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道草しつつ対話しながらつくるデザイン

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武蔵野美術大学大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダーシップ特論」の講義レポートです。
第11回 大阪芸術大学/三木 健 さん(2021.09.19)
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三木さんは3つの顔をもっている。大阪芸術大学のデザイン学科のグラフィックデザインコースの教員、美術専門学校の校長、デザイン事務所の経営の3つだ。
デザインを軸として教育の場、そして組織の経営・運営へ携わりながら、「共に育つことができる」ようなものを作れるように日々努力していらっしゃるという。
そんな三木さんのデザインの発想・構想法について伺った。

ブランディングとは

三木さんにとって、ブランディングとは「顧客や地域社会と絆を結ぶ。お客様のその先のお客様が喜ぶ顔を思い浮かべる」ことだそうだ。
そして、ブランドを作っていく。

三木さんのブランディングのステップは大きく以下の3つから成るとのことだが、まるで1人の我が子を大事に育てるような表現になっている。

①こころづくり(mind identity):理念を見つける、言葉にする
ネーミング、ステートメントを作る。理念の声
②かおづくり(visual identity):心の在り方が体に現れる。理念が通じたデザイン
③からだづくり(behovior identity):商品開発に伴った告知等を実際に行っていく

日本の社会では売れない物事はスクラップアンドビルドだ。しかし、人間ならそんなことはなく永遠に見守っていくという感だ。そして、モノづくりとコトづくりの考え方を修正して、社会へ繋げていくことを考えているとのことだ。

そして、デザインを行っていくに当たって、三木さんは「話すデザイン」「聞くデザイン」の両面からデザインを組み上げる。

話すデザイン・聞くデザイン

話すデザインとは「対話を可視化すること」だそうだ。また、話すためには、聞くデザイン、つまり「相手の考えをしっかりと理解すること」が重要となってくる。

人との会話に濾紙を投げかけて落ちたキーワードをすくいとるというような営みが行われている。
これは、理念の無いモノづくりをするひとはおらず、言語化できていないだけであると三木さんが考えていらっしゃるからだ。

話の断片、会話の中から理念に繋がるような言葉を探し、道草や寄り道の話の中に潜む発想のヒントを見つける。そしてそれらから仮説=妄想に似た物語の組み立て を行っていくそうだ。
そしてその物語を分解・編集することで語れる物語を作り、最終的にビジュアライズしていく。

なお、ここでの「聞く」という単語は聴覚からの情報・言葉に限らない。全身の五感から情報を得て、色々な物事を浮かび上がらせていくことを指している。


セレンディピティを鍛える

話すデザイン・聞くデザインを行うにあたって重要なことが「偶然の幸運に出会う力」=「セレンディピティ」だという。
故に、三木さんは道草、寄り道、遊び心を大事にしている。

その心は三木さんの事務所のルールにも現れている。
「書籍の並びを整理してはならない」というルールだ。
自分が目的としていた書籍を探しながら、何か違うものに巡り合い、そこから新しい発想が生まれる。
また、良き隣人の法則、というものもあり「パッと開いたところにある1ビジュアル、本文の1ワードで発想が広がることがある」という。

これからのデザイン

デザインを行うに当たって三木さんが大切にされていることは「グローカル」「着眼大局、着手小局」とのことだ。そして、情緒的価値・機能的価値だけでは人は満足せず、両者が重なった時に満足が生まれると考えているとのことだ。

現在は新しいものを作るときも定量的に数字で図りがちであり(主に機能的価値)、それは誰もが分かるものさしだが、果たしてそれで良いのかということがコロナ禍において更に問われている。そうして、数字しか知らない人は数字に裏切られる時代が来ていると考えていらっしゃるとのことだ。

そのような中でどのようなデザインを行っていくのか。
「meからweへ」という言葉で三木さんはそれを表現している。
これは自分自身だけでなく、社会と「共育ち」をすることで愛着をようなブランドを育てていく活動とのことだ。

所感

以前、プロダクトの成長についての話を他の方から伺ったことがあるが、その方も「我が子のようにプロダクトを育てる」とおっしゃっていた。
プロダクトも、ブランドも、お金を稼ぐための手段としてドライに作るのではなく、血の通ったものを作り上げることが今は重要なのかもしれないと感じた。

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