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『ファッション イン ジャパン1945-2020』〜時代を捉え、切り取るファッション〜

2021年8月7日(土)、戦後から現在に至るまでの日本のファッションの歴史を巡る展覧会「ファッション イン ジャパン1945-2020:流行と社会」に足を運んだ。

「もんぺからKawaii、さらにその先へ」という副題にふさわしく、第2次世界大戦中に女性が着用していたもんぺ、戦後洋裁ブームの中で才覚を表し、日本の魅力を世界に伝えたいと世界に飛び立った森英恵の作品、1964年東京オリンピックの日本選手団のユニフォーム、1970〜80年代に世界のファッションに新たな視座を提供した山本寛斎や川久保玲の作品、近年、世界を舞台に活躍している山縣良和や坂部三樹郎らの作品が会場には所狭しと並んでいた。写真でしか見たことのなかった服の数々が一堂に会し、目の前に広がっている特別な空間。現物を通して、作品の魅力や作者のこだわりを観察する体験は心躍るもので、足の疲れを忘れ、気が付けば3時間以上の時間が経過していた。本展で日本ファッションの変遷を辿っていく中で、私はふたつの言葉が頭に浮かんだ。ひとつは、フランス文学研究者でファッション雑誌に数多く寄稿している山田登世子の「流行の魅力は刻々と移りゆく儚さにあるのであって、永遠でないからこそモードなので」という言葉。もうひとつは、森英恵の「ファッションはその時代の表現であり、その時代を生きるもの」という言葉だ。本展に出品された作品はそれぞれ、制作時期や表現方法が千差万別だ。しかし、どれも、つくられた時代や社会情勢、当時を生きた人々の思いなど、その時代でしか感じることのできないきらめきや空気をたっぷりと吸収しているように見えた。1920年代モダンガールとしてワンピースを履いていた女性が、戦時下の1940年代には洋服を脱ぎ棄て、モンペを履いた。また戦後GHQの統治が行われると、多くの女性が洋服を着用した。また近年は環境問題に意識を向けた服がつくられるようになっている。このような現象は、ファッションが時代を捉え、切り取り、形作るからこそ発生する現象なのだと展覧会を通して感じた。

またファッションは時代を捉え、切り取り、形作るのとは対照的に、新たな価値観を社会に投げかけたり、既存の社会の枠組みや、人々の考え方に変化を与えたりもする。COMME des GARÇONSを立ち上げた川久保玲は穴の開いた服をコレクションとして発表し、多くの人々が美しさやファッションについて考え直すきっかけを作った。またwrittenafterwardsを立ち上げた山縣良和はごみ箱などファッションとは無関係に思われていた素材を使い、服を作ることでファッション自体について考え直すきっかけを与えた。日本人デザイナーたちが、メッセージを込めて服を作り、その創作を通じて人々の既存の価値観に揺さぶりを掛けたことを、本展覧会をきっかけに知り、ファッションが人々の考えや価値観、そして社会の枠組みを変化させる力も持っているということも学んだ。

「日本のファッションは未来に何を示すことが出来るのか」という問いで展示会は終わる。新型コロナウイルス感染症、人種差別、地球温暖化など、今、世界中で様々な課題が顕在化しており、人々は今までに感じたことのない閉塞感や疲労感を感じている。また今までの当たり前が崩壊し、新しい生活が推奨される中で、人々の価値観にも大きな変化がもたらされている。そんな今、私は、社会に対して、どのようなメッセージを届けるべきなのだろうか。そして、それはどのような形で届けるべきなのだろうか。本展は、こうしたことを考えるきっかけを与えてくれた。
どのような問いに注目し、その問いに対して、いかに解を導き出すのか、すぐに答えは出せない。けれど時代を切り取ってきたたくさんの服、それをつくってきたデザイナーたちのように、今を捉え、今しかできない表現を追求していきたいと思った。

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