見出し画像

『アイムクレイジー』

仕事終わりで、職場から徒歩一分ぐらいのところのイメージフォーラムで工藤将亮監督『アイムクレイジー』を鑑賞。出演されている曽我部恵一さんと監督のトークが上映後にあった。


―――――――――――――――
くだらない曲ばかりが売れる世の中に嫌気がさしたミュージシャンの佑樹(古舘佑太郎)は音楽の道を諦めようとラストライブの日を迎えていた。バイトに向かう途中、交通事故に遭った佑樹は作曲家の美智子(桜井ユキ)と広汎性発達障害を持った息子・健吾と出会う。バイト先の店長(曽我部恵一)から強引に健吾の子守をさせられたことをきっかけに佑樹は親子と深く関わっていく。かつての仲間の活躍、元カノの妊娠、理想と現実の狭間で時に激しく周囲に苛立って佑樹だったが、自分の思い通りにはいかない日々の中、明るく振る舞う美智子の姿を見て佑樹の中で何かが動き出す。
―――――――――――――――

主演の古舘佑太郎さんはフリーアナウンサーの古舘伊知郎さんの息子さんで、最近はドラマや映画などでも見かけるようになった。僕が最初に名前を知ったのはたぶん、舞城王太郎著『淵の王』単行本の装丁写真を奥山由之さんが撮影していて、そのモデルとしてだ。印象深かったので、奥付で奥山さんが撮っているのを確認したらモデルのところに名前があった。出演していた桜井ユキさんは園監督『リアル鬼ごっこ』とかで知ったのか、『真っ赤な星』も観に行ったし好きな女優さんだった。猫顔というかかわいさとキレイさが時折表情で入れ替わる雰囲気がいい。


音楽を辞める最後の日に出会った親子とそこから物語が展開していく内容だが、監督がトークで言われていたが「青い」と思えるものだった。ゼロ年代初頭に単館系で観ていた雰囲気や温度が感じられた。監督が僕と世代が近いんだろうなと思う。


撮影場所の問題もあるのだろうが、最初にバイトに向かっている佑樹が渋谷のスクランブル交差点をギターケースを持ってバイトに向かっている。タワレコの前の郵便局の横断歩道で美智子の運転する車とぶつかってしまい、バイト先に車で連れて行ってもらうのだが、着いた場所がどう考えても下北の南口の王将前で、バイト先も下北沢なのだ。タワレコ前の道をあの向きで歩くと原宿方面。バイト前にギターを置きにライブハウスに向かっていて、事故ったので下北沢に行ったということなのだろうか、たぶん。そうじゃないと場所を知ってるだけになんかおかしい気がしていた。


『気球クラブ、その後』ぐらいでしか、日本映画で観た記憶がない気球が出てくる。それは例えば、地上から離れるということ、そして戻ってくる。というシーンがあるので、事故った時に実は死んでて、最後にその付近でのシーンがあるのでその時に生き返ったようのも見えなくもない。つまり、途中でぶつ切りに見えるところもこの考えでいくと死後の世界での出来事、そこで彼はある意味で「音楽を辞める」というひとつを死を乗り越えて、現実の日々に復帰していったというのも深読みだができなくもない。最後あたりでの白い羽もそういう意味にとれなくもないっていう。
また、後半にある中年男性と佑樹と美智子と健吾が車に乗っているシーンがあり、僕はそれを観ながら古川日出男著『ハル、ハル、ハル』っぽいなと思っていた。もしかしたら参考にしたのかなって。そうじゃなかったらこの工藤監督に『ハル、ハル、ハル』を実写でやってもらったらけっこういいんじゃないかなって思った。

曽我部さんは兎丸さんが主演した短編映画にも出演されていたし、ロロの舞台にも出演されていた。この作品がはじめての映画出演だったらしく、工藤監督はサニーデイ・サービス『クリスマス』のMVを撮影されているとのこと。曽我部さんのやわらかい物腰と雰囲気がすごくいい店長さんとして存在していた。曽我部さんがめっちゃヤバい人や怖い人を演じたらすごくおもしろそうだな。


監督はいろんな監督さんの助監督をされていて、映画を好きでこの仕事をはじめたのに映画が嫌いになっていた時に撮影したらしい。好きすぎて嫌いになってしまう。だから、物語的な部分をわりと排除したと言われていた。それは「青さ」に通じるし、物語が時折ぶつ切りのようなつながりになるのはその意思によるものだろう。工藤監督はこれが長編デビュー作品、だからこそ、これを作らないといけなかったのだろう。

上映後に曽我部さんにご挨拶をして帰った。iPod nanoをシャッフルしたら曽我部さんの曲がかかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?