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『学びを深めるヒントシリーズ 平家物語』(吉永昌弘)

忙しい先生のための作品紹介。第46弾は……

吉永昌弘『学びを深めるヒントシリーズ 平家物語』(明治書院 2019年)
対応する教材    『平家物語』「木曽の最期」「忠度都落」など
ページ数      269ページ
原作・史実の忠実度 ★★★★☆
読みやすさ     ★★☆☆☆
図・絵の多さ    ★★☆☆☆
レベル       ★★★★☆
生徒へのおすすめ度 ★★☆☆☆
先生へのおすすめ度 ★★★★★

作品内容

 『平家物語』の代表的な章段を上げ、本文・現代語訳・語注などの本文の内容自体についての解説と、「鑑賞」「探究のために」「資料」といった、本文をさらに深く解釈するための解説が書かれています。

 「鑑賞」では、はじめに「鑑賞のポイント」として本文についての問いが提示され、その答えが多様な視点から提示されます。

 また「資料」では、その章段の理解に役立つ他の場面、延慶本や屋代本などの異本、『玉葉』『吾妻鏡』など同時代の作品、浄瑠璃や歌舞伎など後世の作品など、読解に役立つ参考資料が原文で載っています。そのそれぞれに逐一現代語訳が付いているのも嬉しいところです。

 本書は有名な章段を抜き出して紹介していますが、章段と章段の間にはその間のあらすじと年表が載っているので、本書を通して読めば『平家物語』全体の物語が理解できるようになっています。

おすすめポイント 解釈の手がかりがつかめる一冊

 国語の授業を考える際に、本文のどこに注目したらよいか、悩むことはないでしょうか。その際、どのような問いを設定したらよいか迷うこともあるでしょう。すぐに答えが出てしまうものではつまらないし、一方で根拠がうまく説明できないようなものではただの空理空論になってしまいます。本文や関連資料を読むことで適度に理解が深まる問いを設定するのは結構難しいものです。

 本書はそのような問いを章段ごとに設定してくれているので、授業を考える際のヒントが得られます。例えば「木曽最期」では、「なぜ義仲は巴に『いづちへも行け』と言ったのか。」という問いが設定され、義仲が巴のためを思っていたとは必ずしも言えないと述べています。
 また、「『さてこそ粟津のいくさはなかりけれ』という言葉は、どのような意味を持つか。」という問いもあり、これについては「いくさがなくなる」というのは、単に戦いの終結を表すのではなく、義仲と兼平が思い描いていたような戦にはならなかったという意味まで含んでいるのではないか、という意見が提示されています。

 もちろん、本書の解説だけが答えではないでしょうが、関連資料や論文などもわかるので、これ一冊で教材研究がかなり楽になる一冊です。

活用方法

 本書は、「教場の最新版虎の巻」と謳われているように、教員が教材研究するための本であり、生徒に紹介するというよりも、教員自身の勉強にうってつけの本です。また、2022年度から始まる高校の新学習指導要領にも対応しています。新学習指導要領では、内容の読解だけでなく、生徒が主体的に解釈する力が求められています。しかし、いきなり「解釈」と言われてもやり方がわからず、困ってしまう人も多いのではないでしょうか。本書を読めば、本文のどこに注目すればよいのか、そのためにはどの資料をあたればいいのかがわかります。解釈の答えは本書に縛られる必要はありませんが、一つの可能性として捉えるには十分説得力があります。

 また、教科書では定番の「木曽最期」「忠度都落」「祇園精舎」だけではなく、「先帝身投」や「足摺」など重要な場面が数多く取り上げられているので、少しマイナーな場面を扱う場合でも使えることでしょう。

 先述の通り、本書は教員に向けて書かれた本ではありますが、教え方についての本ではなく、あくまで本文の解釈・研究について書かれているので、発展的な課題を求める生徒には薦めてみてもいいかもしれません。

【本書で取り上げられている章段】
・巻一「祇園精舎」
・巻一「祇王」
・巻三「足摺」
・巻五「富士川」
・巻七「忠度都落」
・巻九「宇治川先陣」
・巻九「木曽最期」
・巻九「逆落」
・巻九「敦盛最期」
・巻九「知章最期」
・巻十一「先帝身投」
・巻十一「能登殿最期」
・灌頂巻「大原御幸」

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