17 散歩中飲酒はすすめない
大竹聡の新刊『ずぶ六の四季』をご恵贈いただいた。生憎なことに大竹さんとは交流がないのだが、担当した編集者が知人なので、その方が気を使ってくださったのだろう。
酒を中心テーマとして執筆活動を続けている人物はたくさんいる。酒場詩人の吉田類、居酒屋探訪家の太田和彦、ギターも上手いがそれ以上に語りが絶妙ななぎら健壱。ぼくの周辺だと『酒のほそ道』のラズウェル細木、新進酒場ライターコンビのパリッコ&スズキナオ、コの字酒場を探求している加藤ジャンプ(敬称略)。こうした人々はどれも酒の顔を担っており、もちろん大竹聡さんもその一人だ。
『ずぶ六の四季』の中に、「飲酒前散歩のすすめ」という一遍があった。
ある夏の日。猛暑の中を取材のために歩き回り、極限まで汗を絞ってから飲んだビールが実にうまかった。以来、酒を飲む前には意図的に散歩をするようになったという。自宅で飲むなら、しばらく歩いたあと風呂に入って汗を出しきり、晩酌をやる。外で飲むなら、目的の駅のふた駅前から歩いていく。
ふた駅とはまたずいぶん歩くものだが、歩くことならぼくも負けていない。古本屋巡りなんかを趣味にしているので、神保町はもちろん、古本屋をハシゴするためにひたすら歩くことを厭わない。
かつて会社勤めをしていたり、マニタ書房を経営していたときなどは、通勤のために歩くことは日常だった。駅から歩いて出勤して、仕事のためにあちこち歩き回って、終業後はまた歩いて酒場に飛び込む。移動による身体の疲労と、仕事による脳の疲れを酒が癒してくれる。
いまは自宅で仕事をしているので、歩く必要がなくなってしまった。だから運動不足解消のため、明け方に散歩をするようにしている。家の周辺の住宅街を1~2キロ歩くだけの殺風景なもんだが、朝イチということでいいウォーミングアップになる。
歩いてるときというのは暇なので、ぼくは本を読む。歩きスマホならぬ、歩き読書。この習慣は昔からずっと続いていて、以前、神保町のすずらん通りを歩き読書していたら「本の雑誌」の浜本編集長に見られて笑われたことがある。いやいや、たぶん目黒考二さんだって歩きながら本を読んでるんじゃないのか。
歩いている最中が暇というなら、歩いている最中に酒を飲むのはどうだろう。店のテーブル席に座って飲むのと、カウンターで立って飲むことのあいだ。座り飲みと立ち飲みの中間に“歩き飲み”というものがあってもいい。
ほろ酔い系の酎ハイを、ゆっくりペースで歩きながら飲む。濃度の低いアルコールが体内に入ってくるペースと、運動によって酔いが冷めていくペースが釣り合えば、きっと永遠に飲めるだろう……。
なーんてことを実行したら、人として終わりのような気がします。
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