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『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』

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角川試写でニルス・タベルニエ監督『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』を鑑賞。フランスに実在する建築物「シュヴァルの理想宮」のまつわる実話を映画化したもの。
郵便配達員のシュヴァルが三十三年間ひとりで作り上げたということも驚きだが、毎日30キロ以上配達で歩きながら夜は石を運んでは建造していくその精神力もすごいとしかいいようがない、なにも知らずに聞かされると狂気の人の印象を受けてしまうだろう。しかし、彼があるきっかけで作り始めたこの理想宮は一人娘のアリスのために、という想いがあった。そして、妻であるフィロメーヌへの愛情も描かれていて、地味ながらとても素晴らしい作品だった。


シュヴァルは無口で人付き合いがほぼない人物のため、彼の思いはほぼセリフにはなっていない。その代わりに作られたこの巨大な建造物があまりにも圧倒的で彼の強い想いや愛情を感じさせる。
観ていると彼の妻の存在がとても大きく、理解者であった人が側にいたからこそ成し遂げられていることがわかる。実際なにか成し遂げる人の側には彼女のような寛大な理解者がいることが多い。
また、配達員として歩いて、石を運び続けた彼は強靭な肉体になっていたのだろう。足腰が強い彼だからこそ88歳で亡くなるまで理想宮を作り上げることができたはずだ。誰かかすれば狂気に見えるようなことも、その人自身は健全な肉体であることはけっこうデカい要素だと思う。健全な肉体に宿る狂気というのは村上春樹さんと古川日出男さんの対談で出ていたワードだったが、創作する人にとってはほんとうに肉体が大事だよなあと観ながら思っていた。
すごく淡々と描かれているし、大きな事件やハプニングはそんなにないので派手さはない作品だが、ほんとうに静かだけれど品のいい、やさしい作品になっていた。

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