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山中裕『平安時代大全』

忙しい先生のための作品紹介。第50弾は……

山中裕『平安時代大全』(KKロングセラーズ 2016年)
対応する教材    『枕草子』『源氏物語』『大鏡』など、平安時代の作品全般
ページ数      310ページ
原作・史実の忠実度 ★★★★★
読みやすさ     ★★★☆☆
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆
レベル       ★★★☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★★☆☆
先生へのおすすめ度 ★★★★☆

作品内容

 平安時代の生活の実態と風俗について、「年中行事」「後宮の女性」「皇族・貴族」「人物」「冠婚葬祭」「風俗文化」「宗教」「文学」「荘園」という9つの観点から、基礎となる知識やエピソードがまとめられています。

 まえがきから引用すると、「平安時代は、宮廷文化芸術の最高の時期に達し、『みやび』な時代であったといわれるが、当時の政治、経済はいかがであったか、このような質問にこたえようとするのが本書の特色」だとされています。

おすすめポイント 平安時代の生き方が分かる史料集

 本書では、平安時代の知識・エピソードが平易な文体で簡潔にまとめられています。短い項目は200字程度、長い項目でも1000字程度で、それぞれが独立した内容になっているので、必要なときに必要な箇所を読むことができます。文中で使われている言葉は一般・初学者向けで、専門性の高い用語(一般的な辞書では調べられない、理解が難しい用語)はほとんど出てきません。『平安時代大全』というタイトルからは手に取りづらい専門書のようなイメージを受けるかもしれませんが、実際は誰でも気軽に読める内容になっています。

 本書については、学習参考書というような堅苦しいものではなく、「なるほど!」「そうだったのか!」となるような小話集をイメージすると良いかもしれません。例えば「清少納言、初午詣で疲労困ぱい」「『源氏物語』にみられる罪の意識」など、古文を扱う際に知っていると楽しい、面白い内容が豊富に含まれています。

 読めば読むほど平安時代の面白さが分かってくる、そんな一冊になっています。

活用方法

 教員が授業のちょっとした話のネタとして使うのにもよし、生徒が古典の世界への理解を深めるために読むのもよし、どちらの役にも立つ内容です。

 また、本書は平安時代の文化や生活にフォーカスしたものなので、文学(国語科)だけでなく、歴史(社会科)の学習の補助にもなるでしょう。さらに言えば、本書で紹介されているエピソードが、国語科と社会科の橋渡しとなることにも期待できます。「歴史的な事物、人物、文化など(社会科)→そこで生活していた人々の実態(平安時代大全)→それがどのように文学作品に落とし込まれているか(国語科)」という流れを押さえることができれば、教科横断的な学習ができるのではないかと思います。

 ただし、本書には誤植が散見されるので、その点には注意が必要です。また、索引がないため、特定の用語をピンポイントで見つけるのには時間がかかります。授業で扱う際には、予めしっかりと確認しておく必要があります。

 本書はあくまでも、当時の生活の実態をミクロな視点から紹介したものなので、これそのものを教科書のように使うことには向いていません。副教材・参考資料として、授業内容に合わせて生徒に対応箇所を紹介するといった使い方が有効でしょう。

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