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44 東中野バレンタイン(友達酒場編2)

 東中野のムーンロードと呼ばれる飲屋街の一角に、「バレンタイン」という名のバーがある。バレンタインと言ったら、一年のうち一日だけ、女の子が意中の男性にチョコレートを渡すことで想いを告げるバレンタインデー。そんな言葉を店名に掲げるなんて、なんとまあロマンチックなバーでありましょうか。
 と、思いきや、店内の壁中に張り巡らされているのはホラーやカンフーにサスペンスといった、ようするに血と殺戮にまつわる映画のポスターばかりで、およそロマンチックとは言い難い。しかも、夜な夜な集まるのはやたらとガタイが良かったり、人相が悪かったりする、あまりバレンタインデーとは縁がなさそうな野郎ども。
 これは一体どういうことか。
 そう、バレンタインは、パンク、ホラー、怪獣、プロレス、コメディアンなどを題材にしたTシャツで俄然注目を集めるアパレルブランド「ハードコアチョコレート」の経営する酒場なのだった。

 ぼくが最初にバレンタインに行ったのは、たしか安田理央さんが一日店長をやるというので、顔を出したときだと思う。それ以後、店に通うようになり、コアチョコの代表兼バレンタインのマスターでもあるMUNEさんとも仲良くなった。
 バレンタインの常連さんにはプロレスファンが多く、現役レスラーが来ることもあるし、NOAHの稲村愛輝選手はアマチュア時代にここでバイトもしていた。ご存知のようにぼくはプロレスはもちろん格闘技というものにまったく興味がない人間なので、バレンタインで飲んでいてもみんなの会話にほとんどついていけない。それでも、わからないなりに楽しく飲んでいる。
 マスターのMUNEさんは、ガサツな人のようでいて実はちゃんとカウンターの中からお客さんの様子を観察している。だから、退屈そうにしている人がいると、さりげなく席替えを促すなどして、場がシラケることをうまく回避する。ぼくもそれで何度救われたことだろう。

 前回書いたゴールデン街もそうだけど、どうしても東京の左半分の店には行きにくい。神保町でマニタ書房をやっていたときは、それでもたまに顔を出すことができたけれど、さすがに松戸から東中野まで出かけていくのはシンドイ。あっち側で用事があったときは、なるべく帰りに顔を出そうと思ってるんだけどね。
 開店当初のバレンタインは、同じムーンロードでも別の場所にあった。そのときは、カウンターしかなくて7~8人も入れば一杯になる狭い店だったな。そこからいまの場所に引っ越して、ずいぶん広くなった。10人くらい座れるカウンターと、テーブル席もある。
 こんな楽しい酒場、未来永劫続いてくれるといいんだけど、近々立ち退きで閉店するらしい。その後、またどこかで再開するのかわからないが、機会を見て、行ける限りは行くようにしようと思う。

※写真は、タイから数年ぶりに帰国して、MUNEさんお手製の煮物の味に感動して泣いているtagちゃん。

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とみさわ昭仁
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