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『WAVES/ウェイブス』

「イット・カムズ・アット・ナイト」のトレイ・エドワード・シュルツが監督・脚本を手がけた青春ドラマ。ある夜を境に幸せな日常を失った兄妹の姿を通し、青春の挫折、恋愛、親子問題、家族の絆といった普遍的なテーマを描く。フロリダで暮らす高校生タイラーは、成績優秀でレスリング部のスター選手、さらに美しい恋人もいる。厳格な父との間に距離を感じながらも、何不自由のない毎日を送っていた。しかし肩の負傷により大切な試合への出場を禁じられ、そこへ追い打ちをかけるように恋人の妊娠が判明。人生の歯車が狂い始めた彼は自分を見失い、やがて決定的な悲劇が起こる。1年後、心を閉ざした妹エミリーの前に、すべての事情を知りながらも彼女に好意を寄せるルークが現れる。主人公タイラーを「イット・カムズ・アット・ナイト」のケルビン・ハリソン・Jr.、ルークを「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のルーカス・ヘッジズがそれぞれ演じる。(映画.comより)

起きてから歩いてTOHOシネマズ渋谷にて『WAVES/ウェイブス』を鑑賞。予告編もよかったし、「A24」制作だし観ようと思っていた作品だった。

予告編を見るとエリートというか学校のカーストの上の方にいるスポーツマンでイケイケで可愛い彼女もいる兄のタイラーがある事件を起こしてしまい、そのことで妹のエミリーの学校生活にも暗い影を落とすようになってしまう。しかし、厳格な態度で息子の将来を思うからこそ厳しくしていた父が息子を追い詰めてしまったことを認め、娘のエミリーに心情を吐露して家族が再生していく話のように思える予告編だったし、そうなんだろうなと思っていた。

しかし、映画を観ていくと兄のタイラーが犯してしまった罪はあまりにも多く、こんなにシリアスな話なのか?という展開になる。せめて強盗だとかドラッグでなにかやらかすものだと思っていた僕が甘かった。

フロリダの陽気な気候やタイラーや恋人たちの青春のキラキラした世界、あまりにも眩しいその季節から物語は始まるが、次第に虹の原色に世界が覆われて輪郭があやふやになっていくように物語の色彩はその眩しさの光が失われていく。

厳格なキリスト教徒である父、そして黒人であるということなどもあって息子の成功を願っていた彼の思いと息子の距離は次第に離れてしまい、その掛け違ってしまったボタンがゆっくりとしかし確実にタイラーの人生を狂わせてしまう。日本人でありキリスト教徒ではない僕でもある程度はわかるのだが、アメリカに住んでいる人たちからすればリアルというかきわめて現実的なことだろうと想像はできる。

前半部分は兄のタイラーが光から闇へ落ちていって終わる。だからこそ、フロリダの眩しさが失われて、スクリーンにうつる画面のサイズもその後は小さくなっていく。
妹のエミリーが主軸となる後半は兄が起こしたことで家族が崩壊していていき、エミリーは心を閉ざす。学校でも兄が起こしたことで仲間外れにされSNSでは罵詈雑言が送られてくるからSNSはすべてやめてしまう。そこに現れた白人の青年ルークとの交流によって彼女も光のほうへ歩き出そうとする。と書くと青春映画だと思うのだが、ルークと付き合いだしてももうひとつ予告編には出てこなかったルークの家族を巡る問題が現れてくることになる。そこに非常にシリアスな話が展開されていくのが驚いた。

予告編やポスターなどにあるタイラーと恋人が海で抱き合っているあの瑞々しく生命力に満ちている十代の華やかさとは真逆のものが描かれていく。そう、この映画はそういうフリをしているが、前半の当初はそうだったが監督の実体験なども反映されているのだろう。
タイラーもエミリーも自分自身と家族と向き合うことになっていく。エミリーの場合はルークの家族とのことで自らの家族と向き合うことができるようになっていく。そうやって、世界に家族に自分の人生に向き合うことができるようになったエミリースクリーンの画面サイズも元に戻っていく。

プレイリストムービーみたいな言い方をしてたわりにはそこまででもなかったような気がしてしまうのは字幕でセリフのように歌詞の訳が出てきて、そこはいいんじゃねって思ってしまった。妹のエミリー演じてる女優さんが大竹しのぶさんの若い頃に似てた。

Radiohead『True Love Waits』は『Kid A』『Amnesiac』ツアーを武道館で観た時に初めて聴いた。まだ音源化されていなかった。今回映画で使用されているのはアルバムに収録されているものだったと思う。スクリーンに映される画面サイズが変わっていくことと流れる素晴らしい曲を味わうにはやはり映画館が一番良い環境だということは間違いない。


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