靴は悪い?

born to runという本が世に出たのが2006年辺りだ。発売されてすぐさま嵐が起きた。足を守るために年々靴の底が厚くなる中で靴が悪いとずばりと反論したのがこの本だった。柔らかい靴が良くないどころか、そもそも靴なんか不要だとまで断言。その後、様々な側面から靴の必要性や有効性に関する研究がなされてきた中で一概に良いか悪いかは言えないきれど、少なくともこの本の影響で靴に関する考え方が変わったとまで言わなくとも靴無しという新たな選択肢が生まれたことは間違いない。

極論すると靴はあまり人間に良くない。特に底の厚い靴は踵の部分ととつま先の部分に高低差がありこれによって姿勢が変わったり、クセができたりして、その結果腰痛などといった日常的な痛みが生じる。けど、だからといって靴を捨てようということにならないのは、裸足でまちを歩くわけにはいかないからだ。社会的な常識はもちろん、安全の面でもゴミが散らばったりしている道を裸足で歩いていると足裏を痛めても仕方ない。しかし、家では裸足をしたり、散歩するときに芝生などの柔らかい面の上を靴を脱いで少し歩いてみたりとか、日常生活の中で少しで「裸足の時間」を作ることができないことではない。これだけでもかなりの効果がある。そして、靴を履く時にできるだけ底の薄いタイプの靴を選ぶといいらしい。底が薄いほど自然な姿勢になるそうだ。

健康の観点からいえば、少し裸足で歩いたり、靴選びに気を配ることが良さそうだが、最も影響がありそうなのはマラソンだ。反発力を武器に誕生してから次々と記録が塗り替えられてきた厚底シューズが話題となる中で実は靴を履かないことが一番タイムが縮むといったら首を傾げられそうだが、様々な研究を踏まえると反発力を与える靴より自然なままの裸足が最も速いということは実におかしな話ではなさそう。靴は軽量でも裸足に比べて当然重さがあり、走る時に一歩一歩その重さを上げないといけない。それを無くすだけでかなり違うが、それだけではなく地面と足の間にある靴が地面からの衝撃を吸収してくれる。足への衝撃が軽減され良いように聞こえるが、実は衝撃が足にちゃんと伝わらないことによって衝撃や地面など状況に応じて脳は正しい走り方を選択することはできない。走る時に脳は周りの環境からフィードバックを受けて微調整している。靴の底が柔らかく衝撃が少ないはずなのにケガをするというのは情報が足りなく脳がうまく調整できないからなのだ。靴を作る会社が言うことと反対に実は衝撃がそのまま足に当たった方が無難だ。
さらに裸足の利点を上げれば、数年前にかなりの話題性を集めていた「つま先着地」が楽にできるというのがある。靴、得に踵の部分が厚い靴では踵が先に地面に着くような走り方になりがちだ。踵が先に着くというのは足が体の前に出ている状態で着地するということで、これによって足が衝撃をうまく吸収できず足へのダメージが大きくなる上に前に進んでいる体の前に足がピタッと下ろされることが推進力にブレーキをかけてしまう。結果は走りの効率が下がると同時にケガのリスクが上がる。でも、靴を脱ぎ棄て裸足で走ってみると踵ではなく足の真中の部分あるいはつま先辺りに着地する。長年靴を履いているクセはすぐ直らないかもしれないが、裸足で歩いたり走ったりすることで自然にこのつま先着がでるようになる。

靴は良くも悪くも捨てがたいわたしたちの日常の需要品だ。靴を履かない方がいいと言っても事実は靴を履かないことはあまり現実的ではない。でも、より足の自然の動きに近い動きができる靴を選んだり、機会があれば少し裸足を試したりすることで誰でも足の状態を改善することができる。靴がいいと言われてきてその信条を崩すことが難しいかもしれないが、もっとも裸で生まれた人間が足裏を守る以外に靴を履かないといけないということは変な話だ。


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