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「舞姫の時間」(瀬川雅峰『辰巳センセイの文学教室〈上〉「羅生門」と炎上姫』より)

忙しい先生のための作品紹介。第47弾は……

「舞姫の時間」(瀬川雅峰『辰巳センセイの文学教室〈上〉「羅生門」と炎上姫』第一章 宝島社 2021年)
対応教材      『舞姫』
ページ数      106
原作・史実の忠実度 ★★★☆☆
読みやすさ     ★★★★★
図・絵の多さ    ★☆☆☆☆
レベル       ★★★☆☆
生徒へのおすすめ度 ★★★★☆
教員へのおすすめ度 ★★★★★

作品内容

 以前、同書の第二章「羅生門の時間」を紹介しましたが、今回はその本の冒頭、第一章を紹介します。

 高校で国語を教える辰巳祐司は、階段で転んで血を流している生徒に遭遇します。その生徒は美術部のエース・結城琴美。しかし病院で目を覚ました結城は当時のことを語ろうとしません。

 時を同じくして、美術部の顧問・神田優が突然学校を休み始めました。その神田を、須藤奈々という生徒が探しに来ます。三人の間にはどのような事情があるのか。カギとなるのは、事件当日になくなった結城のスマホ。そのありかは果たして……

おすすめポイント 現代における『舞姫』的三角関係

 「羅生門の時間」と同じく、本書と『舞姫』のストーリーが重なるところはやはり見逃せません。『舞姫』では太田豊太郎がエリスに恋をし、相沢謙吉によってその仲が引き裂かれます。この話の流れが、本章では神田、結城、須藤という3人の物語として語られています。

 本章の物語は、作者の『舞姫』の解釈を基に書かれており、『舞姫』の話と全てが同じというわけではありません。
 例えば『舞姫』では、相沢は豊太郎の盟友として描かれていますが、本章の結城は神田の生徒であり、関係性が異なります。しかし、『舞姫』を〈元々強い絆で結ばれていた二人の間に第三者が割って入るが、最終的に排除される話〉と考えると、本章にも通じるものが見えてきます。
 原作のどの部分を踏襲し、どの部分を改変しているかがわかると、原作と本章双方の解釈が深まり、より2つの作品が多面的に読めるのではないでしょうか。

 本書全体では、先日紹介した『羅生門』、今回の『舞姫』の他に、『山月記』、『竹取物語』、『こころ』が扱われています。それぞれのストーリーを現代版に置き換え、それら全てを1つの物語にまとめた本書は、かなり読み応えのある作品になっています。原作はどれも定番教材ばかりなので、物語を知っている人も多いでしょう。原作の物語がわかる人には、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

活用方法

 本章の途中に挿入されている「ある日の『舞姫』授業」では、辰巳センセイによる『舞姫』の授業場面が描かれています。辰巳センセイによる解説だけでなく、発問や生徒の様子なども丁寧に書かれているため、実際に授業を受けているような気になれるでしょう。合計22ページ(P36~39,47~51,65~68,81~85,99~102)でまとまっているので、そこだけを取り出して参考資料として授業で用いることもできそうです。

 ただし、この授業場面も作者の解釈が入っている、という点は注意が必要です。特に、豊太郎の母の死について、本章では諫死説(母の死は豊太郎を更生させるためという説)を取っていますが、時系列を整理したときの前後関係から、それを否定する説も多く出ています。

 そうはいっても、本章は『舞姫』の物語と結城たちの物語が併行して進んでいくところに魅力があります。そのため、授業で部分的に使ったとしても、生徒には『舞姫』を学習しながら物語全体を読んでもらいたい作品です。

第二章「羅生門の時間」の紹介記事はこちらから


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