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わたしの好きな鬱映画ベストテン 第5回

『みな殺しの霊歌』(1968年、監督:加藤泰 脚本:三村晴彦)

鏑木創によるテーマ曲のスキャットで泣いてしまう。衝撃的なほど美しく哀しいメロディだ。iPodに入れて街を歩きながら、何度も涙ぐんだ。清らかなもの、純粋なものが壊されることへの鎮魂の曲だ。

あるマンションの一室で、高級クラブのマダムである孝子が、暴行を受けたのちに惨殺された。部屋には犯人が持ち去ったと思われる、4人の女性の名前が書かれたメモの跡があった。警察はまず、孝子の仕事柄から男関係を洗うが、間もなくメモに書かれていた、鎌倉の有閑マダムの圭子がやはり凌辱されたのちに殺された。殺しの方法は陰惨を極めた。警察は関係性がわからず捜査は混乱する。

2人の女を殺した川島(佐藤允)は、不貞を働いていた妻を初夜に殺害した過去があった。逃亡中に工事現場で働く彼には、最近、すがすがしさに惹かれて親しくなったクリーニング屋の少年がいた。しかしつい最近、少年は配達で訪れたマンションで、ブルーフィルムを観て欲情した5人の有閑マダムに輪姦されてしまった。川島にもそのことを打ち明けていたが、結局苦痛が拭えずに、飛び降り自殺を図って亡くなっていた。そのため、少年の清らかさを打ち砕いた女たちに、川島は復讐をしていたのだ。

川島は「万福」という定食屋に入った。店員の春子(倍賞千恵子)は閉店しようとしていたのに、快く注文を受ける。右手に怪我をした川島が箸を持ちづらそうにしていると、春子はすぐ気づいてフォークを差し出した。店内は片づけをしながらも、春子らが陽気で明るく、川島も自然と笑みが浮かぶ。

川島と春子は急速に親しくなっていく。すると、万福の店主は川島に、春子には思いがけない過去があることを告げる。彼女は実の兄を殺めて、執行猶予中の身だった。店主は川島に、それでも春子を幸せにしてやってほしいと願っていた。そして川島は店の奥をフッと見て気づく。指名手配書の彼の顔写真だけが破られていることに。

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