チャンピオンのDNA Sir Clive Woodward
会社の会議。結構すごいスピーカーがくる。私が今でも覚えているスピーカー、例えばアリババのマー。一時代を作ったフラット化する世界のトーマス・フリードマン。行動経済学のダン・アリエリー。それでも今回のスピーカーもすごかった。Sir Clive Woodward。2003年のラグビーワールドカップで、イギリスがオーストラリアに劇的逆転勝利した時のコーチ。さらに、2006年から2012年にはオリンピックに関わって、ロンドンオリンピックで過去最高のメダルをイギリスチームにもたらしたという伝説のコーチ。が、今はビジネスコーチをしているという。
スポーツとビジネスの共通点
スポーツとビジネスの共通点は結構私には納得で、というのも、そもそも私もコーポレートアスリートというスポーツをベースにしたトレーニングのトレーナーをずっとやっていたから。クライブもゼロックスで営業をやっていたこともあるそうで、「スポーツとビジネスには共通点が多い」と言う。
今回の講演のタイトルは"DNA of a Champion - How You Will Be Remembered"
なんとベトナムでの会議に合わせてイギリス時間早朝3時からオンラインで参加してくださった。
私はそこまでラグビーのことは知らないので彼のことも知らなかったのだが、周りのイギリス人も、スコットランド人も、オーストラリア人もみんなざわつくほど有名な人らしい。
チームで勝つために個人を徹底的に重視する
"Great teams are made of great individuals"
組織をリードする。チームで勝つ、という話の場合、共通の目的、お互いの信頼など、チームに注目した内容が多い中で、彼の信念はとにかく個人をベースにチームを作っていくというところ。基本的な考え方は、
Talented な人をStudent として、とにかく学ばせ(Iron (Fixed mindset) vs. Sponge (Growth mindset)) プレッシャーに負けないWarriorにし、最後はWill とAttitudeでChampionにする。どんなにすごい個人でも、相手をとにかくサポートするから、ともっとも1on1に時間を使って育てていくのだという。
「チームの中にIronがいたら、どうするのか?」
という問いにも、
「Ironというのは、もっとも経験のある人だったりする。しっかり話し込むことで、どんなIronでもSpongeに変えていくことができる」
という。
話をしている最中も熱い気持ちと相手への思いやりが溢れていて、チームに働きかけなくても、そりゃこの人にはついていきたくなるよな、と思った。
ひたすら学ぶ
イギリスチームのコーチになってまず彼がしたことは、プレイヤー全員にPCを渡したこと。今ならともかく1990年代後半のこと。何をさせたかというと、当時出たばかりだったProzoneという、ラグビーの試合を上から撮影しプレイヤーの位置を分析するソフトウェアで試合を振り返らせ、要所要所での改善点を話し合い報告しあったのだそうだ。ラグビーといえば確かに頭脳プレーというのは知っていたが、位置取りや走るスピード。ボールを持つ時間などすべてがデータ化されて分析されていたとは知らなかった。今でこそ、ある程度ソフトウェア自体が色々教えてくれるのだそうだが、クライブが使い出した頃はデータのみだったはず、と同僚。
多様な視点で考える
クライブ自身がとにかく学ぶこと、多様な意見を聞くことを重視していて、チームの中に敢えて女性を入れたり、自分の知り合いで全くラグビーに関係のない人を一日練習に呼んですべてを見せ、「なにか一つ改善点を上げてくれ」といったことをしていたそうだ。今日も本当はベトナムに来て学びたかった、と真剣におっしゃっていて、まさに彼自身が海綿のようなスポンジなのがよくわかった。
プレッシャーに打ち勝つ
こうやってスポンジのように学んだあとは、プレッシャーに打ち勝つために、
TCUP = Thinking collectively under pressure
を教えるのだそうだ。それを説明するために、チーム会議を写した写真を見せてくれた。
写真の中には、チームの真ん中でホワイトボードを背に話すクライブ。ホワイトボードには、イングランドとオーストラリアの選手の位置が描かれている。これは決勝の前日のチーム会議で、横の壁にはスコアボード 16 vs 19でイギリスが負けている。その横に時計があって、残り5分。この状況で何をするかを徹底的に話し合うのだそうだ。
TCUPの事例で出たのが2004年アテネ・オリンピックのシンクロダイビング。5回飛んで競うのだが、ラストダイブでそれまで一糸乱れぬダイブでトップをぶっちぎりで守っていた中国チームがまさかの失敗。さらに次に飛んだロシアチームもまさかの板に頭をぶつけるという失敗で最下位2チームに沈み、その次に飛んだUSAチームも高得点を出せず、メダル圏外だったギリシアチームがオリンピック初の金をこの競技で取ったという話なのだが、なぜか?というのがすごくて、この5ダイブ目の直前にチュチュを着た男が乱入し、試合が2時間以上止まってしまったのだそうだ。たしかにこの手の集中競技の場合、集中が途切れてしまえば飛べなくなるのもわかる。。選手が気の毒すぎる一方で、そんな時にこそTCUPなのだそうだ。
Obsession
最後のチャンピオンに必要なもの、Attitudeでは、”Obsession"が出てきた。こちらもオリンピックの例だったのだが、スキーダウンヒルの競技、1位から21位の差はたったの+0.75秒。実際にビープ音で以いかにこの差が小さいかを体感させてくれた。たしかにこの秒差で勝とうと思ったら、Obsessionがなければ無理だろう。
自分の本を書け
自分の考えをまとめ、人に伝えるために
Exactly what you do in your job
Exactly what your team does
の2冊の本を別々に書く。その中で、重要事項を章にする。ちなみに彼がラグビーワールドカップで勝つために書いた本には
Defense(守備)
Basics(基礎)
Pressure(プレッシャー)
Attack(攻撃)
Tactics(戦術)
Self conrol(セルフコントロール)
Leadership(リーダーシップ)
の7章があったのだそうだ。これもラグビー好きな同僚によると、強いチームはそもそも攻撃が強いことが多いので、敢えて最初にDefenseを持ってきているのでは?とのこと。たしかに章立てにすれば自分の考えもまとまるし、人にも伝えやすくなるだろう。
クライブから学んだこと
とにかく内容の濃い講演だったのだが、何が一番残った?と言われれば、クライブから溢れ出る人への興味と熱意。個人へのコミットメントによってチームでの結果を残すという一見矛盾して見えるアプローチが、彼の人柄と熱意によって実現されたことがよくわかった。
自分はここまで個人を大切に、個人に関わりきれているだろうか?
人にはタレント、才能があって当たり前。でも才能だけではチャンピオンにはなれない。スポンジのように学び、プレッシャーに打ち勝てる準備をし、取り憑かれたレベルの強い意志を持って勝つ。そんなチームを育てる一歩を個人から始めよう。
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