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忘れられない先生

中3のときの担任、カイセン。

クラス替えがあり、ウチのクラスの担任の名前を見たとき、正直ゲッ・・・っと思った。
カイセン・・・
体育の先生で、サッカー部の顧問。
武闘派で物言いもめちゃくちゃきつい。
クラスのメンバー自体は申し分ないのだが、担任がね・・・ってみんなで言ってた。


カイセン、かなりひいきが激しい先生。
オレは特別嫌われていたわけではないと思う。
ただ、そんなに好かれてもいなかったと思う。


体育大会のとき、各クラスで学級旗なるものを作る。
そのデザイン画を作成するってのが毎年恒例の夏休みの宿題。
そして美術室の前に全学年生徒の学級旗のデザイン画が展示される。
展示が終わってから、各クラス内で多数決でデザインを決める。

まっつんというオレの友人がいる。カラがでかく、かなりケンカっ早く、一言で言えばヤンキーである。
そのまっつんが作成したデザインが、カイセンの顔(かなりそっくり笑)に手足をはやしたコミカルなもの。
純粋に出来がいいなと思ったので、ネタの意味も含め、多数決の際、まっつんのデザインに投票する。
すると、何と、まっつんのデザインがダントツ一位になってしまった。
まっつん含め、みんなが爆笑している中・・・
カイセンが大声を上げてキレだした!
一瞬で場が静まりかえる。
そしてまっつんもそれに対して思いっきり不快感を顔に出してしまった。その場でまっつんは教壇に呼び出され、そこでめちゃくちゃ怒鳴られ説教された。クラス全員理不尽さが隠しきれない様子。でもカイセンがキレまくっているから文句も言えない。
結局、まっつんのデザインは却下。当たり障りのないデザインに決まってしまった。
そしてそれ以来、カイセンのまっつんに対する風当たりが強くなった。



そして体育祭の男子の出し物、組み体操。
中3は各クラス1個ずつ15人ピラミッドなるものを作成する。
6クラスあるので、ピラミッドは6個できることになる。
しかし、ウチのクラスだけ、何度練習してもピラミッドが完成しない。
いや、厳密に言えば、ピラミッド自体は完成する。しかし完成後の数秒間静止がもたず、崩れてしまうってパターン。

カイセンはその事実についてあからさまに不快感を出す。
ピラミッド、まっつんは一番左下。オレはまっつんの上(下から二番目の左下)というポジション。
全体練習が終わった後も、ウチのクラスだけ運動場に居残って、カイセンもそこに居座ってピラミッドの練習。他クラスの生徒は帰宅してもよいとなったが、興味本位で見ているギャラリーも多数いた。
練習中、やはり何度かピラミッドが崩れた。「下で支えているヤツが悪い!」「左がぐらついている!」とカイセンは怒鳴り出す。その矛先がまっつんに向いていることはみんながわかった。

ピラミッドが無事に完成し、後は数秒静止ってなったとき、「ウチのクラスだけ何でピラミッドできへんねん!」「オマエら、ほんま情けないのぉ!」と罵声の嵐。「オマエら、かかってこいやー!!!」とまで言い出したとき、下がプルプルと震え出す。まっつんもキレだしたのである。
「もう我慢できん、まんちゃん、オレ行くわ」って言ったとき、「ちょっと待てーオマエが行ったらピラミッド崩れてしまうやろー」って言いながらまっつんの肩をつかみ必死で制止する。

結局まっつんは“かかって”行かず、ピラミッドはこのときに初めて成功。
後で周りのギャラリーに、「まっつん、絶対に行くと思ったわー」って言われてた。いやオレも正直カイセンにムカついてたし、まっつんがかかっていっても面白かったかなとも思いつつ、でもこの居残り練習から早く解放されたかったんだ。まっつんよ、許せ。



そして体育祭も終わり、受験モードに。

たっくんという友人がいる。たっくんはサッカー部だったが、中3になってから辞めた。サッカー部内で練習ボイコットが起こり、みんなでやめてやろうぜーっていうノリになったとき、たっくんが率先して辞めた。しかし他のみんなは辞めずに続けることになった。そんな経緯からか、当然たっくんに対しても、カイセンの風当たりは強かった。

まっつん、たっくん、他数人で保健室に行き国語の授業をサボろうという話になった。その日、たまたまオレは頭痛がしてて、同じタイミングで保健室に行った。
1時間爆睡したら幸いマシになった。保健室から戻ってきたら弁当の時間。
そのとき、国語の先生からカイセンに伝わったのか、オレ含め保健室に行った数人が教壇の前に呼び出された。
オレはすぐに解放、まっつんとたっくん以外の数人も解放。
まっつんとたっくんだけが教壇上に上げられた。
みんなの前で罵声を浴びたあげく、たっくんは張り手され、まっつんは投げ飛ばされた。



進路指導になり、オレは高望みした公立の志望校を言った。
「オマエの成績では無理。志望校下げろ。」
でもオレは志望校を下げたくなかった。
結局1回目2回目の面談では決まらず、3回目の面談にて、
「オマエの成績だったら絶対、100%無理!」
とめちゃくちゃ嫌みったらしく言われたが、結局下げなかった。
最終的に、高望みした志望校を受験することにした。
結果、不合格。

蓋を開けてみたら、ウチのクラス、公立高校不合格者が多かった。
そのせいか、カイセンは次の年から担任を外された(って後輩から聞いた)。



当時、100%無理って言われたときは正直ムカついたし、まっつんやたっくんと仲がいいことでオレにもとばっちりが来てるのかとも思っていた。

でも、今こういう商売をやるようになってわかったこと。
もしオレの状態のような生徒が中3のときのオレと同じことを言ったら、
100%無理、生まれ変わって出直しな!!
って言いたいくらいの成績だったってことがわかった。
どの口が言ってんねん!ってくらいのことを言ってたんだなと。

そんな状態だったのに、100%落ちることがわかっていたのに、志望校を受けることを許可してくれた。
合格実績が悪くなって担任を外されるリスクを冒してでも、チャレンジすることを許可してくれた。
受けるとわかってからは、遅刻スレスレで登校しても全く怒られず、「勉強しすぎで起きられないのか~仕方ないな~」とねぎらいの言葉をかけてくれるようにもなった。
カイセン、思ったより悪い人じゃなかったんじゃないか?



その思いは20年以上ぶりに開かれた3年全クラスの同窓会で的中する。
「カイセン、なんやかんやでいい先生だったなー」
「カイセン、毎日家までむかえに来てくれててん」とヤンキーの女子。
えー、オレも!みたいな感じで連鎖する。

たまたまカイセンも同窓会に来ていた。
カイセン、中学卒業後ほぼ会ってなかったのに、オレのこと覚えていてくれた。
「あのとき、生意気ってすみませんでした!そして、100%無理な志望校の受験許可をくださってありがとうございました!」
と自分の非礼をわびつつ、お礼も言えた。面と向かってきちんと言えた。

カイセン。
確かにいただけない部分もたくさんあったけど、いい意味でも悪い意味でも、熱く、人間くさい。キャラが濃すぎる先生。
そんなカイセンももうすぐ定年だとのこと。
定年のお祝い、もし開催されるんだったら率先して行こうと思う。




#忘れられない先生 #エッセイ部門

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