに、ワインのラベルは正式には「エチケット(仏語)」と呼ぶそうだが、集めていないぼくにはどうでもいいことだ。あれがもっと剥がしやすくて自分も集めていたなら、自慢げに「エチケット、エチケット」と言ってたかもしれない。

人間は歳をとると子供に返るという。ぼくもそろそろ子供返りする歳になった。またサケブタでも集めてみるか、と一瞬思ったが、ぼくはあまり日本酒は飲まない。となると酒屋の裏口にっ回って……ということになるが、いい大人がそんなことをやっていたら警察に突き出されますよ。

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